第8話 出会い


「って言って飛び出したのはいいけど……またすぐに森かよ」


 あれから草原を歩いて数時間、完全に日が落ちてからは異空間からハンモックを出して寝た。

 そして日が昇り、また数時間歩くと森が現れた。


「戻ったわけではないよな……魔法で方角は確認してるし。まあいいや、進むか。こっちの方角に街があるって母ちゃん言ってたし」

「そこで冒険者ってやつになれば俺なら大丈夫とか言ってたけど……冒険者ってなんなんだろ」


 そう言いながらリュークはまた森を進む。


 一時間ぐらい歩くと、異変を感じる。


「ん? 魔力探知に魔物じゃない者がいる…これは人間の魔力か!?」


 初めて両親以外の人間の魔力を探知する。

大きさは魔法使いのフローラはともかく、剣士のヴァリーよりも小さかった。

 しかし、その人間の魔力が入ってきた直後、すぐに魔物らしき魔力を数個探知した。

どうやら魔物に追われているらしい。


「おっと、これは急がないとな……魔法使うか」


 そう言うと、リュークは無詠唱で魔法を使う。


「『次元跳躍ワープ』」


 詠唱破棄で魔法名だけ唱えると、リュークはその場から消えた。


 この魔法は時空魔法の一種で、自分の体を自分が探知出来る魔力の範囲内だったら瞬時に移動できる魔法である。


 普通の魔法使いは魔力の探知という行為すら出来ない。

出来たとしてもせいぜい数十メートルだろう。


 しかし、リュークは類を見ない才能と努力で半径二キロメートルの魔力探知が可能になった。


 移動もこのワープを使えば良いと思うだろうが、この魔法は膨大な魔力を使う。

 リュークでも一日十数回が限度である。

だから、緊急時しか使わないのである。


 そして、リュークは魔物から逃げている人間の背後に移動し、魔物と人間の間にワープした。


 まずリュークの目に映ったのは――魔物の姿。

人間の形をしているが、肌は緑っぽく身長は一メートルほど。

外見に人間っぽさはなく、醜悪な外見である。

俗に言う、ゴブリンである。


 ゴブリンは低級の魔物として知られ、大の男二人で一匹を倒せる。


 しかし、今その数は七匹。

一人の人間が対応するには多い数だ。


 リュークはゴブリンを初めてみた。

だからこいつの正確な強さがわからない。

魔力を感知する限り、そこまで強くないと思われる。

 しかし、油断してやられる訳にはいかない。


 だからリュークは少し強い魔法を使った。


「『超音衝撃波ソニックブーム』」


 無詠唱で使った魔法は、風魔法。

 大気を震わせて超音波を起こす。

普通の魔法使いが使えば、最高でも人間の鼓膜が破れるくらいの威力しかない。


 しかし、リュークが使うと目の前の七匹のゴブリンたちは吹っ飛んだ。

数十メートルも吹っ飛び、地面に落ちた時には肉片に変わっていた。


 リュークは魔物が死んだことを確認して、後ろを振り向くと、助けた人がいた。

どうやらその人は女の子だったようだ。

 その女の子は倒れて女の子座りで呆然とこちらを見ていた。


 幼い顔立ちで可愛い子である。

金髪のショートカットで、碧眼であった。

服装はこの森にあまり相応しくない薄緑のワンピース。

 そのワンピースが土や枯葉やらでボロボロになっている。

歳は自分より下みたいで、身長も一三〇ぐらいだろうか。


 リュークは近づいて話しかける。


「大丈夫か? 怪我は?」

「あ、うん……ありがとう」


 リュークは女の子に手を伸ばす。

すると女の子は呆然とした顔から、ハッと目が醒めるようにすると、リュークの手にすがる。


「お、お願い……お姉ちゃんを助けて!」


 そう言ってその女の子はリュークに頼み込む。


「……何があったんだ? お姉ちゃんがどうした?」

「お姉ちゃんと私……森に薬草取りに行って! それでゴブリンに襲われて捕まって……洞窟に連れてかれたんだけど、お姉ちゃんが逃げろって……それで私だけ逃げて……」


 そう言いながら女の子は眼に涙を浮かべる。


「お姉ちゃんが私だけ助けてくれて……お願い……お姉ちゃんを助けて!」

「わかった、すぐ行こう」

「……助けてくれる?」


 涙が浮かんでいる目を少し見開いて、女の子は言う。


「その洞窟ゴブリンが何十匹もいて……危険で……」

「それならなおさら早く行かないと、場所は?」


 女の子が危険な場所だとリュークに伝えるが、リュークは助けてくれると言ってくれる。


「……ありがとう……っ!」


 そう言って女の子はリュークを見て涙を零す。


「その言葉はお姉ちゃんを助けてから言うんだな。それで場所は?」

「う、うん! あっち!」


 女の子は自分が逃げてきた方角を指差す。


 リュークは魔力探知をしているが、魔力の気配はない。

女の子は結構な距離を逃げてきたようだ。


「俺に掴まれ!」

「え? う、うん……」


 リュークがそう言って、女の子に自分の手を掴ませる。

女の子は戸惑いながらも差し出しされた手を握る。


「『次元跳躍ワープ』」


 リュークが魔法名を唱えると、女の子が指した方角へと移動した。


 森の中なのでほぼ景色は変わらなかったが、ちょっとした浮遊感に女の子は驚く。


 そしてリュークは見つけた。


 魔力探知をすると、魔物の反応が数十匹もあり、その中に人間の魔力が一つある。

この女の子のお姉ちゃんをものだろう。


 リュークはもう一回魔法を唱えて、そのお姉ちゃんの目の前にワープした。


 ワープした直後にリュークが見た光景は、倒れているがこちらを向いて驚いた女の子の顔。

そしてその近くにいるゴブリンの顔が何匹かである。


 次の瞬間、お姉ちゃんの周りにいるゴブリンの首が飛んだ。

リュークが瞬時に抜刀し、ゴブリンの首を切ったのである。

 木刀であるが、リュークが振るうと斬れ味は真剣をも上回る。


 首が飛んだゴブリンの数は八匹。

リュークの目の前にいるゴブリン五匹。

後ろにいるゴブリン三匹である。


 これで女の子のお姉ちゃんと、女の子の周りにはゴブリンはいなくなった。


 ワープには女の子も連れてきていた。

女の子も目の前にお姉ちゃんがいきなり現れたのは驚いたが、一番驚いたのはお姉ちゃんだろう。


「アナ!! どうしてここに!?」


 お姉ちゃんがそう叫ぶ。

どうやら女の子の名前はアナだったらしい。

そういえば自己紹介も何もないままここに来てたな、とリュークは思った。


「お、お姉ちゃんを助けに……」

「助けにって……どうやって今目の前に? それにこの人は誰?」

「俺はリュークだ。アナちゃんにお姉ちゃんを助けてと言われてここに来た」

「なんでアナを連れて来たの!? 私が犠牲になった意味ないじゃない! 早く逃げてアナ……っ!」

「お姉ちゃんも一緒に逃げようよ……っ!」

「駄目、まだ奥にいっぱいいるから……」

「とりあえず、洞窟出るか」


 リュークは座り込んでいる二人の肩を掴んで、ワープする。


 次の瞬間、洞窟から二キロほど離れたところに出る。


 またもやアナとお姉ちゃんは驚愕する。


「あれ……? ここどこ? なんで森の中に?」

「俺が魔法で移動した。もう洞窟から結構離れたから魔物の心配はない」

「魔法で移動って……そんな魔法あるの?」

「ああ、そうだな。普通にあるぞ」

「お姉ちゃん!!」


 アナがそう言ってお姉ちゃんに抱きつく。

お姉ちゃんはしばらく呆然としていたが、助かったとだんだんと実感が湧きだしたように、アナを抱きしめ泣き出す。


「良かったよお姉ちゃん……!」

「うん……! ありがとうアナ……!」

「私のおかげじゃないよ、お兄ちゃんのおかげだよ」

「そうね……ありがとう、リュークさん」

「リュークでいい、無事で良かった。えっと……」

「ああ、自己紹介がまだだったわね」


 お姉ちゃんとアナは離れて立ち上がり、リュークと向かい合う。


「私の名前はアン。本当に助けてくれてありがとうリューク」

「ありがとうお兄ちゃん!」


 そう言って礼を言うお姉ちゃんのアンと妹のアナ。


 二人は顔は瓜二つ。

お姉ちゃんは髪が肩ぐらいの長さまである

そして一番の違いは身長。

姉の方は一五〇ぐらいで、妹は一三〇ぐらい。

 そこが一番の違いだろう。


「ああ、どういたしまして」

「それにしても……さっきの移動の魔法凄いわね……今まで色んな魔法見たことあるけどさっきのは見たことも聞いたこともないわ。何属性なの?」

「時空魔法だな」

「時空魔法!? たしか数億人に一人しか適性がないと言われる……あの?」

「そうなのか? 知らないけど……俺の母さんも出来るぞ?」

「凄いわね……遺伝かしら?」

「ねぇねぇ! お兄ちゃんって何歳なの?」


 アンとリュークが2人で喋っているのを寂しかったのか、割って入るアナ。


「ん? 十二歳だぞ」

「そうなの? 結構大人っぽいけど……。じゃあ私達と一緒ね」

「お、そうなのか。ん? 私たち……?」


 リュークはその言葉に違和感を感じた。


「あら、言ってなかったかしら? 私たち双子よ?」

「双子!?」


 目を見開いて驚くリューク。

それはそうだろう。

 どう見ても二、三歳は離れてそうな容姿──身長をしている。


「あ、お兄ちゃん私の身長でお姉ちゃんより年下って思ったでしょ!」

「あ、いやその……悪いな」

「いいよ別に! 慣れっこだし!」


 そう言って満面の笑みを見せるアナ。


「そうだリューク、お礼をさせてくれない? ここから数キロ行ったところに街があるからそこで私達の家に来て欲しいわ」

「お兄ちゃん一緒にご飯食べよー!」

「ああ、俺も街に行きたかったからな。案内してくれると助かる」


 そう言って三人は、街の方角へと歩いて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る