第9話 冒険者ギルド
リューク達は、森を抜けて街へと向かう。
「え!? リュークは冒険者じゃないの!?」
アンがリュークがまだ冒険者登録してないと聞いて驚いている。
「まあそうだな、ずっと森の中で住んでたし」
「森? さっきの森の中でってこと?」
「いや、さっきの森よりずっと向こうの方だ」
「私たちそこまで行ったことないからわかんないよ、ねぇお姉ちゃん」
「そうね、ここからあっちに行くと魔の森があるけど……まさかそこじゃないだろうし」
正解を言っているアンだが、リュークも自分が住んでいた森の名前を聞いたことがないので、正解を教えられない。
「名前は知らないけど……まあ森の中に住んでたから、街のこととかわかんないんだ」
「それなら私たちが教えてあげるよお兄ちゃん!」
「そうか! ありがとな、アナ」
「ん、えへへ」
リュークはアナの頭を撫でる。
アナも気持ち良いのか、目を細めて受け入れる。
やはりリュークはアナが年下な感じがしてならないが、同い年らしい。
「あ、見えたわよリューク! あれが街の外壁!」
「んー、おー、そうだな」
「……なんか反応薄くない?」
「いや……俺ちょっと前から見えてたし」
「それなら先に言ってよ!」
「外壁が大っきい街はそれだけ発達してるんだよお兄ちゃん!」
「おー、そうなんだ」
「そうしないと街の人が安心して暮らせないしね」
そしてもう少し歩くと、その外壁の全貌が露わになってきた。
街を囲む外壁は、高さ約二十メートル。
リューク達の目の前には、大きな門があった。
外壁の半分、約十メートルの高さの門。
その右手に、小さな門がある。
そこは開きっぱなしになっているようだ。
どうやら普通はそこから外や中に出入りするらしい。
「なんであんな大きな門があるんだ?」
「国の偉い人とか来る時とかにあの門は開くんだよ」
「あー、なるほど」
リューク達は小さな門の方に行く。
門番らしき人に話し掛ける。
「門番さーん、入りたいんですけど」
「ん、じゃあ身分証を」
「はい」
アンとアナは身分証として、冒険者ギルドのものがあった。
しかし、リュークはそんなもの持っていない。
「俺持ってないんだけど門番さん、どうすればいい?」
「ん、どっかの村出身か? じゃあ待っててくれ」
門番さんは街の中に入って行き、戻ってきた時には人の頭ほどある玉を持っていた。
「これに触れてくれ」
「なにこれ?」
「『真実の玉』」
「真実の玉?」
「リュークこれも知らないの? 触った人の犯罪歴とか種族とかがわかるの」
「へー、便利だな」
そう言ってリュークは玉の上に手を置く。
「……ん、犯罪歴も特に問題なし。入ってもいいが身分証はどっかのギルドとか入って早く作れよ」
「了解、ありがとう門番さん」
「ん、じゃあ……ようこそ! ヴェルノへ!」
門番さんはリューク達を門の中に迎え入れる。
すると賑やかな商店街が迎えてくれる。
「人がいっぱいいるな!」
「こんぐらい普通だよ?」
「俺は森の中で住んでたからこんな人がいっぱいいるの初めてだよ……てか両親以外の人間に会ったのがお前ら初めてだ」
「それも凄いわね……まあとりあえず冒険者ギルドに行きましょうか」
「ギルドでお兄ちゃんの身分証とランク決めしないと!」
「ランク決め? なんだそれ?」
商店街を歩きながら三人は冒険者ギルドへと向かっている。
「それも知らないのね……冒険者にはランクというものがあるの。G級から始まって、F、E、D、C、B、Aと続いて、最高ランクがS級」
「へー、どういう意味があるんだそれには?」
「ランクによって受ける依頼とかが決まってるの。低いランクだと街のお手伝いとかで、高いランクだと魔物討伐とか」
「私とお姉ちゃんはF級で、薬草の採取とかが依頼であるの!」
「そうか、便利だなそのランク決めというのは。どうやってやるんだ?」
「ふふふ、行ってからのお楽しみよ」
こうしてリューク達が話していると、冒険者ギルドに着いた。
ここの街は大きいので、冒険者ギルドの建物もそれなりに大きい。
建物の中に入ると、正面にカウンターがあり、右手に紙などがいっぱい貼ってある壁があった。
どうやらあそこを見て依頼を決めるらしい
左手にもカウンターがあった。
そこの前あたりにはいくつものテーブルや椅子があり、そこに何人かの人がいた。
アンに案内されて最初に行ったのは正面のカウンターであった。
そこで座っている人にアンが話し掛ける。
「メリー、帰ってきたわよ」
「アン、アナ! ちょっと遅くなかった? あそこの森で薬草採取でしょ?」
アンがメリーと呼んだその人物は、このギルドの受付嬢である。
メリーは茶髪の長い髪で、顔立ちは整っていて可愛い。
そしてリュークにとって一番重要なところは──頭から獣のような耳が生えていた。
メリーは獣人であった。
犬の耳のような形をしていた。
「あのねメリー! 私たちゴブリンに捕まっちゃって……それでお兄ちゃんが助けてくれたんだ!」
「え、ゴブリンに!? そうだったの……えっと、そこの人? お兄ちゃんってのは……」
「あぁ、俺だな。リュークだ、よろしく」
「メリーと言います。アンとアナとは一緒に住んでるんです」
「あ、そうなんだ。だから仲良いのか」
「はい。アンとアナを助けて頂きありがとうございます!」
「うん、どういたしまして」
「メリー、それでね、リュークを冒険者登録して欲しいの」
「え、してなかったのですか?」
「ああ、森の中で住んでたからね」
「わかりました。ではこの書類に必要事項だけ書いてお待ちください」
メリーから紙とペンを渡される。
リュークは名前、住所のところは「森の中」と書いた。
そして職業は、「魔法剣士」と書いた。
その紙を覗き込んでたアナ。
「え! お兄ちゃんって魔法剣士なの!?」
「ああ、そうだぞ」
「え、魔法剣士……? リュークは剣も扱えるの?」
「あれ?ゴブリンを刀で倒したけど…」
「え、お兄ちゃん魔法だったじゃん!」
「あ、いやアナを助けた時は魔法だけど。アンを助けた時は刀でゴブリン斬ったぞ?」
「え、ゴブリンを倒したの刀? だって、八匹ぐらい一気に倒してたわよね? あれ魔法でやったんじゃ……しかも刀抜いてるところ見なかったわよ?」
「えー、刀でやったぞ?」
実際にリュークは刀でゴブリンを倒した。
しかし、アンとアナにはリュークが抜刀からゴブリンの首を斬り、刀を納めるまで、全く見えなかったのだ。
だから二人は魔法でやったと勘違いしていた。
そしてリュークは、自分の刀が二人の目が捉えきれないほどの速度を出していると知らない。
そこのすれ違いで、このような状況になっている。
「おいおい、魔法剣士だって?」
三人が話していると、背後からそんな声が聞こえる。
振り返ると、柄の悪い男が三人立っていた。
「魔法剣士って、どっちもちょっとしか出来ないやつがやってるものだよな!?」
「ははは! そうだな! 前にも魔法剣士とか言ってたやつを俺らがボコボコにしてやったぜ!」
「あいつ剣も下手だし魔法なんて、そよ風ぐらいしか出せないやつだったからな! そこのひょろっちい男もそんなんだろ!」
そんなことを三人はギルド内の皆んなに聞こえるように言っている。
その声を聞いて、ギルド内にいるほとんど全員がリューク達の方に注目した。
その三人の男がリュークに絡んだ理由としては、ただの嫉妬であった。
アンとアナという可愛い二人を連れて入ってきて、メリーという看板受付嬢と親しげに話していたリュークに、醜く嫉妬していた。
そしてそのリュークが、魔法剣士という前に三人がボコボコにした男と同じ職業なのをキッカケに絡んだということだ。
「お兄ちゃんは強いんだよ! ゴブリンなんて敵じゃないし!」
「はっ! 凄さを表すのにゴブリンだってよ!」
「それなら俺らだって余裕だわ!」
「アナ、相手にしなくていいのこんな奴ら」
アナが悔しそうにその男達を睨む。
アンはこういう奴らに慣れているの、不干渉を貫く。
そうこうしているうちに、メリーが戻ってきた。
門番と同じように、玉を持って戻ってきた。
「お待たせしましたリューク様! これでランク決めをいたします!」
「これ? 真実の玉で?」
「これは真実の玉じゃないのよ。『ランク決め玉』」
「なんかそのままだな……」
「うふふ、私の名前を聞くと皆んなそう言うわ」
「……ん? 今誰が喋った?」
今この場にいる誰も口を開いていないのに声が聞こえた。
リュークは周りを見渡すが、やはり誰も喋ってない。
「私よ、私。『ランク決め玉』よ」
「…え!? 喋れるの!?」
「うふふ、私を知らない人は皆んな同じ反応するから面白いわ」
声は『ランク決め玉』から聞こえていた。
「へー、凄いなこれ」
「この玉でランク決めをします。やり方は真実の玉と同じ様に、玉に触るだけです」
「そしたら私があなたのランクを決めてあげる」
「へー……なんかどっかで聞いたことある声と喋り方なんだよな……」
「これは魔帝様がお作りになったのですよ」
リュークはその声に違和感を感じたが気にしないことにした。
「ではリューク様、お手を乗せてください」
「はっ、どうせG級とかF級とかなんだろ?」
「俺らは最初っからD級だったぜ」
「お兄ちゃんはC級行くよ! 絶対!」
「はっ、見ものだなこりゃ!」
「リューク、別にプレッシャー感じなくていいわよ。ただ乗せるだけ」
リュークのランク決めを楽しみにしているアナ。
別の意味で期待している男三人ども。
リュークを心配するように言ってくれるアン。
そしてリュークは、ちょっと緊張しながらその玉に手を置いた。
「うふふ、さて今回の新人さんはどうか……っ!」
ランク決め玉が言葉を止める。
皆んなが次のランク決めの言葉を待ちわびている。
そして、ランク決め玉が口を開く。
「……SS級」
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