第75話 依頼達成?


 翌日の朝――。


 リューク達は朝早く起きて朝食を食べ終わり、ヴェルノの街の門に出ていた。

 リュークとメリーはネネとルルの背中に乗っていて、アンとアナ、フランは見送りに来ていた。


「リューク君、メリー、依頼頑張ってね」

「うん、フランもありがとね。絶対フランの薬を依頼主に届けるから」

「頼んだね」

「リュークも早く帰ってこれるように頑張ってね」

「お兄ちゃん、アメリア達によろしくね!」

「わかった。お前達も鍛錬頑張れよ」


 リューク達は別れの挨拶を済ませて、リュークとメリーは王都へと出発した――。



 そして二日後――。


 リュークとメリーは道中何事もなく、ヴェルノを出てから二日後の昼に無事に王都サザンカに戻ってくることが出来た。


「よし、問題なく戻ってこれたな。ネネとルルのおかげだ、ありがとな」

「ネネとルルには助けられてばっかだね。ゆっくり休んでね」


 リュークは乗っているネネの頭を撫でる。メリーもルルの頭を撫でて礼を言った。


 リュークとメリーは王都の門をくぐり、最初に王都ギルドに向かう。

 アメリア達がいる可能性があるのがそこであるため、合流できるのはギルドでしかないと考えたからであった。


 リュークとメリーはギルドに着くと、ネネとルルを外で待たせて中に入る。


 中に入るとカウンターにサーニャがいたので、近くまで行って話しかける。


「サーニャ、お疲れ」

「ん? にゃ、メリー! それにリュークにゃ!」


 サーニャは声をかけるまで書類仕事をしていたらしく、声をかけて顔を上げてようやく気付いた。


「久しぶりサーニャ。アメリア様達を知らない? ギルドにいると思ったから来てみたんだけど……」


 サーニャはその質問を聞くとため息をついて、訓練場の方を指さす。


「またあのハゲが何かやってるにゃ。行ってくるといいにゃ」


 それを聞いてリュークとメリーは訓練場に向かった。


 訓練場に着くと、そこには――。


「もう一回行くわよ~、ほら立って立って!」


 再び化け物オカマが現れていた。


 広い訓練場の中で一人、シアちゃんだけが立っていて、その周りにはアメリア達が倒れていた。


「くっ……これが魔法使いと剣士の体力の差か……」


 アメリアは倒れながらもシアちゃんを睨んでいた。

 テレシアとエイミーは座り込んでトラウマを思い出していたように震えていて、サラは気絶していた。

 まだテレシアとエイミーは経験していただけあって気絶まではしていないが、サラは初めてだったので気絶してしまったのだった。


「またこの光景を見ることになるとは……」

「あら、リュークちゃん。帰って来てたのね」


 リュークとメリーが帰ってきたことに気付いたのはシアちゃんで、その後にやっとアメリアが気づいたという状況であった。


 そして数分後、やっとテレシア達三姉妹が正気に戻ってきてリューク達の帰還に気付いた。


「あ……リューク、帰って来てたんだ……」

「サラ……お前そんなにやつれてたか?」

「しょうがないんですリューク様……サラはよく耐えた方です」

「うちとテレシアは最初から足が竦すくんで戦えなかったからね~。アメリア様は結構戦えてたけど、魔法使いと剣士の一対一だったら相性が悪いからね~」

「久しぶりに本気で戦えたわ~。ありがとねアメリアちゃん!」

「……ああ、私も多少は楽しめたぞ。それ以上に気持ち悪かったが」

「リューク……私の『ここ』、治してくれない……?」

「お前の首の赤くなってるところか? いいけど……」


 リュークはサラの首の傷を治しながら、全員でギルド内に戻る。


 カウンターのところまで来てから、リュークは解呪薬が出来たことを伝えて、シアちゃんに宰相のバルトロに連絡を入れるように頼む。


「シアちゃん、頼んだ」

「は~い、リュークちゃんがあたしのことシアちゃんって呼んでくれて嬉しいわ。すぐに呼ぶからね」

「はあ……もう慣れたけどやっぱ精神的に何か来るものがあるな」

「同感だわ……」


 リュークとサラは死んだ魚のような腐った目で虚空を眺めながら言った。


「ヴェルノに調合師がいたんだな」

「ああ、前からの知り合いの調合師が解呪薬を作れたんだ」

「王都には解呪薬を作れる調合師の方がいなかったので、ヴェルノの街にいたようで良かったです」

「これで王妃様の呪い治るといいね~」


 リューク達はギルドで待っていると、数十分後にギルドの扉を勢い良く開けてバルトロが入ってきた。


「リューク殿! 解呪薬が入手できたとは真まことですか!?」

「ああ、手に入ったぞ。あとやっぱりバルトロさんは声がでかすぎだ」


 汗だくで大声を出してしまったバルトロはハッとして口を手で塞いで周りを見渡す。

 幸いなことに周りにはリューク達以外誰もいなかったので他の人には聞かれることはなかった。

 バルトロは今度は小さい声で話をする。


「で、では皆様、早速ですが馬車に乗って王城に案内いたしますぞ」


 リューク達はバルトロの案内に従って馬車に乗る。

 メリーやシアちゃん、サーニャは前は王女に呼ばれていなかったので、事情は知ってしまったがギルドで待つことになった。


 馬車は前と同じように街中を通って、王城の裏に回って周りに人がいないことを確認してから王城に入っていき、リューク達は裏口から案内された。


「ささっ、こちらへどうぞ」


 バルトロはリューク達は応接室に通して、クラウディア国王を呼びに行った。

 リューク達は応接室で座って待っていると、すぐにバルトロがクラウディア国王を連れて戻ってきた。


「リューク君達、よくぞ無事に戻ってきてくれた」


 クラウディア国王はリューク達を見た瞬間にそう言葉をこぼした。

 バルトロからラミウムの湖から無事に帰還したとは話では聞いていたが、実際目にするまでは不安に思っていたのだ。


「クラウディアさん、解呪薬を持ってきましたよ」


 リュークは早速、異空間からフラスコに入っている解呪薬を取り出す。

 クラウディアはそれをガラス細工を扱うかのように丁寧に受け取る。


「これが……ありがとう、リューク君……本当に、ありがとう」


 クラウディアはフラスコを希望の眼で見ながらリュークに礼を言う。


「まだ本当にその解呪薬が完璧に作用するかわからないです。だけど……俺の友達が命を懸けて作った薬です。絶対に王妃様の呪いを解いてくれると思います」


 リュークは強くそう言い切ってクラウディアの眼を見る。

 クラウディアもその言葉を受け取り、頷いて応える。


「早速妻にこれを飲ませよう。リューク君、ついてきてくれるかい?」

「……いいんですか?」

「ああ、君にはついてきて貰いたい」

「じゃあ、ぜひ」

「君達には悪いけどここで待っていてくれ」

「いえ、アメリア様とサラはともかく、私達は今回の依頼で何もしていないのでお気になさらないでください」


 クラウディアの言葉にテレシアが答える。

 そしてクラウディアは部屋を出ていき、リュークもそれについていく。


 しばらくクラウディアの後について歩いていると、クラウディアがある部屋の前で止まり、そして意を決して部屋へと入っていった。

 リュークもそれに続き入ると、豪華なベッドに腰掛けているマリアナ王妃がいた。


 マリアナ王妃はどこか知らないところを眺めていたが、クラウディアとリュークが入って来たことに気付きこちらに顔を向ける。


「あ……クラウディア様……」

「マリ、おはよう。調子はどうだい?」

「大丈夫でございます……クラウディア様、そちらの方は?」

「ああ、リューク君だ。僕が依頼をした冒険者さ」

「そうなのですか……初めまして、リューク様」

「……はじめ、まして」


 リュークはマリアナ王妃が何度も記憶がゼロになって無くなってることを知らなかった。

 驚愕しながらも、リュークは話を合わせるように挨拶した。


「リューク君が君のために、薬を作って持ってきてくれたんだよ」

「そうだったのですか……ありがとうございます、リューク様」

「いえ……」

「これなんだけど……マリ、飲んでくれ」


 クラウディアはマリアナに近づいて、隣に腰掛ける。

 フラスコを渡すと、マリアナはフラスコ内の液体の不思議そうに眺める。


「これが薬なのですか……無色無臭ですね」

「これで君の呪いが解けるかもしれない」

「そうしたら……私は自分のことを思い出せますか?」

「っ! ……そうだね、戻ると思うよ」


 クラウディアは記憶が戻るかどうかなどわからなかったが、そう答えた。

 マリアナが求めている答え――いや、自分が求めている願望が、その質問に否と答えられなかった。


「そうですか……では……んっ」


 マリアナはフラスコに口をつけて薬を飲んでいく。

 二度、三度ほどマリアナの喉からゴクッゴクッという音が聞こえて、薬を飲み干す。


 マリアナはフラスコをクラウディアに渡すと、頭を抱えだす。


「うっ……! ああっ……!」

「マリっ! 大丈夫かい!?」


 マリアナはしばらく頭を抱えて苦しんでいると、急に糸が切れたように気絶する。

 クラウディアは倒れないように抱きかかえると、ベッドにマリアナを寝かして、布団をかける。


「これで呪いは解けたのかな……」

「わからないですが……」

「しばらくは様子見かな……。もう一度礼を言っとくよ、リューク君。これで妻が治らなくても、君が妻のために命を懸けて依頼を受けたことに僕は感謝しかない」

「いえ、俺がマリアナ王妃を助けたいと思っただけですから」


 そしてマリアナ王妃を寝かして、クラウディアとリュークは部屋を出た。


 クラウディアは何度も部屋に行ってマリアナの様子を見ていたが、夜になっても起きる様子はなかった。


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