情話編

蘭子、恨みを買う?

 私は西園寺蘭子。霊能者です。除霊、浄霊、お祓い、骨董品の鑑定、占いなどをお受けしています。


 先日、村上法務大臣の護衛を引き受け、ちょっとだけ大臣に心を惹かれました。


 娘さんも同席でしたが、お食事に誘われ、ドキドキしながら過ごしました。


「また会いたいな、蘭子さんに」


 大臣の愛娘である春菜ちゃんにそう言われました。


「でも、あの関西の人は呼ばないでね」


 私は苦笑いするしかありませんでした。可哀相な麗華。


 どうして皆さんに敬遠されるのか、本人に考えてもらう必要があるかも知れません。




 そんな事があってから数日。事務所で書類を整理していた時です。


 村上大臣はお仕事が忙しくなり、全く家に帰って来ないと春菜ちゃんからメールがありました。


「あら?」


 私はそのメールを開封した時、妙な気を感じました。


「何だろう?」


 私は第六感を研ぎ澄ませて、その正体を探りました。


「キャッ!」


 突然携帯から火花が走り、私は思わず手を放しました。


 当然の事ながら、携帯は重力に引かれて地面に落下し、床に当たって砕けてしまいました。


「あーあ」


 それほど高かった訳ではありませんが、機械に疎い私は、やっと慣れたその機種に愛着があったのです。


 ちりとりで拾い集めて、レジ袋に入れます。


 とても修理できない状態に見えますが、万が一という事も考えられるので、細かい破片に至るまで拾いました。


「?」


 さっき感じた気は、完全に消えていました。火花と関係があるようです。


 となると、発信元の春菜ちゃんも危ないかも知れません。


 私はレジ袋を携え、事務所を出ました。


 春菜ちゃんの高校の場所はわかりますので、そこへと向かいます。


「え?」


 車のエンジンがかかりません。まずいと思い、


「オンマリシエイソワカ!」


と摩利支天の真言を唱えました。


「ヒーアー!」


 悪霊が叫び、消滅しました。


「どういう事?」


 私は車を降り、バス停に向かいました。


 バスなんて、高校以来乗った事がありません。


「ああ!」


 今度はバスが歩道に乗り上げて、バス停に突っ込んで来ました。


「危ない!」

 

 私は逃げ遅れたお婆さんを連れ、その場から逃げました。


 バスはバス停の屋根と支柱に激突し、止まりました。幸い、乗客はおらず、運転手さんも無事のようです。


「何、これ?」


 私は交通機関を使うと危ないと思い、徒歩で春菜ちゃんの高校に向かう事にしました。


 すると今度は、上空を飛んでいた烏が、私に向かって急降下して来ました。


「オンマリシエイソワカ!」


 再び摩利支天の真言で烏達に取り憑いている悪霊を浄化します。


(本当にどういう事?)


 先日倒した敵が復讐して来たのでしょうか?


 そんな根性ないと思うのですが。


 違うようです。感じた気の質が別の物です。


 憎悪。もの凄い強さです。


 そんな恨みを買う覚えはないのですけど。


 敵の標的は私のようですので、春菜ちゃんは大丈夫です。


 私は敵との対決に集中する事にしました。


「こっちね」


 私は敵のいる方へと走りました。それほど離れていないようです。


「あ」


 私は思わず立ち止まってしまいました。


 そこにはあの箕輪まどかちゃんのお兄さんである慶一郎さんがいたのです。


 慶一郎さんは誰かを待っているらしく、時々腕時計を見ながら、周囲を見渡しています。


 私は思わず隠れてしまいました。あの人、苦手なんです。


「は!」


 また敵が動きました。


「く!」


 いきなり背後から、悪霊に取り憑かれた野良犬が襲いかかって来ました。


「オンマリシエイソワカ!」


 悪霊を消し飛ばします。すると、その声に気づいた慶一郎さんがこちらに近づいて来ました。


「蘭子さーん!」


 嬉しそうに手を振りながら走って来ます。


「……」


 私は作り笑いをして手を振り返しました。知らないフリもできませんから。


「奇遇ですね」


 慶一郎さんがそう言いかけた時、


「慶君」


と声がし、何か黒い物が動きました。


 何? いえ、誰、かな?


 最初は人だと思わなかったのですが、それは間違いなく人でした。


「ひ!」


 慶一郎さんは、何故か顔を引きつらせてます。


「行きましょ、慶君」


 黒いものの正体は、女性でした。


 漆黒という表現が一番合っている長い髪。顔の半分を覆い隠すそれは、生き物のようです。


 そして、闇と例えるのがいいと思われる色のワンピース。スカートの丈は、足首まであります。


 靴も真っ黒で、先が尖っています。


 全体を例えると、「魔女」。


 慶一郎さんは何度も振り返りながら、その女性と歩き去ってしまいました。


「もしかして、今のが?」


 敵? でもどうして?


「ああ!」


とそこに聞き覚えのある声が。振り返ると、更に見覚えのある顔が。


「麗華」


「蘭子!」


 麗華はどうやら慶一郎さんを見かけてここに来たようでした。


「誰や、あの女? 化けもんみたいな奴やな」


 麗華は腕組みして呟きました。


「ええ、そうね」


 私は、あの「魔女」さんを何となく知っているような気がしました。


 でもどうして怨まれているのかはわかりませんでした。

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