第74話 完成
フランは初めて見るレシピとは思えないほどの手際の良さで作業を進めていく。
用意していく様は職人のように素早く、正確であった。
リュークはその様を邪魔をしないように見ていたが、フランが一息つくと共にリュークの出番が来る。
「ふう……。第一段階は終わったかな。リューク君、バジリスクの牙と肝を出せる?」
「ああ、ここに来る前にバジリスクの解体は終わらせといたからな」
リュークは異空間からバジリスクの素材を出す。
バジリスクの牙はリュークの腕程の太さと長さがあって、肝にいたってはリュークの上半身ほどの大きさである。
「大きいね……これを見るだけでバジリスクのでかさがわかるよ。リューク君は本当にこんな化け物に勝ったんだね」
「なかなか強かったぞ。牙もいるのか? 噂では肝と目ん玉だけで作れると聞いたが」
「んーその噂は知らないけど、フローラさんが違う噂を流したんじゃないかな? 一応この薬は毒でもあるからね。毒の作り方が広まらないようにとか」
「フローラって人は凄いんだな。『真実の玉』とか『ランク決め玉』を作ったのもその人なんだろ?」
「うん、だけどフローラさんは剣神様と結婚して魔の森に住むようになってそれから姿を見た人はいなくなったんだよね」
「そうなのか……『ランク決め玉』の声がその魔帝様って誰かが言ってたな。なんか聞いたことある声な気がしたんだよな……」
「よし、じゃあリューク君。こっからバジリスクの素材を使うから治癒魔法お願いね」
「ん、わかった」
話している間にフランの準備が終わり、本格的に薬の作製に入る。
リュークも一度思考を止めて、フランの手伝いをし始める。
フランは椅子に座り、その後ろにリュークが立ってフランの背中に手を添える。
「背中からずっと治癒魔法をかけてやる。二時間は余裕で持つから心配しないで集中して作ってくれ」
「ふふふっ、ありがと」
「じゃあ――始めるね」
二人の戦いが始まった――。
……――。
そして、二時間の時が流れた。
中央にあるテーブルには一つのフラスコが鎮座していた。
その中は透明な液体で占められていて、匂いも全くしない液体であった。
フランは汗だくでその液体を今一度眺める。
レシピが書いてある紙とその液体を見比べて――大きく、頷く。
「できた……」
吐き出したようにその言葉を言ったフランは、緊張が解けて力を失ったように倒れこむ。
それを後ろで見守ってたリュークが抱きとめる。
「おっと……お疲れ様」
「リューク君……ありがとね、手伝ってくれて」
「礼を言うのはこっちの方だ。俺は治癒魔法をかけてただけだ。フランがいなかったらこの薬は出来なかった」
「ううん、リューク君がいなかったら私この薬作ったら死んじゃってたもん。だからそうだね……お互いにありがとうだね」
「……そうだな、俺も薬を作ってくれてありがとな」
「うんっ!」
リュークに抱きしめられたままフランは礼を言って、リュークも至近距離でフランの顔を見ながら礼を言う。
そしてリュークはゆっくりとフランを椅子に座らせて二人とも休む。
「これが解呪薬なのか……透明なんだな」
リュークはテーブルの上にあるフラスコ内の液体を見ながらそう呟く。
「そうだね、私も透明になるかどうか不安だったけど、何とかなってくれてよかったよ」
「これはもう異空間に入れてもいいのか?」
「うん、何日効果が持つかわからないからね。そのリューク君の魔法の異空間に入れれば、時間は止まってる状態なんでしょ?」
「ああ、入れた時の状態で持ち運べる」
「じゃあ王都まで持ってても大丈夫だね」
リュークはそのフラスコを手に取って異空間に入れる。フラスコがテーブルの上から消えた。
「もう外は夜かな……ごめんね、こんな遅くまでかかって」
「大丈夫だよ。アンとアナも家で待ってるから、そろそろここを出て家に行こうか」
「そうだねー、私も行くって言ったから早く行かないとね」
「ああ、休憩が済んだら行こうか」
数分後、フランの疲れが少しとれたので片づけをしてから店を出てアンとアナが待つ家に向かう。
少し歩くと家が見えてきて、家に入るとアンとアナ、それにメリーが台所で料理をしていた。
「あ、おかえりなさいリュークさん! そちらの方は……?」
「ただいま。ああ、そういえばメリーだけは面識なかったな」
「初めましてメリーさん、私はフランって言います。調合師をやっていますー」
「あ、初めまして、メリーです。ギルドの受付嬢をやっています。調合師ってことは、リュークさんの知り合いの方の……」
「そうだな、それは飯の時にでも話そう」
料理もほとんど終わっていたので、すぐに夕飯の支度が済んで四人は食べ始める。
食べながら、リュークはメリーに解呪薬が出来上がったことを伝えた。
「そうなんですね! 良かったです! フランさん、ありがとうございます!」
「いえいえー、私もリューク君がいないと薬作れなかったですから」
「ねえリューク、フランへの依頼って薬の製作だったの?」
「ああ、そうだぞ」
「王都でも薬は作れたんじゃないの? わざわざヴェルノまで戻ってきて調合師を探してたの?」
「そんなに王都って調合師がいないのお兄ちゃん?」
「フランにしか作れない薬だったんだ」
「えっ、フランってそんなすごい調合師だったの!?」
「ふふっ、そうなんだよー」
「……いつものフランを見ていると嘘くさいわ」
「ひどいなーアンちゃん。私のどこが嘘くさいのー?」
「さっき店でリュークとの秘密とかで嘘ついたじゃない」
「あれは……アンちゃんとアナちゃんが騙されるのが悪いんだよー」
「ひどい責任転嫁せきにんてんかね」
こうして四人は夕食を食べていった。
メリーとフランはほぼ同年代ということを知ってからは二人とも敬語を除いて話していた。
そして夕食を食べ終わり片づけを始める。
「リュークさん、薬が出来たのなら明日の朝すぐに出発しますか?」
「ああ、そのつもりだ。そのためにフランに無理言って今日中に作ってもらったからな」
「お兄ちゃんとメリーはすぐに行っちゃうんだね」
「依頼主が待ってるからな。俺も早く届けたいし」
「そうなのね……待ってるからね、リューク、メリー」
「うん、出来るだけ早く帰ってくるからね」
そしてフランは自分の店、家に帰ろうとしたがメリー達に泊まっていけと言われて、お言葉に甘えることにした。
「ありがとね、だけど私はどこで寝ればいい?」
「私の部屋でいいよ、あと一人くらいなら寝れるスペースあるから」
「あ、そうなの? リューク君はどこで寝るの?」
「俺はリビングで寝るぞ」
「リューク君も一緒の部屋で寝ないの?」
「だ、ダメだよ! お兄ちゃんが寝るなら私達の部屋だよ!」
「いや、リビングで寝るけど」
「そうよ、年齢が離れてる人達と寝るとなるとリュークも緊張してしまうわ。それなら私達と寝るべきよ」
「あー、年齢のこと言っちゃうんだ。リューク君はそんなの気にしないよね?」
「別に気にしないが……だから俺はリビングで……」
「ほら、だから私達と寝ても大丈夫だよね?」
「「ダメ!!」」
「なあメリー、こいつら俺の声聞こえてないの?」
「リュークさんは普通にリビングで寝てください……」
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