第150話 久しぶりの共闘
「おいおい、どうなってんだこりゃ……」
ヴァリーは目の前の光景を見てそう呟いた。
「すごいね、これ」
リュークもさすがに苦笑いをしながら言った。
二人がこの王宮に着いて、中に入り王の間までの道で曲がった覚えはない。
王宮に入ってずっと直進の道を案内された。
だが王の間から逃げるようにして飛び出し、目の前にある道はまず直進ではない。
グニャグニャと曲がっていて、そして何本も別れ道がある。
ここまでわかりやすい幻覚はないと言っても過言ではない。
「どこを進んでも出口まで辿り着かなそうだが」
先程から幻覚魔法を見破ることができないで、力技で押し通してきたヴァリーはそう言った。
しかし、リュークは違う。
「父ちゃん、俺の後ろについてきて」
「おう、任せた」
リュークはそう言ってから走り出す。
ヴァリーもすぐ後ろをついていく。
走り出したその先は、道など無く完全な壁である。
しかし、リュークは躊躇いなくその壁に突っ込んでいく。
そしてすり抜ける。
ヴァリーもその壁を抜けるが、まだまだ変な光景は続いている。
その間にも壁から出てくる柱などが二人を襲うが、なんなく対応していく。
「しかし、来るときは一本道だったはずだが、何度も曲がってるぞ」
ヴァリーはリュークの後ろをついていっているだけだが、リュークが何度も道を曲がっているのを感じてそう言った。
「父ちゃん、俺はずっと真っ直ぐ進んでるよ。幻覚魔法にかかっている父ちゃんから見たら、曲がってるように見えるかもしれないけど」
「マジか!」
ヴァリーはその言葉に驚愕する。
自分が見ているものが、ほとんど幻覚に近いというのだ。
「幻覚魔法って凄すぎだろ」
「そうだね、この魔法だったら――」
いきなり前を走っていたリュークは止まり、ヴァリーの方に振り向く。
「――こうやって同士討ちをさせられる」
そして、ヴァリーの首に木刀を振り抜いた。
「……お前、偽物か」
しかし、ヴァリーはその攻撃を簡単に止めていた。
少し油断していたが、見てから余裕を持って止められるほど偽物のリュークは弱かった。
「ふっ、さすがだ」
目の前にいる偽物がニヤリと笑って喋ったと思いきや、その声はイサベル陛下のものだった。
「邪魔だ」
一瞬で偽物の首を落とすヴァリー。
首を落としたが、血は出ることはなくそのまま偽物は消えていった。
「父ちゃん!」
するとすぐにまたリュークが現れる。
ヴァリーは偽物の首を斬った時の速度で刀を振るう。
「っと、大丈夫だった?」
それを軽く木刀で受け止め、ヴァリーに安否を聞いてきた。
「本物か」
「うん、いきなり父ちゃんが意味わからない方向に走り出してビックリしたよ」
「つまり最初から偽物だったのか、やられた」
ヴァリーは苦い顔をして舌打ちをした。
「今は俺と父ちゃんがいる範囲に魔力の結界を張ってるから、これからは偽物に惑わされることはないよ」
「そりゃよかった。まあ最悪、攻撃して防がれたら本物ってことだな」
「一応ね、物騒な確認の仕方だけど」
二人がそう話している間にも、幻覚魔法に紛れて本物の攻撃や魔法が飛んできている。
先程までヴァリーは幻覚魔法を見破られずに全てに対応しないといけなかった。
しかし今はリュークの魔力の結界の中にいるため、その中に入ってくる魔法は全て本物。
幻覚魔法はその中に入ってこれないので、本物の攻撃だけを対応できるようになった。
「いやー、楽だな。さっきまでの二倍ぐらい楽だ」
「めんどくさいことしてたもんね」
攻撃を塞ぎながら二人は楽しそうに話す。
「久しぶりだな、リュークと協力して戦うのは」
「そうだね」
何年も前に、魔の森で魔物相手に共闘した。
幼かったリュークは本気だったが、ヴァリーは本気ではなかった。
今ではリュークも強くなり、二人が共闘するほどの相手はほとんどいないと思っていた。
しかし、今は二人が本気で脱出しようとしても難しいぐらいの相手。
父と息子は、お互いに顔を見合い笑った。
――これが楽しくないで、何が楽しいのだ。
「行くぞリューク、無傷でこの王宮から出てあの女王にドヤ顔してやるんだ」
「外に出てドヤ顔しても……ああ、あの人なら遠くを見れるか」
イサベル陛下の千里眼魔法を思い出して、ヴァリーが外でドヤ顔しても見れることを思い出す。
「よし! 道案内は任せたぞリューク!」
「もちろん、今度は偽者に惑わされないでついてきてね」
「恥ずかしいから言うな!」
二人は笑いながら、色んな魔法が飛び交う王宮の中を走り出した。
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