誤解は反対?
私は西園寺蘭子。霊能者です。
先日、昔の病気が再発してしまい、私は一緒に暮らしている霊媒師の小松崎瑠希弥のベッドで目を覚ましました。
瑠希弥は大喜びしていましたが、私は恥ずかしさでいっぱいです。
しかも、瑠希弥には、「もしかして、女性が好き?」という疑惑が湧いて来ました。
G県に住んでいる親友の箕輪まどかちゃんからのメールで、
「瑠希弥さんに彼を盗られるかと思いましたが、全然眼中にないみたいでホッとしました」
と教えられました。
その時は、只微笑ましかったのですが、最近の瑠希弥の言動を見ていると、まどかちゃんの話が別角度で見えて来たのです。
まどかちゃんの彼は、写メで見ましたが、イケメンです。
多分、私の大阪の親友である八木麗華なら、襲いかかるでしょう。
あ。ごめんね、麗華。
でも、瑠希弥はその彼をメロメロにしたにも拘らず、全く興味を示さなかったのです。
勘繰り過ぎかも知れませんが。
それに、
「今度は私が先生のお部屋で一緒に寝てもいいですか?」
と頬を赤らめて言われると、退いてしまいそうです。
純情な瑠希弥ですから、そんな態度をとれば傷つくと思いますので、
「ええ、そうね。是非」
と合わせています。
そして私は、麗華が東京に来たのを良いきっかけに、彼女に相談する事にしました。
瑠希弥は依頼を受けた場所の下見に出かけたので、私は麗華を事務所に呼びました。
「なるほどなあ」
麗華は妙に嬉しそうです。
「ちょっと! 面白がっていないで、ちゃんと相談に乗ってよ」
私はムッとして言いました。すると麗華は、
「案外、逆なんちゃう?」
「え? どういう意味?」
私がキョトンとしていると、
「あの子の方が、あんたをそういう人やと思ってるんやないか?」
「ど、どうして?」
麗華は呆れ顔で、
「そもそも、あんたが一緒に暮らさないて言うたんやろ? で、あんたがいきなりあの子のベッドに潜り込んだんやろ? そら勘違いされるで」
「あ!」
そうです。そもそもの原因は、私なのです。
この前除霊に訪れた風俗店で、瑠希弥があっさり霊に取り憑かれてしまったのは、そのせいかも知れません。
「彼女の誤解を解かんと、また何かあった時、対処できへんで」
麗華はいつになく真面目な顔で言いました。
「あの子は、ホンマにええ子なんよ。だから、蘭子がそういう人なら、それに合わせてもええて思うとるんやで」
「そ、そうね……」
瑠希弥の事を警戒するあまり、私は彼女の気持ちを全然理解していなかったのです。
「あの子は純真過ぎる。もし、どうしてもそないな関係がええのなら、ウチが相手したるで、蘭子」
顔を真っ赤にして麗華に言われた時、私はドン引きしてしまいました。
「あ、ありがとう、麗華」
その時の私は、これでもかというくらい、表情と言葉が一致していませんでした。
麗華は自分の事務所に戻りました。
そしてそれからまもなく、瑠希弥が帰って来ました。
「瑠希弥、話があるんだけど」
「は、はい!」
瑠希弥は真っ直ぐに私を見つめます。
私は意を決して、言いました。
私はそういう人ではない事を。
すると瑠希弥はホッとしたようです。
「そ、そうなのですか。ああ、そうなのですか」
あまり嬉しそうにすると失礼だと思っているのか、彼女は抑え気味に言いました。
「だから、無理に私と一緒に寝なくてもいいのよ」
「はい」
誤解は解けたようです。
「じゃ、行きましょうか」
「はい、先生!」
早速仕事です。
今回は、マンションの建設現場です。
地鎮祭を執り行ったのですが、地縛霊がいたらしく、工事が進められないそうです。
「霊のプロフィールです。男性で、享年五十歳。現場の土地の元所有者で、地上げ同然の方法で立ち退かされたようです。それで、その恨みから現場で焼身自殺をしました」
瑠希弥の下調べがあるおかげで、私の仕事はとてもし易くなっています。
「ご家族はいないの?」
「はい。奥さんは亡くなっていて、子供はいません。孤独な方だったようです」
瑠希弥はちょっとだけ霊に肩入れしてしまっているようです。
「わかりました。除霊ではなく、浄霊にしましょう」
「はい、先生」
私は現場に到着すると、祭壇を組み、浄霊を開始します。
「ふおおおお! 俺に干渉するなああ! 放っておいてくれええ!」
男の霊が鬼のような形相で現れます。
「瑠希弥!」
「はい!」
私は瑠希弥に、彼の奥さんの霊を降ろしました。
「貴方……」
瑠希弥が奥さんの声で語りかけます。
「つ、月美……」
男の霊は狼狽えました。表情が穏やかになります。
「貴方、もういいでしょう? 私をいつまでも一人にしないで下さい。こちらにいらして下さい」
奥さんの言葉に、男の霊は鎮まりました。
「わかった。行こうか、月美」
「ええ」
二人は抱き合い、天に昇って行きます。
「ありがとうございました」
お礼を言われました。霊能者をしていて、一番嬉しい瞬間です。
「帰りましょうか、瑠希弥」
「はい、先生」
私達は車で事務所に向かいます。
「瑠希弥は好きな人とかいないの?」
私は会話を思いつけなくて、そんな事を聞いてしまいました。
「さ、西園寺先生です!」
「そういう意味じゃなくて。男の人で好きな人はいないの?」
瑠希弥は黙り込んでしまいました。
「私、男の人が怖いんです。子供だと、何ともないんですけど」
「そうなの」
だからまどかちゃんの彼は平気だったのね。まどかちゃんが知れば、怒りそう。
「私もそうだったけどね」
私がそう言うと、瑠希弥は私を見て、
「先生はおモテになると思っていましたが?」
と意外そうだ。私は苦笑いして、
「実は恋愛経験ゼロなのよ」
「そうなんですか?」
もの凄く驚かれてしまいました。そうかも知れませんけど。
「今度、麗華の合コンに参加してみる?」
「え? 八木様のですか?」
瑠希弥は麗華が苦手のようです。困った顔をしています。
「私も怖いんだけど、何事も経験だから」
「は、はい! 是非参加させて下さい!」
急に意気込む瑠希弥を見て、私はクスッと笑ってしまいました。
次回は合コンか。
西園寺蘭子でした。
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