第134話 娘に?
しばらくして色々な誤解などが解け、四人はようやく落ち着いた。
落ち着いた後、リュークのお腹が鳴ったのでお昼時だということに気づいて、レンとセレスがまた料理勝負をし始めた。
「そういえばリューク、木刀が折れたのはなんでだ?」
料理ができるのを待っているヴァリーがそう問いかけた。
「ある魔物を斬った時に折れちゃったんだ。バジリスクって魔物なんだが、知ってる?」
「バジリスク……ああ、フローラが前に戦ったことあるって言ってたな。確か目を瞑りながら戦ったらしいが、結構強かったみたいだ」
「俺が戦った魔物の中で一番強かったよ」
戦った時のことを思い出して無意識に笑ってしまうリューク。
「はっ、リューク、お前は俺の息子だな。強い奴と戦うのが好きってのがそっくりだ」
「そうなの? だけど母ちゃんもそうじゃないの?」
「……そういえばそうだったな。くそっ、なんでリュークは俺に髪色しか似てねえんだ!」
「いや、俺に言われても」
ヴァリーは席に座ったまま地団駄を踏んでいる。
「リュークのお父さん、どんな人なんだ?」
「いきなり何?」
セレスはレンに席で話している二人に聞こえないように小さな声でそう聞いた。
今はまだ仲良く野菜を切っている。
「二十年前からの知り合いなんだろ? なんか好きな食べ物とか知らないのか?」
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。
セレスはどこかで聞いたことある言葉を思い出し、リュークに好かれるためにもまずは父であるヴァリーに気に入られなければならない。
だからヴァリーの好きなものを知りたいと考えたのだ。
「知らない。二十年前は少ししかヴァリーさんと関わらなかった」
「あ? さっき結構仲良さそうじゃなかったか」
「あれは師匠の刀とか話をしてたから。個人的な付き合いは言うほどない」
「そうなのか」
先程は二人が仲良さそうにしていたから焦ってみっともない姿を見せてしまったが、あまり仲良くないと聞いてセレスはあからさまにホッとした。
「というか、好きなものを知ってたとしてもあなたに教えるわけない」
「はっ、まあそうだな。同じ相手を狙っているオレに教えるほど、お前は人間できてねえよな」
「あなたに言われたくない」
「というか、リュークがお父さん相手に少し幼い感じで喋る感じが可愛い……!」
「同感」
そこから二人は喋らずに、相手より美味しいものを作ろうと集中して料理し始めた。
昼ご飯を作り終わり、四人で食べる。
リュークとヴァリーは二人の料理をどちらも褒めたので、決着はつかなかった。
「で、リューク達はその魔法をかけた奴を探してるんだな」
食べ終わった後すぐにヴァリーがそう話し始める。
リューク達が世界樹に行こうとして、おそらく魔法をかけられて見られたということを伝えていた。
「そうだね。とりあえず鍛冶師を昔やっていた貴族っていうのだけわかってる」
「鍛冶師の、貴族……もしかしたら、心当たりがあるかもしれない」
「本当か!? ……ですか!?」
セレスがいきなりのことにいつもの感じで言ってしまい、もう一度言い直す。
それを見てヴァリーは少し苦笑いしながら。
「敬語なんていらないぞ。セレスさんの方が歳は上だろ?」
確かに四〇歳のヴァリーと一二〇歳のセレスでは歳の差は明らかだ。
しかし老いが早い人族と遅い精霊族だと、ヴァリーも歳の割にまだ若く見える方だが、セレスの方が全然若く見えてしまう。
「じゃあ、普段通りに喋らせてもらう。ヴァリーさんには、その、オレのことは娘のよう想っていただけると幸いです!」
「いつも通りじゃないぞ」
「ヴァリーさん、この人は少し頭が弱い人なんです」
一緒に過ごしてきた二人からツッコミが入る。
「まあ娘のように想うかはリューク次第だが、これからも仲良くしてやってくれ」
「はい! わかりました!」
「セレスはなぜ父ちゃんにだけ敬語なんだ?」
もはや敬礼をしそうな勢いで返事をするセレス。
「レンちゃんもな」
「もちろんです。ボクのことも、いや、ボクのことだけを娘のように想ってください」
「なんで二人とも父ちゃんの娘になりたいんだよ?」
二人の思惑を全く理解できてないリュークは不思議に思う。
「いつかわかる時が来るさ。リューク、頑張れよ」
「よくわからないけど……わかった」
いまだに納得できてはいないが、父親のいうことに素直に頷く。
「話を戻そう。俺は貴族の元鍛冶師に一応覚えがある。昔のことだからちょっと微妙だがな」
「まあ全くないよりはいいだろ」
さっきまでの失態を取り返すかのごとく、普通に喋り出すセレス。
一見そちらの方が失礼に見えるが、それがいつも通りなので他の三人は気にも留めない。
「俺が二十年前にこの国へ来た時、刀専門店に行ってそこでダリウスの刀を見たんだ。それからこの家に来たんだが、その店に貴族が来てたんだ。そこの店長と結構知り合いのようだったぞ」
「じゃあその店に行けばわかるかもな。ヴァリーさん、その店がどこにあるか覚えているか?」
「いや、さすがに場所までは覚えてないな」
「刀が置いてある店ってだけじゃ絞りきれないな」
「一つずつ回っていくしかないか」
この国はとても広く、しかも鍛冶師の国とあって刀専門店というだけでは何十店舗とある。
「いや、その必要はない」
「あ? なんでだよ」
面倒な作業だと三人は思っていたところに、レンが話し出す。
「師匠の刀が置いてある刀専門店。それは一つしかない」
「はっ? そうなのか?」
セレスがそう問いかけると、レンは強く頷く。
「そこは確実に、グラおじさんの店」
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