八木麗華危機一髪(前編)

 ウチは八木麗華。大阪では一番の霊能者や。

 あん? 何で日本やのうて大阪なんやて? 細かい事、気にすんなや。

 東京に、ウチのマブダチの西園寺蘭子がおるからやないか。

 蘭子には何度か命を助けられとるから、あの子にウチは敬意を表してるんや。

 だから、大阪で一番てうとくねん。

 ウチ、慎ましいやろ? ガハハ。

 え? G県の小学生に語り口が似とる?

 アホな事言いないな。何でウチがあんなアンポンタンのガキと一緒にされなあかんねん?

 しばいたろか、ボケ!

 おっと。つい、言葉が下品になってしもうた。

 偉いすんまへん。堪忍やでェ。

 あ、すまん、蘭子。前説が長過ぎたな。

 ほな、後は頼むで。さいなら。


 もう。麗華は騒ぐだけ騒いで、何も後片付けしないのですから、本当に困ります。

 ああ。私は西園寺蘭子です。除霊、浄霊、お祓い、骨董品の鑑定など、お受けしております。

 先日、法務大臣のお嬢さんを助けて、その縁から私も大臣の警護を依頼されました。

 どうやら、麗華が私のマネージャーだと言ったようです。

 可哀相な村上法務大臣。一体どれほどの「ファイトマネー」を要求されたのでしょう。


 そんな訳で、私と麗華は法務省の大臣室に呼び出されました。

 途中で何度も身体検査をされましたが、麗華が怒り出し、一番最後はパスとなりました。

「ウチはここに何度来たら、顔パスになるねん?」

 麗華のイライラもわかりますが、彼女の服装では、何度来ても要注意人物でしょう。

「不愉快な思いをさせて申し訳なかったね」

 大臣室に入ると、大臣の席に座った紳士然とした男性が言いました。どうやら村上大臣その人のようです。

 テレビで見るより、ずっとイケメンですね。麗華はサービス価格で引き受けた事でしょう。

「まだ続いてるんか、大臣?」

 麗華はソファにふんぞり返って尋ねました。私はその隣にチョコンと座りました。

「いや、違うようだ。君に先日もらったお札が破られた。この前より、上の奴らしい」

 大臣は、ボロボロになったお札を机の上に出しました。

「あれを破った? そらまた、強烈やな」

 麗華は信じられないという顔で私を見ました。

 確かに麗華が大臣に渡したお札は、そんじょそこらの悪霊や術者には破れない代物です。

「あ!」

 私はその時、以前感じた事のある気を感じました。

「麗華、これって……」

 麗華も気づいたようです。

「ああ。こいつはあれや。G県でとっちめた坊主の気ィと似とる。多分、同じ術者のもんやな」

 G県で出会った乗如というお坊さんは、心霊現象を商売にしてお金儲けをしている一団のメンバーらしく、いろいろと調べたのですが、何もわかっていない状態です。

「知っているのかね?」

 大臣が尋ねます。麗華は大臣を見て、

「知ってるも何も、一度そいつらの仲間とやりおうとるからな。これは、遠回しの罠やな、蘭子?」

 私は麗華の推理に全面的に賛成ではありませんが、

「そうかも知れないわね」

と同意しておきました。そうしないと、麗華のご機嫌が悪くなるからです。

「大臣、安心しとってええで。ウチと蘭子が組んだら、最強や。な、蘭子?」

 麗華の言葉に、私は苦笑いするしかありませんでした。

「了解した」

 大臣は立ち上がって、

「よろしくお願いしますね、西園寺さん」

と微笑んで言ってくれました。

 何でしょう? 私は今までに感じた事のない気持ちになりました。顔が紅潮しているのがわかります。

「何でや? 何で蘭子だけにそないな事ゆうねん、大臣? 贔屓はあかんで」

 人一倍そういう事に敏感な麗華が騒ぎます。大臣は頭を掻いて、

「いや、そんなつもりはなかったのだがね」

「ホンマか?」

 それでも疑う麗華です。もう。別の意味で顔が赤くなって来ました。


 そして。ある場所にて。

「そうか。やはり、出て来たか?」

 薄暗がりで話す二人の男。

「はい、座主様」

 どうやら、以前乗如が「お師匠様」と呼んでいた男のようだ。

「嗅ぎつけるのは犬並みだな。我が弟子乗如を可愛がってくれた礼だけはさせてもらおうか」

 座主様と呼ばれた男は、微かに笑った。

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