第73話 再会
アンとアナは今日の鍛錬とギルドの依頼をこなして街に戻ってきた。
ギルドに先に行って依頼達成を伝えて、フランの店に魔物の素材を買い取りしてもらうために寄ったのだが、いつもカウンターにいるフランがいなかったので不思議に思いながらも少しの間店の中で待つことにしたのだ。
そしてカウンターの奥からフランが来たと思って目を向けたら――そこには王都に行ってこの街にはいないはずのリュークがいた。
「なんでリュークが……? 王都に行ったんじゃ……?」
「お兄ちゃん帰ってきたの!?」
「ああ、ちょっとこの街に用事があってな」
リュークが宰相からの依頼で王都に行ったことは二人は知っていたが……どういう依頼かは聞いていないのでその用事というものが二人はわからなかったが――。
「こっちに帰ってくるなら、まず私達のところに普通来ない?」
「そうだよお兄ちゃん! なんでフランのところに先に来てんの!?」
「いや、それは……」
「――リューク君」
リュークが弁明しようと声を上げたがそれを止めるようにフランが前に出る。
フランの方を見ると、「任せて」と言うようにフランは頷いてアンとアナに説明する。
「リューク君と二人っきりで話すことがあったから奥の部屋に行ってたんだよー」
「二人っきり!? な、何の話を!?」
「ふふふ、それは二人だけの秘密なんだ」
「ふ、二人だけの、秘密……って……」
アンとアナは、フランとリュークを交互に見ながら狼狽うろたえるように後退あとずさりをする。
「私、リューク君に抱きしめれて『俺が助ける』って言われちゃった。リューク君かっこよかったよ」
「抱きしめ……!? 私お兄ちゃんに抱きしめられたことない!」
「俺が助けるって……二人はもうそんな関係に……!?」
フランは笑顔でリュークにされたこと、言われたことを伝えた。
――ただし、それぞれ別々でやられたのをくっつけたのである。
確かに、抱きしめられてそのセリフを言ったのなら愛の告白かもしれないが……。
「おい、フラン? 確かに抱きしめたし、そのセリフは言ったが何か語弊ごへいがあるぞ」
「そう? 事実を言っただけじゃない?」
「いや、そうだが……」
「お兄ちゃん! どういうこと!?」
「リューク、説明してくれるわよね……?」
「ちょっと二人とも……なんか詰め寄ってきて怖いんだけど」
「ふふふ、三人とも仲良いなー」
瞳孔を開いて詰め寄ってきた二人の迫力に引きながらリュークはフランを尋ねた理由を説明する。
しかし、本来アンとアナは今回の王都の依頼に関係ないのでその部分は伏せて、ただ王都の依頼でフランの協力が必要であったということを話す。
「そうなんだ……依頼については詳しくは聞けないの?」
「依頼を頼むフランに話したが、関わってない二人には話せないんだ。ごめんな」
「まあ、それはいいけど……フランはなんでそんな紛まぎらわしい言い方したの?」
「アンちゃんとアナちゃんの反応が面白くてね」
「そんな理由で……」
アンが理由を聞いてため息を吐く。
フランはただアンとアナをからかうのが目的であった。
「じゃあ、アンちゃんとアナちゃんの素材の買い取りを済ませちゃおっかな}
「そうだよ、それが目的でここに来たのに忘れてたよ」
「リュークのせいね」
「俺かよ、話をややこしくしたのはフランだろ」
「リュークが帰ってきたのが悪いのよ」
「なにそれ理不尽すぎる」
アンとアナは持ってきた魔物の素材をフランに見せて買い取ってもらう。
「おー、結構狩ったな。サボってない証拠だな」
「そうだよお兄ちゃん! だからご褒美が欲しいな!」
「何かしてほしいことがあるのか?」
「いつも私からお兄ちゃんに抱きついてるから、今度はお兄ちゃんが私に抱きついてきて!」
アナは小さい身体で両手を広く開いて、リュークに飛び込んで来いというかのように両手を振って催促さいそくする。
「フランにしたんだから私にもできるよね?」
「はあ……わかったよ、ほら」
リュークはアナに近づいて、少し身をかがめて身長差を縮めてから抱きしめる。
いつもはアナの頭はリュークの胸辺りに来るのだが、今回はリュークの頭の隣に来ているのでいつもより密着率が高い。
「んー……お兄ちゃんあったかいね」
「そうか? アナもあったかいぞ」
二人が抱き合ってるのを隣で眺めているアン。
「……」
「アンちゃんもやってもらえば?」
「えっ? い、いや……私はいいわ。そんなことされなくても」
「そう? リューク君の胸大きくてあったかくて気持ちいいよ?」
「……知ってるわ」
前に魔法を押してもらう時に抱きついたことを思い出して、そう誰にも聞こえない声で小さく呟いたはずが、すぐ近くにいたフランは聞こえていたようで。
「ふーん、知ってるんだー」
「――っ!? き、聞こえていたの!? 忘れて!」
「正直にリューク君に抱きつきたいって言えば忘れるかも~」
フランはニヤニヤしながらそう言った。
「くっ……わかったわよ! リューク!」
「ん? どうした?」
アンとの抱擁が終わったところでアナはリュークに話しかける。
アンは両手を広げ、顔を真っ赤に染めながら言う。
「わ、私にも……抱きつきなさい!」
「命令なんだ!?」
アナがアンのその言葉にツッコミを入れる。
「いや、いいけど……なんでそんな鬼気迫るような感じなのか……」
リュークは恐る恐るアンに近づき、アンの身体を抱きしめる。
アンの細く薄い身体が、リュークの腕の中にすっぽり収まる。
「うん……アナよりは抱きつきやすいな」
「っ! そ、そんなこと言わないで……」
リュークはしゃがまないと抱きつけないアナより、立った状態で抱きしめられるアンのほうがいいといった意味で言ったつもりであった。
しかし、アンは耳元で囁かれるようにそう言われて、胸の高鳴りが治まらない。
「よし、もういいか?」
「あっ……そ、そうよね。もういっぱいいっぱいだわ……」
リュークが腕を解いてアンから離れる。
アンは一瞬寂しそうにしたが、顔を紅く染めていそいそと離れる。
「むー、私の時よりお兄ちゃんとお姉ちゃんがなんかいい雰囲気なんだけど」
「ふふふ、アナちゃんももう少し大人になれば大丈夫よ」
「大人って……私、お姉ちゃんと双子だよ?」
「……えっ!?」
「えっ、ちょっと待って! 一ヶ月会ってきて知らなかったの!?」
「……頑張ってね、アンちゃん」
「誤魔化すの下手すぎだよ!!」
こうしてアンとアナの素材の買い取りは終わり、ゴールドを貰って帰ろうとしたがリュークはやることがあるので残ることになった。
「リューク、また後でね」
「お兄ちゃん! 家で美味しい料理作って待ってるからね!」
「わかったよ」
「私もお邪魔していいかなアンちゃん、アナちゃん?」
「……からかうのやめたらいいわよ」
「ふふっ、わかったよー」
「絶対わかってないよこの人……」
そしてアンとアナは店から出ていき、再びリュークとフランだけになった。
「じゃあ、店仕舞いしようかな」
「手伝うよ」
二人は店仕舞いをし始め、数分後には店は閉められていて調合できる環境に整った。
「よし、ありがとねリューク君。じゃあ……調合室に行こうか」
「ああ、よろしく頼む」
二人はカウンターの奥に入っていき、先程と同じく階段を降りていき調合室に入る。
フランはいつも通りに真ん中のテーブルのほうに向かって行き、調合の準備をし始める。
「……うん、準備できたよ」
「……始めるか」
二人は互いに見合って、頷く。
――人族で史上二度目となる、『解呪薬』の製作成功への道が今始まった。
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