第66話 化け物
リューク達はネネとルルと共に王都サザンカへと走り、一時間ほど経つと王都の外壁が見えてくる。
「ようやくね……今日はまだ半日しか経ってないのね、長い一日ね」
ネネの背に乗ってるサラはリュークの腰に手を回して抱きついている。最初は顔が紅くなって喋れないようだったが、今は少し慣れたのか顔を見なければ話せるようなった。
「そうだな、久しぶりに俺も怪我したから疲れたな」
「腕吹き飛んだなんて普通その程度じゃすまないわよ」
「くっつけたんだから大丈夫だ」
「普通くっつけられないのよ!」
「まあ、治ったんだからいいんだよ」
「適当ねあんた……怪我したのはいつぶりなの?」
「そうだな……八歳の頃、ドラゴン一〇体ぐらいと戦った時以来かな」
「それは……嘘って言いたいけど、あんた嘘つくの出来なそうだしね。信じてるあげるけど」
「なんで上から目線なんだよ」
こうしてサラとリュークは高速で走るネネの背中で話して、王都サザンカの前門へと辿り着いた。
手続きをすまし、リューク達は王都内に入った。
「おそらくテレシアとエイミーがギルドで私達の帰りを待っているだろう。そこへ寄ってから王城へと向かおう」
アメリアの提案に乗ってリューク達はネネとルルに乗ったままギルドへ向かう。
そしてリューク達はギルドに着いて、メリーはネネとルルの世話をするために一旦別れる。リューク達はそのままギルド内に入ると、カウンター内に知った顔が見えた。
「えっと……すまない、名前が出てこない。そこの猫被ってる人」
「サーニャにゃ!! 猫被ってるってどういうことにゃ!?」
アメリアがカウンターにいたサーニャに話しかけたが名前がわからなかったらしく、そう呼んだら激昂げっこうしてサーニャが叫ぶ。
「いや、メリーがそう言っているのだから。それに化けの皮剥がれてるところも見ているぞ」
「くっそメリーが来てからいいことねえよふざけんなよ」
「ほらさっそく」
サーニャは舌打ちをしながら小さな声で言ったつもりだが、アメリア達には聞こえたいたようで。
気まずそうに、「ゴホン、にゃ」とわざとらしく咳払いをしてから話し出す。
「それで、何の用かにゃ。うちはこれでも忙しいにゃ。用があるなら早く言うにゃ」
「ああ、テレシアとエイミーを知らないか? 私の連れなのだが」
「テレシア、エイミー……ああ! あの犠牲者にゃ!」
「犠牲者!? どういうことだ!?」
「お姉様達の身に何が!?」
アメリアとサラは追い詰めるかのように顔を近づけてサーニャに問いかける。
「訓練所を見ればわかるにゃ。うちはもうあんなのに関わりたく無いにゃ」
サーニャは呆れるようにそう言って自分の仕事に戻る。
「お姉様……!」
「サラ! 落ち着け!」
サラは居ても立っても居られずにその場から駆け出して訓練所へと向かった。アメリアもその後を追う。
訓練場に続く道を抜け、その場所に出るとそこには――。
「ほ~ら! もっと遊びましょう~!」
――化け物がいた。
その化け物は生き生きとしていて、なぜか朝会った時より肌のつやが良くなってるように見えた。
「お姉様!!」
化け物の目の前で倒れている人影を目にして、サラはまたすぐに走り出して近寄った。
そこにはサラの姉の二人、テレシアとエイミーが倒れていた。
「テレシア! エイミー! 何があったのだ!?」
アメリアもさらに続いて近寄り、テレシアを抱き起こして問いかける。
テレシアは目を薄っすらと開けてアメリアの姿を確認すると、何とかして口を開いて言葉を紡つむぐ。
「アメ、リア様……おかえりなさい、ませ。こんな姿で、お迎えすることになり……申し訳ありません」
「そんなことはどうでもいい! 誰に……いや、誰にかは大体わかるがどうしてこうなった!?」
アメリアは傍で立つ男……オカマを睨みながらテレシアに問う。
「私と、エイミーがここで訓練していたら……ご教授してもらえるということで、お願いしたのですが……」
「お前達……そんな自殺行為をなぜ!?」
「アメリア様や、サラを……いつか、お助けるために」
「っ! テレシア……」
「……なあ、今来たんだけど、これどういう状況?」
リュークはあとからゆっくり歩いてきていたのだが、この状況の意味が分からなった。
「あら~、リュークちゃんじゃない。依頼は終わったの~?」
「ああ、それよりこの状況は?」
「わからないわ~。あたしがテレシアちゃんとエイミーちゃんに教えてあげてただけなのに。手取り足取り、ね!」
「うん、状況はわからないが原因は分かった」
この状況でなお、そのオカマ――ギルドマスターのグランシアはいつもの調子であった。
「アメリアちゃんとサラちゃんが来てからいきなりあんな調子になっちゃってね。もう、誰が化け物よ。失礼しちゃうわ」
「化け物か……言いえて妙だな」
「リュークちゃんもあたしと戦わない? 久しぶりに本気で戦いわ」
「いや、なんかやだ。負けないと思うけど、負ける気がする。違う意味で」
確かにリュークとグランシアが戦えば、戦いに勝つのはリュークであろう。
しかし――勝負に勝つのはグランシア、シアちゃんであろう。いろんな意味で。
「う、んっ……あれ~……サラが見える~。これって……夢、かな?」
「エイミーお姉様! 目が覚めましたか!」
サラに抱きかかえられていたエイミーが気怠そうに目を開ける。
「確か……うちは、何してたんだっけ~?」
「あらエイミーちゃんも目が覚めたの? 大丈夫~?」
「あ……思い出しちゃった……」
エイミーはシアちゃんを見た瞬間に震え始める。気怠そうに開かれていた目はすでに恐怖に染まっていた。
「いったいなにしたんだよ……」
「や~ね、あたしは何もしてないわよ。だけどちょっと……『味見』しただけよ!」
「してんじゃねえかよ」
シアちゃんは舌なめずりをすると、テレシアとエイミーにはゾワッとする不快感が背筋に走った。
「お姉様……? その首のところにある、『虫刺され』のようなものは……?」
「聞かないでくださいサラ、私達を殺したいのですか」
「なんで攻撃してたのに避けられてあんなこと出来るのか、意味わからなかったね~……」
「ふふっ、大人の女の技ってことよ」
「いや、だからお前おと――」
「――リュークちゃんにもしてあげよっか?」
「やめてくださいお願いします」
「ああ、リュークはそういえばクラウディア王とマリアナ王妃以外にも敬語を使ってたな。違う意味で」
アメリアに言うとおり、リュークが初めて敬語を使ったのはこのシアちゃん相手だった。
「とにかく、ギルド長はまた宰相を呼んでくれるか? いつ戻るとか言わずに飛び出たから、王城に勝手に戻るのはいけないかと思ってな。迎えに来て欲しいことを伝えてくれ」
「いやよリュークちゃん、シアちゃんって呼ばない仕事しないわ」
「……シアちゃん、よろしく頼む」
「は~い、リュークちゃんの言うとおりにするわ」
「危ない……とっさに『絶対零度アブソリュートゼロ』撃ちそうになった」
「とっさに人に撃っていいものではない魔法だぞ!! そいつ以外への被害が尋常じゃないぞ!!」
リュークのその魔法を見ているアメリアにそう言われるが、そのウインクした顔面に魔法を撃ち込みたくなったのはしょうがないとはアメリアも少し思った。
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