悪霊の言い分

 私は西園寺蘭子。霊能者です。腕が良いと思われていますが、実はとても弱い人間です。


 その事を示すのに良い事例があります。それをこれからお話しましょう。


 


 私は数年前、ようやく独り立ちして活動を始めた新米でした。まだ親友八木麗華とも出会っていません。


 ある人の依頼で、取り壊し予定の廃ビルに行きました。


 ここに悪霊が棲みつき、工事を妨害しているのです。


 怪我人も多数出ており、一人亡くなった方もいます。


 私は霊に話を聞かされ、同情してしまって危うく命を落としかけた事がありました。


 ですから、その頃は、非情に徹していて、情け容赦なく除霊していたのです。


 霊の世界でも、私の名は知られているようで、私が現れると観念して自ら浄化を希望する霊もいました。


 そのせいで、私は自覚はないながらも、自惚れていたのかも知れません。


「はっ!」


 私はその廃ビルに入った途端、空気が変わったのを感じました。


 今までの霊と違う。明らかに憎悪の塊になっています。


 もう浄化は無理だと判断しました。ところが、それが誤りでした。


「オマエカ、レイノウシャハ? オレハジョウカサレナイゾ!!」


 悪霊が敵意剥きだしの妖怪のような姿で現れました。私はお札を取り出し、


「そうね。貴方は消し飛ばすしかないようね」


と言い返しました。悪霊は大笑いをして、


「オマエゴトキ、ヒヨッコニ、ナニガデキルカ!」


「その口、封じてあげるわ!」


 私はお札を投げつけました。しかし、悪霊には通じませんでした。


「オロカモノメ、ソノヨウナモノガ、オレニツウジルカ!」


 私は動揺してしまいました。そのお札は、私が使っているもので最強だったのです。


「そんな……」


 なす術がなくなり、私は硬直してしまいました。


「オマエモ、オレノクルシミヲ、シレ!」


 悪霊が私に襲いかかりました。私は防御もできないまま、彼の悪意をうけてしまいました。


「あ……」


 その時、彼の心が見えました。


 彼はこのビルを建てた時に転落死した作業員でした。


 彼の事故は隠され、遺族はビルの所有者に弔慰金をもらって口をつぐみました。


 結局、きちんと弔われなかったため、彼は地縛霊となってここに居ついてしまいました。


 やがて彼の周囲に悪意が集まり、彼は悪霊になってしまったのです。


 弔ってもらえなかった悲しみと、金で口を噤んでしまった家族への怒りで、彼は暴れました。


 ビルでは怪奇現象が続き、人が寄りつかなくなりました。


 それが原因でテナントが出て行き、転売が続き、最終的に取り壊しが決まったようです。


「ごめんなさい」


 私はいつの間にか泣いていました。すると霊が悪意を放つのをやめ、人間の姿に戻りました。


「やっと巡り合えた。私の心を見てくれる人に……」


 作業員の霊は笑顔で言いました。


 私は彼が成仏できるように祈りました。


「ありがとう。これで私もあちらに行ける」


 彼は光に包まれ、天に昇って行きました。


 


 私はそれからは、必ず霊の言い分を聞いています。もちろん、同情はしませんが。


 彼らがこの世に居ついてしまうのは、生きている人達のエゴが原因なのですから。

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