第67話 調合師


 リュークとアメリアの二人が、テレシアとエイミーの傷――といってもほとんど体力や外傷ではなく、精神的なダメージしか受けてないので治癒魔法をかけるが特に意味はなかった。

 しかし、一部だけは治ったものがあったらしい。


「この首の『傷』を治してもらって感謝します。アメリア様」

「リューク君も、うちの『傷』治してもらってありがとね~」

「ああ、それはいいんだが……あんぐらいなら三日くらいあれば消えるだろう?」

「三日もあれがあるなど考えられません。死んでも嫌です」

「うちも嫌悪感があってもう死にたくなるかもね~」

「そんなに嫌なのか……あれはどうやればつく傷なんだ?」

「うふふ~、やってあげようかリュークちゃん~?」

「……気になるが遠慮しておく」

「いつでもやってあげるからね~」


 シアちゃんのウインクがもはや暴力になってきたところでリューク達は話を打ち切る。

 すでにシアちゃんは宰相に連絡を取ってくれたようなので、リューク達はギルドで時間を潰して待っていた。


 少し話していると、メリーがネネとルルの世話が終わったらしく戻ってきた。


「皆さん、お疲れ様です」

「メリー様、お連れ様です」

「メリーちゃんお疲れ~」

「はい。……テレシア様とエイミー様、顔色悪くないですか? 何かあったのですか?」

「聞かないでくださいお願いします」

「うぅ……思い出したくないよ~」

「す、すいません……」

「そっとしておくのだメリー、二人は傷を負ってしまったのだ。心に、な……」

「いったい誰のせいかしらね~」

「自覚ないのか貴様」


 アメリアが妹分の二人の仇のようにシアちゃんを睨むが、シアちゃんはどこ吹く風のように受け流す。


 そうしているとギルドの扉が勢いよく開かれ、そちらを見ると宰相のバルトロが汗をだらだら流しながら入ってきていた。


「リューク殿! 皆様! 早いお帰りで!! 早速ですがリューク殿、バジリスクの素材を手に入れたというのは真まことですかな!?」

「ああ、もちろんだ」


 リュークが力強く頷くと、バルトロは汗を拭ぬぐうことなくリュークの手を取り礼を告げる。


「感謝いたしますぞ……! リューク殿に依頼して本当に正解でした!」

「それを言うなら……いや、ここでは話せないな」


 マリアナ王妃が治ったあとに、と言おうとしたリュークだったが、ギルド内であるこの場所では事情を知ってるのは僅かなので言うのを躊躇った。


「とりあえず、この素材はどこに持っていけばいいんだ?」

「へ? どこにとは……?」

「いや、この素材を使って作るんだろ?」


 呪いを解く薬をというのを暗に言うと――バルトロは硬直した。


「……か、考えておりませんでした」

「は?」

「そうでした……素材だけ手に入れても意味が、ありません。薬を作る人、調合師がいないと話にならない……」

「そうだが……え、本当に? マジで言ってるの?」

「……ど、どうしましょうか」

「いや俺に聞くなよ」


 どうやらバルトロは素材の入手難易度に目が眩くらんで、大事な調合という過程を忘れていたらしい。


「困りました……。バジリスクの素材を使って呪いを解く薬を作れる調合師など、私は知りませんぞ……」

「俺だって知らねえよ……アメリア、知り合いにいるか?」

「自慢じゃないが私は友達や知り合いと呼べる人がいないのでな、私も知らない」

「なんか必要ない悲しい情報が入ってきたが……。テレシア達は?」

「申し訳ありません、私達もそのような知り合いはいません」


 テレシアの言葉に続くようにエイミーとサラも首を振る。


「にゃあ、呪いってなんのことにゃ?」


 突如後ろから声がかかり振り向くと、サーニャが不思議そうな顔をして首を傾げていた。

 先程、バルトロが口にしてしまったので近くにいたサーニャやシアちゃん、メリーには聞こえてしまったのだった。

 自分の失態に気付いたのか、バルトロは顔を真っ青にしてしどろもどろになって言い逃れようとする。


「あ、その……大したことじゃありません、ぞ。うむ!」


 しかし、その少ない情報からシアちゃんは現状を把握する。


「バジリスクの素材に、呪い、ね……。リュークちゃんへの依頼の内容がだいたいわかったわ」

「あー、ばれちゃったか……」

「うっ……。グランシア殿、この事はどうか内密に……」

「大丈夫よ、あたし口は堅いほうよ? あとシアちゃんって呼んでね」

「まあばれたならしょうがないな。シアちゃんの知り合いにはいるか?」


 この中では一番そういう人脈にコネを持ってそうなシアちゃん。

 顎に手を当て考えてシアちゃんは言う。


「そうね……。調合師の知り合いなら何人かいるけど、バジリスクの素材を調合したことあるって人はいないわね」

「まあ、そりゃそうだよな……」


 バジリスクは人族の中では今までただ一人、魔帝フローラしか倒せずにいた魔物である。したがってその素材が手に入ったのはその一回のみである。


「だけど――調合したことがあるって人は聞いたことあるわよ」


 その一言に先程まで悲痛な面持ちだったバルトロは声をあげて喜びの反応を見せる。


「ほ、本当ですかな!? それはいったい誰でしょうか!?」

「誰かまでは詳しく知らないわ。だけど、魔帝フローラ様の持ち帰ってきた素材を調合したといわれる人はこの国にいるわ。もっとも、本当にその人がやったのかわからないけどね」


 王都のギルドマスターで情報通のシアちゃんも噂程度でしか聞いたことがない話であった。


「それにどっちかっていうと、魔帝フローラ様が自分で取ってきて作ったって言われてるわね」

「それでも手掛かりはあった方が助かる。その人はどこにいるんだ?」


 リュークがそう問いかけるとシアちゃんはその街の名前を思い出しながら答える。


「確か――『ヴェルノ』という街ね」


「……ん?あれ、ヴェルノって……」


 その街は聞いたことある名であった。




「はっくしゅんっ! う~ん、風邪ひいたかな?」

「大丈夫? 薬屋のお姉さん」

「大丈夫だよアナちゃん。誰かが噂してるのかも? もしかしたらリューク君かな?」

「違うと思うわ。リュークだったら私達の噂をすると思うので」

「ふふふ、そうかもね。そうだといいね」


 『ヴェルノ』の街でこんな会話が同時刻がされていたことをリュークは知る由よしもなかった。


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