第100話 いざ楽園へ
リュークとセレスを乗せた馬車は順調にユーコミス王国への道を進んでいた。
「今のところ見事に何もねえな……これも『道具』のおかげか。道具なりに役に立ってるんだな!」
度々セレスはこうしてユニコーンを挑発して、ユニコーンもその度に殺気を漏らしてセレスに敵意を向けていた。
「セレス……少し大人げないぞ。そんなんじゃ俺のこと子ども扱い出来ないぞ」
「うっ……わかったよ、もう言わねえよ」
子ども扱いしていたリュークにそう言われてしまい、セレスは何も言えなくなってしまう。
「ユニも落ち着け。セレスも本気で言ってるわけじゃないんだから」
リュークは手綱を引いてるわけではないが、御者席に座ってユニコーンに話しかける。
「リューク、そいつに名前つけたのか?」
「ああ、ユニコーンだから『ユニ』。いい名前だろ?」
「いや、まあ……そうだな」
安直すぎる名前にいつものセレスならからかいでもしたのだが、リュークの自信満々などや顔を見せられて何も言えなくなる。
(誰でも考えられそうな名前つけてどや顔してるリューク超かわいいんだけど……!)
心の中でそう叫びながら悶えているセレスを不思議に思いながらリュークはそのままにしておく。
「何やってんだ……というかセレス、ユニのおかげで何もないってどういうことだ?」
セレスが言っていたことを疑問に思いリュークはいまだ悶えているセレスに問いかける。セレスは声をかけられてようやく悶えるのをやめて、見られていたことを恥ずかしく思って誤魔化すようにわざとらしく咳払いをしてから答える。
「そ、そうだな……今走ってるこの森は、いつもなら結構魔物が多く出るんだ。例外もあるが、そのほとんどの魔物はこちら側の実力を見極めてから出てくるのだが……その実力ってのが何故か身体能力しか見ないらしく、魔法がどれだけ上手いやつがいても出てくる」
「そうなのか、だけど精霊族は身体能力は低いって聞いたぞ?」
「ああ、精霊族の奴だけでここを通ると結構魔物は出てくる。だから身体能力が高い魔獣を連れてこの森を抜けるんだ。魔物の襲撃がないってことはそのユニコーンがどれだけ強いかってのがわかる」
「そうなのか、やっぱりユニは強いんだな」
リュークが褒めるとユニは嬉しそうに鳴き声を上げて応える。
(まあ多分……リュークがいるってこともあるけどな。というかユニコーンのやつよりどう見てもリュークのほうが強いだろうし)
セレスが考えている通り、リュークがいるってことが魔物に襲われない一番の理由であった。身体能力の強さで言えば軽くユニコーンを凌駕しているリュークがいるからこその、森の静けさであった。
「しかし、ここの魔物はなんで魔法の実力を見ないんだろうな」
「さあな。単純にバカなのか、それともそういう進化をしてきたのか。ここだと魔法を極めてるやつが多すぎて、魔法の方の実力を見てたら全く襲えないからそっちの実力は見なくなったっていうことを聞いたことはあるが……詳しくは知らん」
「まあ、それなら理由としては筋が通ってるからその通りなのかもな」
――そしてリューク達は魔物に一回も襲われることなく、静かな森で夜を迎えた。
海からあの『ドラセナ山』は近くに見えたがそれは山がでかいからであり、実際はユニコーンの速さで馬車を引いても二日はかかる距離にユーコミス王国はある。
さすがに夜になったので今日は少し開けた場所で野宿することになり、リュークとセレスは夕飯を食べていた。
「今日は獲物を捕まえられなかったから普通にパンを食べるか……いつもなら襲ってくる魔物を食うんだが、今日は出てこなかったからな。襲われないっていうのも良いことだけじゃねえな……」
「今日と明日だけだからな。確かに昨日とかは魚を食べてたからその差は大きいが……」
明日も魔物が出てこなかったら自分達から狩りに行こうかと検討する二人であった。
「ユニも食べるか? 硬いパンでごめんな、明日は肉を食わせてやるからな」
ユニは大丈夫だと言うように少し鳴いてから、リュークに差し出されてパンを噛み砕くように食べる。
その様子を眺めながらセレスも自分のパンを千切ってから口に放り込む。
(オレもあーんしてほしい、というかリュークにオレがあーんしたい……はっ!? 何考えてんだオレは! バカか!!)
自分で考えていたことを振り払うように頭を横に勢いよく振って、顔を赤くしたまま今度は千切らずにパンにかぶりつく。
夕飯時にそんなこともありながら時間は過ぎていき寝ることになり、リュークが異空間からベッドとハンモックを出す。
「セレスがベッド使ってくれ。そっちの方が寝やすいだろうからな」
「いや、リュークのなんだからお前が使えよ。オレはハンモックでも十分だ」
二人はお互いに相手にベッドを使わせたいと言って引かない。そしてセレスが妥協案として恥ずかしがりながら提案する。
「そ、それなら一緒にベッドに寝るか? それで解決だろ?」
「んー、それもそうか。じゃあそれで」
リュークが先にベッドに入り、布団を捲ってセレスが一人寝っ転がれる分だけ開ける。
そしてその空いたところをぽんぽんと叩いてセレスにそこに入るように呼ぶ。
「ほら来いよ。一緒に寝ようぜ」
(なんだその仕草とセリフ……! 可愛いしカッコよすぎるだろ!!)
セレスは顔を赤くして悶えるのを我慢しながら、意を決してそこに入ろうとする――が、そこに邪魔が入る。
突如後ろから嫌な気配がしてセレスは勢いよく振り向くと、そこには何匹かの魔物がいる。
ここの魔物は相手の身体能力の実力を見て襲うか襲わないか判断するのが多いが……例外もいる。
「くそが……いいところなのに邪魔してんじゃねえよ!!」
セレスはあともう少しのところでこの世で最高の場所に行けたのに、と怒り狂う。
馬車においてあった両手斧を持って魔物と対峙する。
「さっさと終わらせて――オレは楽園に行くんだ!!」
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