第28話 もう一人


 日が完全に沈むギリギリ、まだ街に少しだけ陽の光が当たってる頃にリューク達は街に着いた。


「よし、お疲れ様二人とも」

「もう……ダメ、死ぬわ……」

「お姉ちゃん……死ぬときは一緒だよ……」


 街の門から中に入り、少し歩いたところでアンとアナは倒れている。


「こんなんじゃ死なねえって……アメリアは余裕そうだな」

「まあ、この二人のペースに合わせていたからな。最後の方など、歩くより遅かったぞ」


 アメリアはリュークの隣に立ち、汗を袖で拭っている。


「ほら、お前ら立て。ギルドに行って薬草届けないといけないんだぞ」

「そ、そうね……あと十分待ってくれない?」

「私もあと五分は欲しい……」


 リュークは溜め息をつきながら渋々了承し、十分後。


 アンとアナがようやく回復し、四人はギルドに向かう。


「お前ら本当に体力付けないとな。この先冒険者としてやっていけないぞ?」

「わかってるわ……アメリアさんもやっぱり体力あるものね」

「アメリアでいいぞ、リュークの連れにさん付けされても違和感があるからな」

「俺の連れってわけでもないけどな……」

「私とお姉ちゃんはお兄ちゃんの……弟子? それだったら連れって感じだね!」

「そうね、リュークは私達のお師匠様だから」

「なんかむず痒いからやめてくれ……」


 リュークは苦笑しながらも楽しそうにアンとアナと話す。


「ふふふ、三人は仲が良いのだな。師匠か……私は独学だからな、そういう者はいないな」

「そうなの? それであんなに魔法が出来るのは凄いわね」

「自分で言うのもなんだが、天才だからな私は!」


 アメリアは胸を張って言うが、隣を歩いてるリュークをチラッと見て少し落ち込む。


「まあ、今日で自分より数段天才な存在を知ったが…」

「ん? 俺か? 俺は母さんに教えてもらったからな、独学でそこまで出来るアメリアも凄いぞ」

「そ、そうか?」

「ああ、本当に凄いと思ってるぞ」

「そ、そうか! やっぱりそうだよな! 私は天才だからな!」

「見るからに元気になったねアメリア……」


 アナが満面の笑みのアメリアを見て、少し呆れる。


 そしてしばらく歩き、四人はギルドに到着する。


 中に入ると、酒を飲んでる冒険者などがいて、朝来た時より賑やかになっている。


 リューク達はカウンターに向かうと、メリーがまだ仕事をしていた。

そしてカウンターの前には三人の女冒険者がいた。


「アメリア様! ようやくお帰りに!」


 三人の女冒険者達がアメリアに近づいてくる。


「ずっと待っておりましたアメリア様」

「今までどこにいらしたのですか?」


 三人はアメリアに問い詰めるように近付いてくる。


「え、えっと……お前達を忘れていたわけじゃないぞ? 本当だぞ? ただその……なんというか……」


 アメリアは三人の追及を気まずそうに顔を背けながらしどろもどろになりながっていた。


「はあ……まあわかっておりましたが」

「絶対忘れてるだろうなと思ってましたよ~」

「可愛いですアメリア様……」


 二人の女冒険者は、溜め息をつきながらアメリアに言い放つ。

アメリアはまたもや落ち込むように項垂れる。


 もう一人の女冒険者は何か違う反応をしていたが、リュークはそれらを無視してメリーに話しかける。


「メリー、依頼達成を報告したいのだが」

「あ、リュークさん! お帰りなさい!」


 メリーは仕事をひとまずやめて、リュークに対応する。


「依頼は薬草採取ですね。では、カウンターに薬草を出してください」

「ん? ここでいいのか。ちょっと量多いけど」

「え、そうなんですか? どのくらいですか?」

「そうだな……このカウンターに出したら溢れて床に落ちるかな」

「そんなにですか!? で、では個室を用意しますので、そちらにお願いします!」


 メリーはリュークとアン、アナを個室に案内して薬草を確認する。

個室に移動して、リュークは異空間から薬草を全て取り出す。


「こ、こんなに……」


 メリーはその量に唖然するが、すぐに鑑定に入る。

メリーは慣れた手つきで薬草を確認していき、全て確認し終わった。


「確かに全て薬草です。しかしこの量……凄いですね」

「私とアナは何もしてないわ。リューク一人で集めたのよ」

「この量を一人で!?」

「お兄ちゃんってやっぱり凄いよねー」


 メリーは驚きながらも薬草の量を計り、報酬を計算する。


「えっと……依頼達成として三千ゴールド。そして追加報酬として、二万ゴールドです」

「追加報酬多いな、達成報酬の六倍以上か」

「この量ですからね……」

「そのお金はお兄ちゃんが受け取ってよ、私とお姉ちゃんなんもしてないからね」

「そうね、それがいいわ」

「そうか? じゃあ貰っとくわ。メリー、そのお金もギルドカードで払えるようにそのギルドに預けておいてくれ」

「わかりました、リュークさんの口座に入れておきますね」


 リューク達は個室から出て、カウンターに戻る。


 そこにはまだアメリアと三人の女冒険者達がいた。


 そして女冒険者の一人がリュークを見て、思い出したようにアメリアに話しかける。


「アメリア様、リュークとやらにあのことを話しましたか?」

「あっ……話してない……」

「やっぱり……」


 女冒険者はまた溜め息をつく。


「あのこと? あのことってなんだアメリア?」


 リュークはその会話を聞こえ、アメリアに話しかける。


 その際、女冒険者の一人がリュークがアメリアのことを呼び捨てで呼んでることに気付き、キッとリュークの方を睨んだがリュークは無視する。


「ああ、今日は本当はこのことを伝えにリュークに会いに来たんだ。実は……」



「ちょっといいかな?」



 アメリアが話そうとした瞬間、リュークは後ろから声を掛けられる。


 リュークは振り向くと、そこには若い男性がいた。


「この街にSS級冒険者のリュークっていう者がいると聞いたが、どこにいるか知らないかい?」


 その男性は爽やかな笑顔で話しかけてきた。


「俺がリュークだが……あんたは?」


 リュークがそう答えると、男性は少し驚いたような顔をする。


「そうなのかい? へー、君が……。思ったより若いんだね」



「僕は『貴公子』、ルーカス。S級冒険者さ」



 その男性はキラッとした笑顔でそう言い放った。

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