蘭子、合コンに行く

 私は西園寺蘭子。霊能者です。除霊、浄霊、お祓い、占いなどを承っています。




 今日はお仕事ではありません。


 今まで何度も誘われてお断りしていた「合コン」に出席してみる事にしました。


 もちろん、主催は親友の八木麗華です。


 一人で行くのは心細いので、同居人の霊媒師である小松崎瑠希弥と行く事にしました。


 その事を麗華に伝えると、


「えええ!? そうなんか? あの子が来ると、ウチら、不利やで」


「どうして?」


 私は不思議に思って尋ねました。


 こちらも三人、あちらも三人であるなら、不利も有利もないと思うのですが。


「蘭子は何も知らんねんなあ。合コンはな、バトルなんや」


「バトル?」


 私は完全にキョトン状態です。


「男っちゅう生きもんはな、若い女が大好きやねん」


 麗華の合コン講座が始まります。長くなりそうなので、私は携帯をスピーカ状態にして、机の上に置きました。


「若い女って……。麗華も私も、若いでしょ?」


 すると麗華の溜息が聞こえました。


「確かにウチらは二十代やから、全体で見れば若い部類や。けどな、二十代も、十代には勝てんのや」


「そうなの?」


 確かに女子高生を見ると、ちょっと負けてるような気がしてしまう事はありますが。


「よし。瑠希弥が来るんなら、男のメンツを考えんとな。ほな、またな」


 あら? 意外に短い講座でした。まあ、良かったですけど。


「遅くなりました!」


 瑠希弥が息を切らせて帰って来ました。


「大丈夫よ、まだ時間はあるから」


「そ、そうですか」


 瑠希弥は妙にソワソワしています。


「どうしたの、瑠希弥?」


 瑠希弥はポッと頬を朱に染めて、


「私、男の人とお話しするの、初めてなんです。何だか、ドキドキしてしまって」


 私は微笑んで、


「私も男の人が苦手だったから、あまり話した事ないの。今日は苦手意識を克服しましょう」


「はい、先生」


 瑠希弥は笑顔で答えました。


 確かに、殿方は、こんな子が好きなのでしょうね。


 私達は一度私のマンションに戻り、それなりの服に着替える事にしました。


 私は変に気取らない方がいいと思ったのですが、麗華が、


「絶対カジュアルな服で来たらあかんで!」


と釘を刺されたのです。


「これでどうでしょうか?」


 瑠希弥が着替えを終えたようです。


「え?」


 それは、私と瑠希弥が初めて出会った時の霊媒師の服でした。あちこちがキラキラしてます……。


 確かに「カジュアルな服」ではありませんが……。


「うーん。それだと、派手過ぎない?」


「そうですか? でも私、後はスーツしかありません」


 瑠希弥は悲しそうに俯きました。


「スーツでいいのよ。私もそうするから」


「わかりました」


 私達は、結局お洒落と縁遠いのかも知れません。


 でも、麗華の普段の服装から考えて、彼女にだけはファッションセンスをあれこれ言われたくないのも確かです。




 そして約束の場所へ行きました。まだ約束の時間まで二十分ほどあります。


 イタリアンレストランで、個室があるところです。


「おう、来たか」


 そこには麗華が一番乗りしていました。


 相変わらず、目を疑うようなファッションです。胸は半分見えていますし、スカートも短過ぎます。


 そして、イヤリングは耳が取れそうなくらい大きいです。


「蘭子、あんたら、法事の帰りか?」


 言われてしまいました。確かに黒系のスーツだと、そう見えてしまいます。


 ましてや、私と瑠希弥はそういう商売ですから、余計似合ってしまっていますね。


 私は麗華の隣に座り、瑠希弥がその隣に座ります。


「う……」


 瑠希弥が急に震え出しました。


「どうしたの、瑠希弥? 冷房効き過ぎ?」


 私が尋ねると、瑠希弥は首を横に振って、


「何かが来ます……。もの凄く悪意に満ちた何かが……」


「どういう事?」


 私が更に尋ねようとした時、個室のドアが開き、男の人が入って来ました。


 イケメンです。麗華の好みです。


 でも、私は好きになれないタイプです。


 瑠希弥の震えが酷くなりました。


「この人?」


 私は瑠希弥に小声で尋ねます。


 瑠希弥は黙って頷きました。


「今宵はお招きに預かり、光栄至極です。僕、有栖川光太郎です」


 そのイケメンさんは、フッと笑って髪を掻き揚げました。


 ナルシスト? 


 でも、その程度で瑠希弥が震えるはずがありません。


 肝心の麗華は、有栖川さんの「イケメンビーム」で役立たずになっています。


 私は震える瑠希弥の肩を抱き、


「貴女が感じている事を私に伝えて」


と囁きました。


「おうおう、今日は大漁の予感や!」


 麗華は狂喜しています。


「今晩は」


 次に入って来たのは、双子のイケメンさんです。


 この二人からは「邪気」を感じません。


 瑠希弥から伝えてもらったのは、恐ろしい波動でした。


 有栖川さんは、「女子高生キラー」なのです。


 彼が今まで付き合って来たのは、全員女子高生。


 しかも、頂く物だけ頂いたら、捨てているのです。


 人の皮を被った鬼か悪魔ですね。


 十代の瑠希弥が震えるはずです。


 有栖川さんの背後には、幾人か自殺をした女子高生の霊が憑いています。


 そして予想通り、有栖川さんは積極的な麗華を完全に無視して、瑠希弥の前に座りました。


「君、可愛いねえ。何歳なの?」


 有栖川さんは、その裏の顔を隠して瑠希弥に尋ねます。


「じゅ、十八歳です」


 瑠希弥は震えながら答えました。


「へえ、そうなんだ。大人っぽいね」


 一瞬ですが、有栖川さんの裏の顔が見えました。


「何や、こいつ。子供は嫌いです、とか言いよったくせに」


 麗華が小声で毒づきました。


「麗華、見えるでしょ、この人の後ろに」


「ああ、見えとる」


 麗華もようやく冷静な目を取り戻したようです。


「あのォ、お仕事は何をされているのですか?」


 双子のイケメンさんが、私達に話しかけますが、私も麗華も有栖川さんを見たままです。


「あのお……」


 双子さんがそれでも笑顔で話しかけてくるので、


「ああ、霊能者や。悪霊を退治しとる」


と麗華が有栖川さんを見たままで言いました。


 双子さんはビックリしています。


 有栖川さんは瑠希弥に話しかけるのに夢中で、気がついていないようですが、彼に憑いている霊達が私達に敵意を剥きだしにし始めました。


「心配しないで、私達は貴女達の味方よ」


 私の言葉に、女子高生の霊達は顔を見合わせました。


「有栖川さん、貴方に悪い霊が憑いています。今除霊しますね」


「え?」


 有栖川さんは、ようやく自分の事を言われているのに気づいたようです。


 私は麗華と息を合わせて帝釈天の真言を唱えました。


「インダラヤソワカ!」


 バチバチッと雷撃が走り、有栖川さんを直撃します。


「ぎょええええ!」


 有栖川さんは感電し、バッタリと倒れ伏しました。


「……」


 唖然として固まる双子さん。ホッとした顔の瑠希弥。


「さあ、もう逝き。あんたらが呪って殺すほどの値打ちもないわ、このボケは」


 麗華が女子高生達の霊を諭します。彼女達は頷き、消えて行きました。


「仕方ないなあ、有栖川はんは。もう潰れてもうたんか?」


 麗華はガハハと笑い、


「しゃあないな。別のメンツ、呼ぶわ。それまで待っててな、蘭子」


 でもその必要はありませんでした。


 双子さんは、知らないうちに逃げ去っていたのです。


 初めての合コンは、散々なものになりました。


 


 西園寺蘭子でした。

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