ボクっ娘の秘密

魂の行方

 私は西園寺蘭子。霊能者です。


 今までで一番の強敵であった五十鈴華子さんは、あらゆる悪事の元凶である者に妹さんを拉致されていました。


 親友の八木麗華とそのお父さんの矢部隆史さんの活躍で妹さんを助け出す事に成功し、華子さんも戦いをやめてくれました。


 その黒幕の正体は、以前、大ピンチだった私達をあっと言う間に助けてくれた名倉英賢という大修験者の方の兄弟子に当たる人物でした。


 その名は内海帯刀。英賢さんより五歳年上の百三十歳。


 驚くべき存在です。英賢さんも百二十五歳と知ってそれも驚きでしたが。


「裏切り者として命を狙われる可能性がある。しばらく私のところにいなさい」


 華子さんと妹さんは英賢さんのお邸に匿われる事になりました。


 私もそれが一番だと思いました。


 


 そして、事件から数日経ったある日の午後の事です。


 いつものようにボクッ娘の柳原まりさんが邸に顔を見せました。


 弟子の小松崎瑠希弥はまりさんの大好物のパンケーキをたくさん作って用意していたのですが、


「今日はそんな気分じゃないようね」


 まりさんの顔を見て何かを察したように言いました。


 確かに居間に入って来たまりさんの顔色は悪く、悩み事があるようです。


「はい。ちょっと変な夢を見たので……。それに以前英賢様に言われた事も気になって……」


 まりさんは深刻な表情で話をしてくれました。


 英賢さんは、私達をG県のH山で助けてくれた時、まりさんの身体に男の子の魂がまりさんの魂に溶け込んでいると言ったのです。


 今すぐどうにかしないといけない状態ではないという事でしたが、いずれは解決しなければならない問題でした。


 どうやらその時が来てしまったようです。


 まりさんの夢の中に会った事がない五歳くらいの男の子が現れて、


「僕の身体を返して」


 そう言ってまりさんに迫って来たそうです。


 夢と思うにはあまりにも強烈で、目を覚ましてからも、気の巡りが乱れて整えられなかったので、英賢さんの話を思い出し、私達に相談に来たのです。


「まりさん、ソファに横になって。男の子の魂に呼びかけてみるから」


 瑠希弥はまりさんを寝かせて霊媒術を使いました。


「貴方は誰? まりさんに何をして欲しいの?」


 瑠希弥が語りかけると、


『僕はまりの兄になるはずだった。でもこの世に生を受ける事もできなかった。だから今からまりに入れ替わってもらう』


 男の子の魂がまりさんの口を借りて言いました。


 私は思わず麗華と顔を見合わせてしまいました。


「偉い事になったな」


 麗華は眉をひそめてまりさんを見ました。


『私と代われ、もう一人の蘭子! そいつの魂を吹っ飛ばしてやるよ!』


 いけない私が心の中で叫びます。


『ダメよ、もう一人の私! そんな乱暴なやり方では、まりさんの魂も傷つくわよ』


 私はいけない私をたしなめました。相変わらず言う事が過激です。


「そんな事はできないわ。貴方は行くべき所にお逝きなさい」


 瑠希弥は男の子の魂を諭すように告げましたが、


『嫌だ。まりが代わりに行けばいい。今まで苦しんだ分、僕はこれからいっぱい楽しい事をするんだ』


 男の子は応じるつもりはないようです。瑠希弥が私を見ました。


「二人の魂はどんな状態なの?」


 私はまりさんを見たままで瑠希弥に尋ねました。瑠希弥もまりさんを見て、


「まりさんの魂に男の子の魂が絡みつくように溶け込んでいます。彼に離れるつもりがない限り、引き剥がす事はできません。そんな事をしたら、まりさんの魂が傷ついて、無事ではすまないでしょう」


「そう……」


 私は腕組みをして考え込みました。でも、いい考えは浮かびません。


 悪霊が取り憑いている訳ではないですから、浄化の真言を唱えても無駄です。


 そうかと言って、いけない私のように力ずくで消し飛ばす事は危険でできません。


 根気よく、男の子を説得するしか手はないように思えました。


「あの英賢ゆうジイさんに相談してみたらどないや?」


 麗華が言いました。


「ああ、そうね」


 私は手を叩いて応じましたが、英賢さんの連絡先がわかりません。


「ほなら、ウチが雅功さんのとこまで聞きに行って来るわ」


 麗華は嬉しそうに言いました。雅功さんとは、G県の退魔師で、英賢さんのお弟子さんの江原雅功さんの事です。


 この非常時に何を考えているのでしょうか?


「麗華」


 私が静かにそう言うと、麗華はギョッとした顔で私を見て黙りました。


「江原さんには私が連絡します」


 私は麗華を一睨みしてから言いました。しかし、雅功さんの携帯はつながりませんでした。


 ですから、奥さんの菜摘さんに連絡を取り、英賢さんの邸の電話番号を教えてもらいました。


「英賢様はお忙しいですから、お話できないかも知れませんよ」


 菜摘さんにそう言われた通り、電話をしてもお弟子さんが出て、今いるのは連絡が取れない修行場だと言われました。


「困ったわね。どうしようかしら?」


 私は溜息交じりに瑠希弥を見ました。瑠希弥は男の子との交信を中断して、


「今は相手も興奮状態のようですから、少し時間を置いた方がいいとは思いますが……」


 私達は途方に暮れてしまいました。


 まりさんは不安そうに俯いたままです。ああ、こんな時に力になれないなんて、本当に悲しいです。


『だから、吹き飛ばせばいいんだよ! 私と代われもう一人の蘭子!』


 またいけない私が騒ぎ出しました。ついイラッとしてしまった私は、


『もう、いい加減にしてよ、もう一人の私! 貴女が男の子の立場だったら、そんな事されるの嫌でしょ!』


 そう言いながら、あっと思いついた事がありました。


「そうか、その手があった」


 追いつめられて、ようやくある方法に気づく事ができました。


「まりさん、一つ試して欲しい事があるんだけど?」


 私は微笑んでまりさんに語りかけました。


「え?」


 まりさんはキョトンとして私を見ました。


「先生?」


 瑠希弥も同じです。


 この方法がうまくいかなければ、もう何も手はないと思います。


 うまくいく事を祈るしかないです。


 


 西園寺蘭子でした。

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