第101話 魔獣の後悔
「さっさと終わらせて――オレは楽園に行くんだ!!」
セレスは叫びながら魔物の群れに突っ込んでいく。
魔物はセレスより大きく、二メートル近くある。人型の体形をしていて、暗いからわからないが血のような赤色の肌をしている。ガタイがよく、手にはこん棒のようなものを持っている。
精霊族の地に生息する魔物――レッドオーガ。普通の人間ではまず持てないようなでかいこん棒を手にして、それを力いっぱい振り回す。それに当たったらリュークでも致命傷は免まぬがれないだろう。
そのレッドオーガがセレスの目の前に五匹いる。
そしてその一匹がこん棒を振りかぶり、セレスを叩き潰そうと上から振り下ろしてくる――。
「――オラッ!!」
図太い声を上げてセレスはそれを両手斧で受け止める。
セレスの足が地面に少しめり込むほどの衝撃が走るが――セレスは受け止めた後に余裕そうにこん棒を上へと弾き返す。
そしてそのままの勢いで両手斧を横に薙ぎ払うと、オーガの身体を横一線に真っ二つにする。
そのオーガの身体が上半身と下半身に分かれてずり落ちている最中に、セレスは次のオーガに両手斧で下から上へと振り上げるようにして首を狙う。その一匹は何もできずに首を飛ばされ、後ろへと倒れこむ。
「ハッ! まだまだ足んねえぞ!」
精霊族には火魔法を得意とする『ドワーフ』、水魔法を得意とする『ウンディーネ』、風魔法を得意とする『エルフ』、土魔法を得意とする『ノーム』がいる。
その中でもドワーフは精霊族の中でも力が強いとされている。
しかし、それは精霊族の中で比べたら強い程度であり人族と同じくらいの筋力しか持ってなく、獣人族や魔人族には遠く及ばない。
だが――セレスは何故かドワーフという恵まれていない種族だというのに、その力は獣人族や魔人族に比べても遜色ない。
なぜそんなに力が強いのか――とセレスに問いかけても、「生まれつきだから」としか彼女は答えられない。
なんでそんなに綺麗なのか――と問いかけても同じく、「生まれつきだから」としか答えられないだろう。
その生まれつきの力を持って、セレスは両手斧を振り回す。ドワーフという種族の壁を越えた力が、決して弱くない魔物のオーガを蹂躙する。
「最後一匹だ!!」
セレスが三匹目と四匹目を殺して、五匹目の方向を見たが――そいつはセレスに背中を向けて逃げようとしていた。どうやらセレスと自分の力差を思い知ったらしく、逃走を図ろうとしている。
「何逃げようとしてんだ――あっ?」
セレスがその背中を追いかけようとした瞬間――後ろから白い塊が飛ぶようにしてセレスを抜き去り、そのままの勢いでオーガをも抜き去った。
そして抜き去った後にセレスが見たのはオーガの頭が消えていて、断面から血を噴き出して倒れるところだった。
「お前……!」
セレスの後ろから飛んできたのは、ユニだった。そして頭から生えている角には少し血がついていて、その足元にはオーガの頭が転がっていた。
「なにおいしいところだけ奪ってくれてんだ!?」
セレスがそう叫ぶが、ユニは無視して頭を少し振ると自分の角から血を振り払う。一瞬振るだけで元の白くて綺麗な角の状態に戻った。
そしてセレスの横を通って寝床に戻ろうとするが――セレスが片手でユニの肩を掴んで止める。
「お前とは少し話付けないといけねえな……語り合おうぜ、拳で!」
もちろんユニには拳はなく、あるとしても蹄ぐらいだが――セレスはユニを寝床に戻す気はない。
ユニは魔獣で喜怒哀楽が分かりづらいはずなのに、はっきりとわかりやすくため息をつく。
「おら、こっち来い! やってやろうじゃねえか!」
一人だけオーガとの戦いで気分が高揚したのか、セレスは闘争心むき出しでユニを連れて寝床から離れていく。ユニは掴まれているので仕方なくついていく。
「なにやってんだあいつら……まあ仲良くなるのはいいことだな」
リュークは一人、ベッドに入って戦いが終わるのを見ていたが、なぜかセレスとユニが森の奥の方に行ってしまったので、セレスを待たずに寝ることにする。
そして一時間ほど経って、やっとセレスが自分はこの世の楽園に行こうとしていたことに気付き慌てて寝床に戻る。
しかし、そこにはもうすでにベッドで寝ているリュークの姿。
一人用のベッドなので普通に寝たら、あとからセレスが入るほどの空きはない。
しかも、セレスの目の前ではあどけない寝顔で寝ているリュークがいるので、万が一にもこんな尊い存在を起こしては悪いとセレスは思って、無理やりベッドの中に入ることはやめる。
「くっそ……全部お前のせいだ。いや、そもそも魔物が来ることが悪いんだ。いや、魔物が来るのは魔獣が弱いせいだからやっぱりお前のせいだ」
なんともよくわからない考え方をしたセレスにグチグチと文句を言われ続ける魔獣のユニ。
そもそもオーガはこちらの力を見て襲ってくるような魔物ではなく、精霊族にいる魔物の中でも例外の魔物だからリュークやユニがいても襲ってきた。
そんなことはわかっているセレスだったが、胸の中のわだかまりを大人げなくユニにぶつけていた。
ユニは初めて、自分が人の言葉がわかる魔獣であることを悔やんだ日となった。
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