第37話 三姉妹との決闘
姉妹三人、テレシア、エイミー、サラは東の森の入り口でリューク達を待っていた。
「遅いわ!」
サラは腕を組み仁王立ちで町の方角を向いて立っていた。
眉間にはシワが寄っていて、今にも眉間からブチッという音が聞こえてきそうだった。
「あたし達がここに着いてもう一時間は経ってるのに!」
「サラ、落ち着きなさい。カルシウムが足りてないですよ」
「牛乳なら毎日朝飲んでます!」
「朝昼晩飲まないといけないんじゃない〜?」
エイミーは野原に寝っ転がってのんびりしていた。
「エイミーお姉様! お行儀が悪過ぎます!」
「だってここ気持ちいいよ〜、お日様も当たってポカポカ〜」
「エイミー、ゴロゴロはやめなさい。草が服につきます」
テレシアは柔らかい草の上で正座をして待っている。
姿勢も正しく、どことなく品を感じる佇まいである。
「もう太陽も真上……お昼時ですね」
「あいつとルーカスって奴が戦ったのは朝よね……何時間待たせるのよ!」
「私の腹時計的には〜、あれから二時間は経ってるかな〜」
三人が喋っていると、森の方から気配を感じる。
そちらを見ると、二足歩行で手に石で出来た武器のようなものを持っている魔物が出て来る。
犬のような頭を持っていて、石で武器を作れるほどの知性を持っている魔物――。
「――コボルト、ですね」
テレシアがそう呟いた。
コボルトは森から十体ほど出てきた。
獰猛な目で三人を睨み唸り声を上げる。
「気に入らないわ」
サラが姉二人を後ろに置いて前に出る。
「あんたら、私達に勝てると思ってる訳? E級程度の魔物ごときが……」
「サラ〜、よろしく〜」
「エイミー、だからゴロゴロはやめなさい」
エイミーはコボルト達の方を見ずに手を振って応援している。
テレシアもエイミーも全く動じておらず、コボルト達などいないのと同然のように振舞っていた。
その様子に腹を立てたのか、コボルト達は一斉にサラ達に向かって走り出す。
「魔物風情が……調子に乗って……っ!」
サラは三〇センチほどの杖を懐から出して、目の前の魔物に向ける。
「焼け焦げなさい!!」
杖の先が光った――次の瞬間、コボルト達は身体から煙を出して十体全員が一斉に倒れた。
コボルト達の茶色い毛皮は黒く染まり、焼け焦げている。
「うへ〜、臭くさいよサラ〜」
「あたしが臭いみたいに言わないでください!」
「肉が焼け焦げた臭におい……ってよりはこれは死臭ですね。いつ嗅かいでも臭いですね」
テレシアが風魔法で臭いを除去し、コボルト達の死体も一箇所にまとめる。
先程から何回も魔物に襲われては撃退してるので、ちょっとした魔物の死体の山が出来ている。
「あとで私が全部焼き払いますね」
「そうだね〜、こんな奴らの素材とか討伐報酬なんていらないしね〜」
「あたしがほとんど丸焦げにしてますから、素材としては使えませんけどね」
サラが魔物の死体の山から目を離し街の方に目を向けと、遠くの方で人の影が見えた。
「ようやく来た……!」
影はどんどん近づき、近づくに連れてその影がリュークということもわかった。
そしてその後ろにアメリアと、バテバテのアンとアナが付いて来ていた。
「遅くなった、悪いな」
「何やってたのよ! 二時間以上も待たされたわ!」
「森の前に着いてお前らと戦う時にはもう昼過ぎだと思ったからな。アンとアナが弁当を作ってくれてたんだ」
リュークは異空間から布で包まれている六段ほどの重箱を出す。
「お〜、アンちゃんアナちゃんありがと〜」
「お二人共、感謝します。アメリア様は……料理を手伝っていませんよね?」
「はぁ……はぁ……うん、アメリアには手伝わせて、ないよ……」
「……手伝わせてくれなかったぞ」
「良かったです。アメリア様が出来る家事はギリギリ洗濯が出来るかレベルなので」
「アンちゃんは……大丈夫なの? 倒れたまま起き上がらないけど?」
サラがうつ伏せで倒れたままのアンを心配して顔を覗き込むようにしゃがむ。
「だ、大丈夫……十分ほど休めば……はぁ……はぁ……」
「まあ今日は遅く走ったしな、それに俺が前に立って風除けになったし」
「それでこんなになるって……あんたもうちょっとこの子達の為に優しくしたら?」
「これでも優しくしてるけどな……まあいいか。とりあえず――」
リュークは一度そこで言葉を切り、サラの眼を見て一言。
「――戦やるか?」
瞬間、サラ達三姉妹はもちろん、倒れ込んでいたアンやアナ、関係ないアメリアさえも息を飲む。
戦闘態勢に入ったリュークの覇気に、皆みなが戦慄する。
「S級のルーカスとの戦いが不完全燃焼でモヤモヤしてたところなんだ。お前ら三人だと……アメリアより強いって聞いたからな。期待してるぞ」
そしてリュークとテレシア達は互いに向かい合い、距離を取る。
寝っ転がって欠伸をしていたエイミーも、笑顔を保っているがその顔には緊張が見られる。
アメリアとアン、アナは決闘をする四人とは距離を取って見守る。
そしてアメリアが開始の合図をする。
「これよりリューク対テレシア、エイミー、サラの決闘を開始する。では――始め!」
アメリアがそう告げる――しかし、誰も動かない。
リュークは仁王立ちで立って相手の出方を伺ってる。
ルーカスと戦った時とは違い、木刀を持っておらず手ぶらである。
テレシア、エイミー、サラはリュークを観察し隙を見つけようとするが――全く見つからない。
そしてテレシアが気づく。
「この決闘……互いに見合うのは無意味ですね」
リュークの隙を伺っても見つからない。
そして――リュークも最初は相手の出方を待つ。
それは圧倒的格上だからこその『待ち』。
リュークがその気になればこの勝負は一瞬で決着が付く。
だからこそ――リュークは相手からの攻撃を待っているのだ。
「じゃあ〜、私達から仕掛けるよ〜!」
エイミーはそう言うと魔法を使用する。
「『肉体強化ゲオルグ』!!」
エイミーの体が白く光ったと同時に――地面を蹴り、地面が抉れる。
異常なスピードで迫り、懐から出した短剣をリュークに向かって振るう。
――が、手首に軽く手を添えられただけで流されてしまう。
「肉体強化魔法――ユニーク魔法だな」
「あはは〜、すぐに見抜くんだね〜」
エイミーはそう言いながらも全力で短剣を振るう。
しかしリュークはそれを無手で捌さばく。
「エイミー!」
「はいは〜い」
テレシアが声をかけると一旦エイミーがリュークから距離を取る。
「『氷補足アイスロック』」
瞬間、エイミーの足下からリュークに向かって地面が凍り始める。
リュークは自分の足下が凍る寸前に跳んで回避し、降りる前に炎を出して周りの氷を溶かす。
「良い魔法だ、足を凍らせて身動きさせなくする。ジャンプして躱しても地面に足がつけば凍るようになってる」
「……そこまで読まれるとは」
「喋ってる暇与えるつもり――ないんだけどな〜!」
エイミーも炎で足下の氷を溶かしながらリュークに突撃する。
残像が見えるかというほど速い剣撃をリュークは逸らし、躱す。
技術面で桁外れに上回ってるからこそ出来る技である。
エイミーもそれを分かった上で突っ込み短剣を振るう。
フェイントや体術を織り交ぜて繰り出すが、嵐に立ち向かう虫のように簡単に弾かれ逸らされる。
二人が戦ってる最中、リュークの横から拳大の石が飛んでくる。
テレシアが放った魔法、土魔法で拳大の石を作り、風魔法でリュークへと飛ばす。
エイミーには当たらないように飛んできた石をリュークは、エイミーの剣撃を受けながらも躱す。
そして何個かエイミーに当たるように手や足で弾き飛ばす。
「くっ……!」
エイミーは石を躱すために距離を取る。
躱しきれずに右腕に当たったのか、左手で右腕を抑えている。
「痛いな〜、テレシアも考えて攻撃してよ〜」
「まさかそちらに逸らされるとは思っていませんでした、すいません」
ここで今まで戦闘に加担せず――魔力を貯めることに集中していたサラから声が掛かる。
「お姉様方、終わりました」
「おっけ〜」
「了解です」
エイミーとテレシアはリュークから距離を取る。
先程エイミーが離れた時より大きく、サラの後ろまで下がる。
「食らいなさい! あたしの最大魔法!!」
「『雷撃ライゲキ』!!」
瞬間――サラの目の前は光で染まり、リュークの姿は見えなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます