格の違い
私は西園寺蘭子。霊能者です。
最大最凶の敵である内海帯刀が現れました。
いけない私の全力の攻撃も、麗華や椿直美さんや江原雅功さんとの連携攻撃も通じません。
もはやこれまでかと思われた時、江原さんのお師匠様の名倉英賢さんがやって来ました。
帯刀の張った結界を難なく通り抜けるところがさり気なく凄いです。
「相も変わらず、勿体ぶる男よの、英賢」
帯刀はニヤリとして言いました。すると英賢さんは鋭い目で帯刀を睨みつけ、
「お前のような卑怯者にとやかく言われとうないわ」
卑怯者と言われたのが
「二度とそのような戯けた事を言えぬようにしてやろうぞ、英賢!」
途端に帯刀の結界が消え、代わりに竜巻のような気の流れが生じました。
凄まじい勢いです。
「ちょっと!」
麗華は
「先生!」
下がろうとしないいけない私を弟子の小松崎瑠希弥と椿さんが抱きかかえるようにして下がらせました。
「あの気の流れでは、真言も届くかどうか……」
椿さんが目を見開いて呟きました。瑠希弥も頷き、
「ええ。内海帯刀の強さはまさにあの二重の結界にあります」
「そんなもの、私がまとめて吹き飛ばしてやるよ!」
それでも強がりをやめないいけない私です。さっき、心の中での会話で、
『根拠なく言い返している訳じゃないぞ』
そう言っていましたが、どんな事を考えているのかは私にはわかりません。
「どうした、帯刀? 以前より気の流れが弱くなっているぞ?」
英賢さんがフッと笑って言い返します。そして、帯刀に劣らない気の流れを放出しました。
台風が二つ現れたようで、私達は立っているのがやっとです。
「はああ!」
気合いを上げた二人の姿が見えなくなりました。
「何という凄まじい戦いだ……」
江原さんはそれを目で追っているらしく、驚愕しています。
「確かにすげえな。あのジイさん、強いんだな」
いけない私にも見えているらしいのですが、私には感知できていません。
「先生、まさにそれです。お二人の幹を同じ根にまで戻って一つにすれば、帯刀を上回る力を発揮できるはずなんです」
瑠希弥が気の流れに
「そうだな。でも、まだもう一人の蘭子にはその準備ができていない。しばらく私が頑張るしかないのさ」
いけない私が真顔でそう言うので、私に原因があるように聞こえます。そうなのかも知れませんが、何か釈然としません。
「西園寺さん、今です。帯刀が結界を解いている今がチャンスです」
江原さんが言いました。ところがいけない私は、
「嫌だよ、雅功。私はそういう戦い方はしたくないんだ」
また江原さんを呼び捨てにした上、作戦を拒否しました。後で本当にお詫びしないと。
「ええ? そんな事を言っていたら、勝てませんよ、西園寺さん」
麗華のお父さんの矢部隆史さんが仰天して言いました。それはそうです。
帯刀が結界を張っていないのを利用しないなんて、何を考えているのかわかりません。
「じゃあ、試しにやってみろよ、麗華」
いけない私は麗華を見ました。いけない私にはとても素直な麗華は、
「はい!」
そう言うや否や、
「オンマカキャラヤソワカ」
「やったで!」
麗華は直撃を確信したのか、ガッツポーズをしました。ところが、
「オンアボキャベイロシャノウマカボダラマニハンドマジンバラハラバリタヤウン」
最強の防御真言である光明真言を帯刀が唱えました。それによって、大黒天真言は打ち消されてしまいました。
「まさか!?」
麗華は仰天しました。邪法に手を染めた帯刀には光明真言は唱えられないはずだからです。
「どういうこっちゃ?」
麗華はその答えをえようと矢部さんを見ました。しかし、矢部さんにもお母さんの岡本教授にも答えはわからないようです。
「しかも、お師匠様と打ち合いながら真言を繰り出すとは……」
江原さんも唖然としていました。やはり、人外と言われるだけあって、私達の考えの及ばない存在なのでしょうか?
「いえ、違います」
超絶的な感応力を駆使していた瑠希弥だけが、帯刀の力の
それでも、その瑠希弥ですら、驚きの表情を浮かべています。
「そんな事ができるの?」
彼女は震えていました。何が見えたのでしょうか?
「そこな
帯刀は英賢さんと目にも止まらぬ撃ち合いを続けながら、瑠希弥を見てニッと笑いました。
あの余裕……。一体彼はどういう存在なのでしょうか?
「英賢、温いわ。うぬもやはり我の敵にあらず」
帯刀は真顔になってそう言うと、英賢さんを地面に叩き伏せました。
「ぐう……」
英賢さんは口と鼻から血を流してアスファルトに減り込んでしまいました。
「お師匠様!」
「英賢様!」
「英賢さん!」
「ジイさん!」
私達は異口同音に叫んでいました。
「うぬは最後に殺す。うぬに関わった全ての者が死んでいくのを見てから、死ぬるがいい、英賢!」
帯刀は血走った目でそう叫ぶと、英賢さんを踏みつけ、私達を睨みました。
「うぬらが
帯刀は強烈な気を発して私達を威圧してきました。
「バカか、お前は? そのジイさんよりこの西園寺蘭子様の方が何十倍も強いのがわからねえのか?」
いけない私がまた前に出て大見得を切りました。恥ずかしいを通り越して、怒りを覚えました。
「何を面食らってるんだ、麗華? 今のはネクロマンサーの近藤の時と同じ要領だろ? もう一人の魂を封じ込めて、そいつに真言を唱えさせただけだ」
いけない私はドヤ顔で言い放ちました。ああという顔で納得する麗華ですが、瑠希弥は眉をひそめたままです。
理由を訊きたいのですが、いけない私にはそのつもりはないようです。
「お師匠様から足を退けろ、外道!」
江原さんが怒鳴りました。その顔も怒りに燃えており、いつになく殺気立っています。
「綾乃さん、また貴女を裏切って禁呪を使うけど、許してください」
矢部医師が岡本教授に言いました。彼の周囲に黒いものが浮遊し始めました。
「ゆ、許すよ、隆史君」
岡本教授はビクッとして応じました。
「そうよ。本気で来ねば面白うない。それでよい」
帯刀は愉快そうに笑いました。憎らしさが倍増した気がします。
「はああ!」
江原さんは風を巻いて突進し、矢部さんは黒いものを身に纏って駆け出しました。
「それでもまだ届かぬわ!」
帯刀の言葉通りでした。江原さんの右の突きは帯刀の右手の人差し指だけで押し止められ、矢部さんの黒魔術は光の結界で封じられてしまいました。
「バカな……。何故光と闇を同時に扱えるのだ……」
江原さんは止められた衝撃で複雑骨折したのか、右腕のあちこちから血を噴き出しながら膝を着きました。
「ぐわあ!」
矢部さんは光の結界によって闇の力を焼かれ、燃えながら地面を転げました。
「隆史君!」
「おとん!」
岡本教授と麗華が駆け寄りました。炎はすぐに消えましたが、ダメージは大きいようで、矢部さんは立ち上がれません。
『ゾクゾクしてくるよなあ、もう一人の蘭子?』
いけない私は心の中で話しかけて来ました。不謹慎きわまりないですが、彼女なりの怒りの表現のようです。
『そろそろ腹を決めろ、もう一人の蘭子。間に合わなくなっちまうぞ』
そうも言われました。一体何をどう決めればいいのでしょうか?
ふと見ると、瑠希弥と椿さんも私をすがるような目で見ていました。
本当に急がないといけないようです。
でも、どうすれば?
西園寺蘭子でした。
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