第27話 一日目鍛錬終了


 日が沈み、草原が紅く染まり始めた。


「そろそろ帰るか。朝から鍛錬やってたから疲れただろ?」


 リュークがアン達に声をかける


「そうね、言われてみると疲れたわ……」

「そういえばお昼ご飯食べてないよ私達……」

「ああ、忘れてたな。明日からは弁当作ってこないとな」

「あ、依頼の薬草集めもやってないわ!」


 ギルドで受けた依頼をアンが思い出して慌てる。


「あ、お前らが集中して鍛錬してる間に俺が集めといたぞ」


 リュークは集めた薬草を時空魔法で作った異空間から取り出す。


「え……あ、ありがとうリューク」

「だけどお兄ちゃん、これ多すぎ……」


 リュークが取り出した薬草は、リュークの腰くらいまで届くほどの山となっている。


「そうなのか? 量とか聞いてなかったから、あるだけ持って来たが」

「普通はまずこれだけの量持てないからね……お兄ちゃんの魔法があるから持てる量だね」

「これだけあれば追加報酬が貰えるわ、ありがとうリューク」

「おう、どういたしまして」


 リュークは薬草をもう一度異空間にしまう。

そして少し離れたところにいるアメリアの方を向く。


「おーい、アメリア! そろそろ帰るがお前はどうする!?」


 アメリアはリュークの声に気づいたように振り返る。


「ん? そうか、じゃあ私も今日の練習はここまでにしよう」


 アメリアの周りを見ると、草が凍っていた。

そしてアメリアの目の前には、とても大きな氷が出来ていた。


 高さは五メートルほど、厚さも三メートルくらいある。


 リューク達はアメリアに近づきながら話す。


「結構氷扱うのに慣れたか?」

「そうだな。氷を飛ばして攻撃はもちろんのこと、その他にも地面に水を流しそれを凍らせ、相手を拘束する事も出来るようになったぞ」


 アメリアは小鼻を少し膨らませながら、胸を張って言う。


「だからここら辺の草とか凍ってるんだね」

「そうね、さすがS級冒険者って感じるわね……」


 アンとアナが凍った草を踏んで硬さを確かめるようにしている。

リュークも大きい氷の前に立ち、拳でドアを叩くようにして強度を確かめる。


「うん、なかなか硬いな。氷は中に空気とか、不純物が無いほど硬く、溶けにくい。そこを極めていけばもっと硬くなると思うぞ」

「そうか、わかった。しかし、先程のワイバーンなどを倒すにはまだ威力というか、何か足りないな……。この大きな氷を作るには時間が掛かるし、風魔法で飛ばすには重すぎる」

「そうか? そこまでではないだろ? ほら」


 リュークは風魔法を発動させ、五メートルほどある氷を浮かせて、前方に勢いよく飛ばす。

数十メートルまで速く飛んでいき、地面に触れると地面を削りながら勢いが無くなり、リューク達から百メートルほど離れたところで止まった。


「な?」

「な? 、じゃないんだよ! それが私には出来ないと言っているのだ! そう簡単にやるんじゃない!」

「鍛えれば出来る、頑張れ」

「頑張るけど! 鍛えるけども! なんかお前に応援されても素直に頑張れないぞ!」


 アメリアは地団駄を踏むようにして悔しがらながら言う。


「リューク、もう帰りましょう」

「お兄ちゃん、早く帰ろう!」


 アンとアナは街の方を向いて、歩き出し帰ろうとする。


「ん? おい、違うぞお前ら」

「え? なに……? なにが違うのかしら?」

「え、まだ帰らないの? さっき帰るって……」


 リュークは二人を呼び止め、アン達も不思議そうにリュークを見ながら問う。


「歩いて帰るんじゃない、走って帰るぞ」

「「え?」」


 二人はリュークの言葉に途端に顔を歪める。


「お前らは体力をつけないといけないんだから、当然だろ?」

「え、いやだって……今まで鍛錬で疲れてるのよ? 帰りはさすがに歩きで……」

「疲れてるからこそだろ」

「む、無理だよお兄ちゃん……死んじゃう……」

「大丈夫だ、人はそんな簡単に死なない」


 リュークはニッコリと笑いながら二人にそう告げる。


「ほ、ほらアメリアさんもいるし……。帰りはゆっくり話しながら……」

「ん? 私は大丈夫だぞ。これでもS級冒険者だ、体力には自信がある」


 アンはアメリアに救いを求めたが、アメリアはそんな事気付かずに、そう答える。


「嘘でしょお兄ちゃん……?」

「俺は生まれてこのかた、嘘はついた事ないぞ」


 アナは引きつった笑顔でリュークにそう問いたが、リュークはバッサリと無慈悲に答える。


「じゃあ、走って帰るぞ。大丈夫だ、完全に暗くなるまでには街には着くからな」



 夕暮れの森に、二人の女の子の悲鳴が響いた――


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