初代園長剣崎天子
私は西園寺蘭子。霊能者です。
今回は女子校の依頼で、部室棟付近に出る霊を祓うはずでしたが、見事に嵌められてしまいました。
園長始め、生徒達までもが百合一色です。
何とか、園長以下を真言で退けたのですが、とうとうご本尊様が現れたようです。
初代の園長にして、この菖蒲学園の創業者ですね。
「私は剣崎天子。この学園の守護神である」
初代園長は射るような目で私を見て言いました。
確かに守護神の名に相応しく、気の量が膨大です。
恐らく、創業から今までの多くの人達の気を吸い取って来たのでしょう。
但し、人を殺めてはいないようです。
彼女の目的は自分の信者を増やす事。
気を吸い取った代わりに、自分の信念と情熱をその人達に注ぎ込む。
吸血鬼と同じ要領です。
「お前は私に敵対する者のようだな。許さぬ。我が信仰は神聖にして絶対であり、不可侵である」
剣崎園長は気を更に放ちながら言います。
普通の人がこの気を浴びたら、間違いなく彼女の信者になってしまうでしょう。
これはちょっと骨が折れそうですね。
やっぱり、親友の八木麗華か、弟子の小松崎瑠希弥がいてくれた方が良かったです。
でも、今更そんな事を思ってみても、何の解決にもなりません。
「貴女がどんな事を信仰しようと、それについて何か異議を申し立てるつもりはありません。でも、学園の生徒達を巻き込むのはどうかと思いますけど?」
私は何か身体に
身に着けるものと言えば、現在の園長が着けているあれくらいです。
いくらあそこを隠したくても、あれは着けたくありません。
「お前にこそそのような事を言われたくないな、西園寺蘭子。お前自身、自分の考えを他人に押し付けていよう?」
剣崎園長はギラッと目を輝かせて私を威嚇します。
「何の事です?」
私は本当に心当たりがないので尋ねました。すると剣崎園長は、
「お前は、男と女が愛し合うのが正しいと考えていよう。そして、そうでない者を異端とし、
「蔑んでなんかいません! そして、女同士の愛が間違っているなんて思った事もありません! 貴女はそうやって周り中を敵にしてしまって、孤立したのがわからないのですか!?」
私は剣崎園長が自分の心を曝け出してくれたので、そこに入り込む事ができました。
「うぬ……」
剣崎園長は苦虫を噛み潰したような顔で私を睨みますが、反論できないようです。
だって、私が言ったのは、紛れもない事実なのですから。
剣崎園長は、ヨーロッパのある国の修道院での生活で、百合の世界に目覚めてしまい、男は汚らわしい者と思い込んでいます。
それは確かに、多くの殿方は汚らわしいかも知れません。
だからと言って、そうやって次々に否定したら、世の中のあらゆるものを否定する事になるでしょう。
「貴女は間違ってはいないけど、あまりに了見が狭過ぎます。もっと視野を広げて、新しい事に目を向けるべきです」
全裸の私が奇麗事を言っても、あまり説得力がありませんが、仕方がないです。
「そう思うのなら、私に忠誠を誓え。我が世界に足を踏み入れ、共に生きるのだ」
剣崎園長は私を洗脳しようとして気を集中して来ました。
瑠希弥の感応力とは違います。言葉は悪いですが、思い込みの気ですね。
一般的にそんな気で人を操る事などできる訳がないのですが、剣崎園長の場合はその桁が違うので、可能のようです。
「く……」
私はずっと心の中で真言を唱えているのですが、それでも剣崎園長に取り込まれてしまいそうです。
(何て凄まじい気なの?)
ハッと我に返ると、剣崎園長の美しい顔が目の前にあります。
「我らの愛は美しく、穢れなく、高貴なるぞ」
剣崎園長の右手が私の胸を揉みます。
霊なのに、まるで生身の女性に触られているようです。
いけません、感じてしまいそうです。
「ほれ、こちらも喜んでおる」
剣崎園長の左手は私のあそこに分け入って来ました。
「ふう……」
気が遠くなりそうです。
今までのどんな攻撃より、いけない攻撃です。
この人は、女の感じるところを知り尽くしています。
「さあ、無理をせず、我らの世界に来るのだ、西園寺蘭子」
剣崎園長の声が耳元で囁きます。
堕ちてしまった方が、楽なのかしら?
ふとそんな事が頭の中を
「さあ、受け入れよ」
剣崎園長の唇が私の口を塞ぎました。
舌が入って来て、口内が
もうダメ。もう無理。
私、堕ちてしまう……。
その時でした。
『蘭子さん、そちらに行かないでください』
声が聞こえました。以前にも聞いた事がある声です。
「ぬう?」
剣崎園長が私から離れました。彼女の顔は鬼の形相になっています。
「男か? どこにおる?」
剣崎園長は目を血走らせて辺りを見回しました。
そうか。あの人だ。神崎新。麗華の幼馴染です。
すでにお亡くなりになっていますが。
『神崎さんですか?』
地獄に仏とはこの事でしょうか? 神崎さんには、陰陽師と戦った時に助けてもらって以来です。
何だか嬉しいのは、決して彼に恋をしたからではありません。
『はい。貴女の心の恋人、神崎新ですよ』
「……」
私は苦笑いをしました。
『あなたを助け、そしてまたこの女性も助けますね』
神崎さんが言いました。何をするつもりでしょうか?
「おのれ、姿を見せよ、物の怪め!」
剣崎園長の怒りはもう沸点越えしているようです。
「わかりました」
そう言って、神崎さんが現れました。イケメンです。でもその姿は彼の幻術によるものです。
『それにしても神崎さん、霊になってもその力を使えるのですか?』
『この術は、蘭子さんの力を使わせてもらって実現しています』
「なるほど」
私は納得しました。
「おのれ、西園寺蘭子! まだ私に
剣崎園長が私を睨みました。
「違うよ、ハニー。僕は貴女のその素敵な顔とスタイルに感動して、霊界から戻って来たのさ」
神崎さんは私が聞いても背筋がゾッとするような事をあっさりと言いました。
「え?」
何故か剣崎園長が頬を染めています。えええ!? どういう事?
「貴女はこの世の何よりも美しい。どうか僕の恋人になって、霊界に一緒に行ってください」
「はい」
剣崎園長は神崎さんに縋りつき、更に頬を赤くしました。
もう、完全に訳がわかりません。多分、神崎さんの力なのでしょうけど。
「では、蘭子さん、ご機嫌よう」
「失礼した、西園寺さん」
恥ずかしそうに神崎さんの腕を掴む剣崎園長を見て、私は唖然としてしまいました。
二人は次第に光に包まれながら、天へと昇って行きました。
「かい、けつ?」
私は首を傾げて呟きました。
しばらくして、園長先生以下、全員が意識を取り戻し、一時は大パニック状態に陥りましたが、何とか真言の力で冷静さを取り戻させ、全面解決です。
「知らぬ事とは言え、西園寺先生には大変ご迷惑をおかけしました」
園長は自分が身に着けているモノに一回卒倒してから、改めて私に詫びてくれました。
どうやら、私を呼んだ事すら覚えていないようです。
生徒さん達は、学園の中にいた女性の先生方を呼んで、バスタオルをありったけ持って来させて保護しました。
制服は体育館にあるようなので、彼女達はそちらに行きました。
皆礼儀正しく、私に「ありがとうございました」と言ってくれます。
何だかとっても嬉しいです。
「初代園長先生の霊は昇天されました。ですから、あの祠は神主さんにお祓いしてもらって解体して、改めて初代園長先生の供養塔を建ててください。そうすれば、今後このような事はないでしょう」
私はようやく行き渡ったバスタオルを身体に巻きながら言います。
「はい」
園長先生と教頭先生は声を揃えて言いました。
「但し、剣崎園長の教えの中にも正しい事はたくさんあります。それはそのまま受け継ぎ、間違ったところだけ直してください」
私はそれがあの気高いけど純情な剣崎天子さんにできるせめてもの供養だと思いました。
それにしても神崎さん、凄いわ。ある意味尊敬してしまいます。
でも、助けに来るなら、もう少し早く来て欲しかったかな。
贅沢を言ってはいけませんね。
西園寺蘭子でした。
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