第135話 レンの実力?


「そこは確実に、グラおじさんの店」


 グラおじさん、ダリウスの永遠のライベルで『ウスウスコンビ』と呼ばれていた。


「なんでそこにしか置いてなかったんだ?」

「師匠は良い出来の刀が出来た時は、毎回グラおじさんに見せに行った。そしてそのままその刀を置いて帰ってくる。だから刀専門店だと、そこにしか師匠の刀は置いてない」

「待てよ、確か普通の武器屋にはダリウスの刀は置いてあっただろ。今じゃ禁忌を犯した奴の刀だからと言って置いてないが」


 セレスは二十年前の記憶を引っ張り出してそう聞く。

 確かに他の武器屋では、ダリウスの打った刀だと言って売り出していたものがあった。


「今だから言えるけど、それはボクが打ったもの」

「はっ? どういうことだ?」

「武器屋に師匠の刀として売り出されていたものは、全部ボクが打ったものだった」

「はぁ!? 意味わからねえぞ! なんでお前が打ったものなんだよ!」


 あの頃の記憶を思い返しても、ダリウスの刀を売っていた店は多くあった。

 セレスにはそれが全てレンが打っていたものだとは思えなかった。


「ボクが刀を打ち始めて五年くらい経った頃から、師匠は最高の刀を造ろうと没頭していた。だからグラおじさんに見せに行く以外の刀をもう打たなかった。だけどそれじゃ生活できないから、ボクが刀を打って他のお店に持っていった」

「それがなんでダリウスの刀として売られてたんだよ」

「ボクは自分が打った刀だと言おうとしたけど、勝手に師匠の刀だっていうことで売り出されてた」


 レンがその頃、まだダリウス以外の人と話したことがあまりなかったので人見知りだったということもあった。

 自分が打った刀だ、と言ったのだがとても自信なさげにそれを伝えたのだ。


 今まで見てきたダリウスの刀と寸分違わない程の出来である刀を渡され、まだ小さかった子供のレンが自信なさげにそれを自分が打ったと言われて信じる者はいなかった。

 その結果、今まで通りに武器屋はレンから渡された刀をダリウスが打った刀だと言って売ってきたのだ。


「今の話、本当なのか?」

「嘘をつく理由がない」


 セレスがもう一度確認するように聞いても、レンは不思議そうに答える。


 今の話で一番驚いたのはその当時のダリウスの刀、いや、レンの刀を知っているセレスだ。

 自分も色んな店でダリウスの刀を見ていたが、それがいつレンが打った刀に変わったのかが全くわからなかった。


 武器屋に置いてあるダリウスの刀は万人に造られた刀。つまり本気で売った刀ではない。

 しかし、本気で打ってなくてもその腕は世界一だと言われていたのだ。


 その世界一の刀が、いつの間にか違う奴が打った刀になっていたのだ。

 誰も気付かぬうちに、そして今まで誰もそれには気付かなかった。


 ダリウスが死ぬ何年前からレンの刀になっていたのかはわからない。

 しかし、それから二十年も時が経っている。


 二十年前以上からダリウスの刀に追いついていたレン。


 そのレンが、この二十年努力を怠らずに刀を打ってきたのならば――。


 そう考えると、セレスは背筋にゾクッとする冷たいものが走った。


 先程ヴァリーが見せた、ダリウスが本気で打った刀。

 あれを見た時、とても興奮した。

 セレスも刀は打てないが、ダリウスやレンと同じ鍛冶師だ。

 あの刀の出来、この世に存在するどの武器より美しいものだと感じた。


 だが、今のレンがリュークのために本気で打つ刀ならば。

 もしかすると、あの刀を超えられるのだろうか。


「じゃあ俺が行った刀専門店は、そのグラウスの店ってことだな」


 セレスが何を考えてるかなんて知る由も無いヴァリーが、そう確認するに言った。


「そうです」

「そしたらとりあえずその店に行くか。何かわかるかもしれないしな」


 他の三人もその言葉に頷く。

 そして家を出て、グラウスの店に向かった。



 ◇ ◇ ◇



 今現在、オットー・ベックマンは人生で一番冷や汗をかいているかもしれない。


 数十分前に、王に呼ばれた。


 それ自体は何度かある。それだけだったらここまで緊張することはなかっただろう。


 しかしいつもなら手紙や人伝に呼ばれるのに、今回は王に直接呼ばれた。

 突如頭の中に響いてきた声。


『ベックマン、今すぐに余の所まで来い。世界樹のことで話がある』


 この言葉が聞こえてきた瞬間、驚愕と共に吐き気がするほど狼狽えた。


 世界樹。

 さっきまで自分の魔法で覗いていた禁忌の場所。

 その周辺に魔法をかけたりするだけで極刑になる。


 それについて今呼ばれるということは、王にバレている可能性が高い。


 逃げようとも考えたが、あの王から逃げられるとは到底思えなかった。


 バレていない少ない可能性に賭けて、オットーは王の間に続く道を歩いている。


 宮殿に入ってから王の間に続く長い道。

 この道が自分には処刑台へ繋がるものに思えて仕方ない。

 ここに仕えている兵士や役人達から挨拶されるも、満足に返せない。


 そして王の間へ繋がる扉に辿り着く。


 一度深呼吸をし、中にいるはずの役人に声をかけようとする。


「オットー・ベックマン。入れ」


 しかし、自分が声をかける前に中から声がかかった。

 その声に、整えたはずの呼吸がまた乱れるのを感じる。


 先程頭の中に響いてきた声。

 それと全く同じ声が、目の前の扉の奥から聞こえてきた。


 ゴクッと喉を鳴らしてから、オットーは言葉を詰まらせないように声を上げる。


「失礼いたします」


 その声と同時に、扉が開く。

 誰も触っていないにも関わらず、王の間の扉が開いていく。


 いつものことなので、もう驚きはしない。

 どういう仕組みになっているかはわからないが、王が何かをしているのだろう。


 中に入って行くと、玉座に王が座っている。

 いつも通りに、前に覗いた時のように。


 そして自分を見て、王はあの時と同じように笑った。

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