第65話 帰還
アメリアとサラは、毒の空気が充満しているところから抜け出していた。
そしてしばらくすると、メリーがネネとルルを連れてアメリア達の元に来た。
「アメリア様、サラ様! ご無事でしたか……」
「メリー、私達は大丈夫だ。サラが少し過呼吸気味だが……」
「はあ……はあ……大丈夫、です」
「ここまで走ってきたし、最後のほうは空気も薄かったからな。私が『次元跳躍ワープ』が出来るほどの魔力が残ってなかったせいだ」
「いえ……アメリア様の、せいでは……」
サラは息を切らして途切れ途切れになりながらも言葉をつなぐ。
確かに最後のほうは空気が薄くて、歩いているだけでも息が切れていたが、それはアメリアも同じ状態であった。
しかし、アメリアは多少息が乱れたぐらいで、自分ほど疲弊してないように思える。加えて、アメリアは風魔法をずっと使って空気を囲んでいたのだ。普通に考えれば、自分よりずっと多くのエネルギーを使っているはずだ。
それなのにこの体力の差の違い。サラは自分が情けなく思いながらも、自身の敬愛するアメリアの凄さをまた学んで追いつこうと努力することを何度も心に刻み付けた。
「アメリア様、リュークさんは……?」
先程から姿が見えないリュークのことをメリーは問いかける。
「リュークは……バジリスクの中でも最強の奴と戦っている」
「バジリスクは複数体いるのですか!? い、いえ、そうですよね。ここを住処にしていたら何匹もいて不思議じゃないですよね……」
「そうだな、あんなにいるとは私も思わなった。その中でも一際大きいやつとリュークは戦っていた。遠めから見てもあれは五〇〇メートルは超えているだろう」
「そんなにですか!? 確か目撃証言では一〇〇メートルほどだったのですが……」
「一〇〇メートルを超えてるのは何匹もいたぞ」
「そうだったのですか……リュークさん、無事でしょうか」
メリーはラミウムの湖の方向を見ながらリュークの身を案じる。
いくらSS級冒険者のリュークでも、五〇〇メートル越えの化け物が相手では無理ではないかと思わざるを得ない。
「そうだな……私もわからないが、信じて待つしかないな」
「そう、ですね……あいつなら大丈夫な気がしますが」
サラは乱れていた息を整えながら話す。
「そうだ! アメリア様、サラ様。お腹空いてませんか? ネネとルルが狩ってきてくれた魔物のお肉がありますが」
メリーはこの暗い雰囲気を何とかしようと二人に声をかける。アメリアとサラもその提案に明るく応える。
「そういえばそうだな。昼ご飯を食べてなかったからな」
「確かにお腹が空きましたね」
「ああ、俺もだ」
「メリー、頂いていいか?」
「はい、もちろんです!」
「楽しみね、ここら辺にいる魔物って何かしら?」
「確か蛇の王がここら辺は猪イノシシの魔物がいるって言ってたぞ」
「そうなんですリュークさん、美味しいですよ! ……え?」
「……ん?」
――三人は何か違和感を覚え、すぐにその正体に気付く。
「――リュークさん!?」
「おう」
「リューク!? いつからここに!?」
「メリーがお腹空いてないかって聞いたところからだな」
「あんた……存在感がないのかあるのかはっきりしなさいよ」
「なにそれひどくね?」
三人が気づかないうちに隣にいたリューク。
眼を見開いて驚くアメリアとメリー、辛辣なことをいうサラであった。
「大丈夫だったんですかリュークさん?」
「ああ、怪我はもうないぞ」
「もう? ってことは怪我したのか?」
「右肩じゃない? ほら、そこ破れてるし」
確かにサラが言う通り、リュークの右肩のところは破れていていて他には何か変わったところはない。
「ああ、正解だ。ちょっと右腕が吹き飛んでな」
「そうだったのか……ん? 吹き飛んだ?」
「ああ、吹き飛んだ」
「吹き飛んだってどういうことですか!?」
「そのままの意味だが?」
「あんた普通に腕ついてるじゃない。どういうことよ」
「いや、吹き飛んだままにするわけないだろ。治したんだよ」
リュークは心配いらないと言うように右腕を回して見せる。
「リューク……お前は腕をくっつけられるのか?」
「ああ、出来るぞ」
「さすがだな……私はそこまでは出来ないからな」
「まあ光魔法の治癒魔法も使えないと出来ないしな。アメリアの水魔法の治癒魔法も十分凄いぞ」
「そ、そうか……? そうだな! リュークが規格外なだけだな」
「その納得の仕方は俺が納得できないのだが」
リュークは不満そうにそう言うが、アメリアは気にせずに続ける。
「それはそうとリュークよ、あのバジリスクとの闘いはどうなったんだ? 遠くから見ても凄まじい戦いであったと認識できたが」
「ああ、俺が勝ったよ。その時に腕をもってかれたが、俺もあいつの身体を半分に斬ってやったぞ」
「あんな巨大な魔物を……さすがだな」
「だけど……少しミスった」
「何がだ?」
リュークは異空間に入れていた、木刀だったものを取り出した。
その木刀は『一閃イッセン』という技を繰り出した反動で真ん中から真っ二つに折れていて、辛うじて千切れずに済んでいる状態であった。
「完璧に斬ってればこんなにならなかったんだが……」
「いや、木刀でバジリスクを斬ること自体がおかしいぞ」
「本当にそれで斬ったの……?」
「だからこうなってるんだろ? まだまだ修行不足ってことだな」
「普通はゴブリンでさえ木刀で倒すのは難しいと思うんですけど……」
ゴブリンは大人二人で倒せるくらいの魔物だが、それは武器、刃物を持っていて戦う場合である。
「まあ、もう一本予備があるからいいんだが。そろそろ真剣を見つけないとな」
「あんたならもの凄く高い刀を買えると思うけど」
「斬れることが出来て、手に馴染むなら何でもいいんだけどな」
リュークは今まで使っていて馴染み深い木刀が、自分の不手際で壊してしまったことを悔やんでいた。
「とりあえず、飯を食わないか? 腹が減ってるからなそれから帰ろうぜ」
「そうだな。メリー、頼めるか?」
「はい、こっちで用意してありますよ」
リューク達はネネとルルに乗って、メリーがご飯を作った場所まで行く。
そして猪の魔物の肉を腹いっぱいまで食べて、街に帰還することになる。
「よし、帰るか。これでマリアナ王妃の呪いが治ればいいんだが……」
リュークは、王都サザンカに向かって走るネネの背中に乗ってそう呟いた――。
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