第151話 脱出のためには

 リュークとヴァリーは脱出するために、王宮の中を駆けていた。


 四方八方から火や水、風や土、様々な種類の魔法が二人を襲う。

 それを余裕で避けながら、出口に向かっていた。


「リューク、あとどのくらいだ!? 王の間から王宮の出口までそこまで遠くなかっただろ!?」


 風魔法が襲ってきたのを斬り伏せながら、ヴァリーはそう問いかける。

 走りながら喋っているので、必然的に声が大きくなる。


「まあそうだけど、父ちゃんが偽物に騙されたから遠くなってるよ!」

「それはごめん!」


 自分のせいと言われて何も言えなくなる。


「それに、今目指してるのは王宮の出口じゃないよ」

「は? どういうことだ?」


 リュークの言葉に疑問が湧く。


 ここから脱出しようとしているのに、出口に向かわないでどこに向かうというのか?


 そう問いかけようとしたが、リュークが立ち止まる。

 いきなりのことで驚くも、ヴァリーもすぐに足を止めた。


「ここだね」

「俺には壁しか見えないが……」


 ヴァリーにはリュークが立ち止まり見ている方向には、壁しか見えない。

 いや、おそらく幻覚で壁だけが見えるようになっているのだろう。


 ヴァリーには見破れないが、リュークは見破れている。


「この壁? の向こうには何があるんだ? 脱出できるのか?」

「脱出するには、ここに来るしかなかったから」


 リュークの周辺には魔力の結界があり、その中には幻覚の光景が入ってこれないようになっている。


 だからリュークがその壁に近づくと、ヴァリーの目にも本物の光景が見えてくる。

 その壁は、本当は扉だった。

 大きな扉を開けようとリュークが手を伸ばすが、扉が勝手に開いていった。


「あ? ここってまさか……」


 ヴァリーはその扉に見覚えがあった。

 この王宮に着いて、案内された場所。

 自分がここから脱出しようと思い、斬ったはずの扉。



「待っておったぞ、リューク、それにヴァリーよ」



 扉が開いた先、王の間でイサベル陛下が二人が脱出した時と全く変わらず、玉座に右肘をついて座っていた。


 王の間の中は幻覚が無く、一番最初に来たときと変わらない光景である。

 いや、ヴァリーにはそのように見えるが本当はこれも幻覚なのかもしれない。

 油断をせずに周りを警戒しながら、リュークから離れないように王の間に入っていく。


「リューク、なんでここに戻ってきたんだ?」


 小さな声でそう問いかけたヴァリーだったが、イサベル陛下には聞こえていたようで。


「もちろん、余と結婚するためだろう?」


 ニヤリと笑ってそう言った。

 黙っていろ、と言う風にヴァリーは睨みつける。

 その睨みを意にも介さず、玉座に座って二人を見下ろすイサベル陛下。


「もちろん、それは違うけど」

「それは残念だ」


 リュークはきっちりと断り、イサベル陛下も予想していたのか少しも残念がっているように見えない。


「じゃあなんで戻ってきたんだ?」

「あいつを倒すか、説得しないとここから脱出できないんだ」


 リュークの言葉にイサベル陛下は笑みを深くする。


「くくくっ、さすが余の夫となる者、予想より早く見破ったな」

「だからならねえって何回も言ってるだろ」


 リュークは玉座に近づきながらヴァリーに説明する。


「まず最初にここから脱出するために、魔力感知をしたんだ。それで王宮の中の構造とか、出口までの道のりとかはわかった。けど、それ以降は全くわからなかった」

「それ以降? どういうことだ?」

「つまり、王宮の外が全く魔力感知ができなかったんだ」


 ここより外は普通にユーコミス王国の貴族街などが広がっているはず。

 それなのに、リュークの魔力探知にはそれらの反応が全くなかった。

 反応がないというより、魔力探知が遮断されているような感じであった。


「魔力探知ができないのは、確実に何かこの陛下が邪魔していると思った。じゃあ、どんな邪魔をしているのか。思いつくのは一つだけだった」

「ほう、それはなんだ?」


 リュークの答え合わせが楽しいのか、イサベル陛下はニヤリと笑いながら問いかける。


「時空魔法の『空間断裂ラプチャー』。この王宮を、お前の異空間の中に入れたということだ」

「くくくっ……ああ、その通りだ」


 『空間断裂ラプチャー』。

 時空魔法を使える者なら魔力量の大きさによって異空間を持てて、その中に物を入れることができる。


 リュークもこの魔法を使ってレンの家を異空間の中に入れ、他の者に見られないように、話を聞かれないようにした。


 イサベル陛下もこの魔法を使って、王宮を自身の異空間に入れた。

 だからリュークが魔力感知をしても、王宮の外は何も無いのだから感知できなかったのだ。


 この魔法で王宮が異空間の中にある限り、外に脱出することは不可能。

 脱出するにはこの魔法を行使している人物、つまりイサベル陛下が魔法を解くか、魔法が発動できない状態にするしかない。


「この魔法を解いてくれないか?」

「断るに決まっている」

「そうか、じゃあ――ここでお前には気絶してもらうしかないな」


 リュークはそう言って、魔力を解放し戦闘態勢に入る。


「俺にとっては好都合だ。お前にはイライラしてたから、一回くらいはぶっ飛ばしてやりたいところだった」


 ヴァリーも最初から戦闘態勢に入っていたが、より一層集中力を高めていく。


「くくくっ、怖い怖い。一人の女に対してそんな本気になるものかね」

「今更だろ」


 軽口を叩き合うが、イサベル陛下も魔力を解放する。


「では、余も本気を出さないと危ないな」


 イサベル陛下はそう言って、立ち上がる。


 そして右腕も幻覚で作っていたが、消え失せる。

 右腕を作っている魔力すら、この二人を相手取るには無駄な消費だと考えた。

 そうしないと互角にもならない。


「余の夫となる者、そして義父になる者よ。お前達の力を見せてくれ――!」


 二人は同時に「ならねぇって言ってるだろ!」と叫びながら、イサベル陛下に攻撃を仕掛けた。

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