第7話 伝説の息子の旅立ち


 リュークは史上最高の二人に剣と魔法を教えてもらってから数年が経った。


 そして、リュークは十二歳になった。

 身長も伸びて、一七〇cmほどになった。

この世界の男性の平均身長が一八〇ちょっとだから、まだ少し小さいかもしれない。

 顔も母親譲りの綺麗な顔立ちをしていて、まだ幼さが残る感じである。

父親のヴァリーに似ているのは髪色だけなのが、親バカのヴァリーが落ち込むところでもあった。


 そして今、リュークは旅立とうとしている。

リュークはこの森――魔の森から出たことはない。

 なのでヴァリーとフローラが世界を見てこいと言ってリュークは一人旅に出ることになった。

ヴァリーは旅に同行しようとこの提案をした訳だが、フローラがリュークなら大丈夫だろうと説得して渋々ヴァリーは一人旅を認めた。


「リューちゃん、忘れ物はない? ハンカチ持った? 水筒は?」

「持ってるよ母ちゃん。ちゃんと異空間に入ってるから」

「リューク、木刀もスペアが一本入ってるな?」

「大丈夫だよ父ちゃん。しっかり持ってる」

「リュークなら木刀で大体の敵を倒せると思うが、一応街に出たら真剣を買うんだぞ?」

「うん、わかった」

「そうね……リューちゃんなら魔法の杖とかもいらないから剣だけは買っときなさい」

「あればいいが、やはり刀が良いと思うぞ。刀の方がお前に合ってる」

「うん、わかった。使いやすいのがあれば良いな」

「父ちゃんが鍛治が出来れば良かったんだがな……」

「父ちゃんが作った木刀も使いやすいよ?」

「うん……まあそれは良かった。だが本職の人には及ばないからな」


 ヴァリーとフローラは、これから数年会えなくなる愛しい息子との会話をなんとか長引かせようとしてしまう。

 しかし、リュークはもう旅立とうとしている。


「じゃあ行ってくるよ、父ちゃん、母ちゃん」

「リューちゃん……わ、忘れ物はない? ハンカチ持った? 水筒は?」

「それさっき聞いたよ母ちゃん……」

「もう行くのかリューク……」

「うん、もう行くよ。一回も森を出たことなくて世間知らずだけどね」

「ああ、しっかり学んでこい……リュークなら大丈夫だ」


 そう言ってヴァリーはリュークの頭を撫でる

少し雑で乱暴な撫で方だが、リュークはヴァリーに撫でられるのが好きだった。


「リューちゃん、私の……私達の愛しい息子……貴方なら何も心配無い……頑張ってね」

「うん、母ちゃん」


 そう言ってフローラはリュークを抱き締める。

 今までで一番長く、強く抱き締める。


 フローラは名残惜しそうに身体を離す。


「じゃあ行ってきます! 母ちゃん! 父ちゃん!」

「いってらっしゃい、リューちゃん」

「立派な男になってこい」


 最後の別れの言葉を告げ、リュークは二人に背を向ける。

 振り向くことなく森の奥へと進んでいった。


 そして、時間が経つとフローラやヴァリーからリュークの背中は見えなくなった。


「行ったわね……リューちゃん」

「そうだな……」

「私……今までいろんな別れをして来たし、この森に来るときは両親にも別れを告げずに来たけど……こんなに寂しい思いは初めて……」

「……俺もだ」

「心配無いとか言ったけど……やっぱり心配ね……。怪我しないかしら。病気になったりしないかしら」

「リュークがここ数年怪我も病気もしたことないだろ? 怪我は強くなったからそうだし、病気なんてあれだろ? 体内の魔力を操ってなんかしてるんだろ?」

「ええ、そうね。私が教えた技で病気にかからないものがあるわね……それでも魔力が尽きたら……」

「あいつが魔力尽きたところ俺見たことないけど?」

「……私もないわ。……よく考えたら心配する要素ないわね」

「そうだな……剣なんか俺とほぼ互角だぜ?」

「最近だと貴方の方が負け多くない?」

「魔法で身体能力上げられるとちょっとな……素でも時々負けるし」

「私、身体能力上げる魔法教えたことないのだけれど……私自身必要としなかったし」

「俺、まだ現役だと思うんだけどな……まだ三十五だぜ? 筋力も勘も少ししか衰えた覚えないのにな……」

「あら? 私と貴方って同い年だったの?」

「え、今更? 知らなかったの? 俺は知ってたけど……」


 もう全くリュークのことを心配していない薄情な両親だった。



 ――――


「ここらへんから外に出たことはないかな……」


 その頃リュークは、順調に森の外に向かって進んでいた。

 もう今まで来たこともないところまで進んでいた。

出会う魔物も初めて見る魔物もいる。

 しかし、瞬時に相手の弱点を見抜きそこを木刀で切り裂き、突く。


 そして数時間後、とうとう森の外に出る。


 リュークが出たところは、崖みたいなところだった。

崖の先端に立ち、辺りを見渡す。


「おー! 見渡す限りの草原!」


 リュークが見える限りは何もなく、ただただ草原が広がっていた。

 草原の先には夕陽が地平線から半分顔を出していた。

辺りの緑を夕陽が紅く染める。


「綺麗だな……」


 そう一人で呟いてしまうほど、その光景は幻想的で美しかった。

 リュークはこの光景を一生忘れない、そう心に決める。


 リュークは崖の先から下を覗く。

高さは三十メートルほどだろうか。


「よし……行くか!」


 リュークは崖から飛び降りる。


「俺の冒険はこれからだ!」

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