第152話 近衛兵
「なあ、中で何が起こってるんだろうな?」
ユーコミス王国の王宮を警備している兵士が、隣の兵士にそう話しかけた。
「知りませんよ。俺に聞かないでください」
右手に杖を持っているが、この仕事でほとんど使ったことがない。
欠伸を噛み締めながら、誰も近づかない王宮の警護を続ける。
「兵士が王宮の中に入らないってのは多い、というかほとんどそうだが、宰相や他の役人達が王宮から全員出るってのは珍しくないか?」
「まあそうですね」
この国の王、イサベラ陛下は近衛兵を持たない。
たとえ何百人、何千人がいようと、イサベラ陛下よりも弱いからだ。
『余より弱い者が余を守るなど、全くもって意味がない』
二百年前に陛下が即位したとき、イサベラ陛下がそう口にしたのをその兵士は覚えている。
まだ近衛兵になって数年しか経っていなかったが、そんなことを言われるとは思っていなかった。
その後、近衛兵千人対、イサベラ陛下ただ一人の勝負をした。
近衛兵が一撃でもイサベラ陛下に攻撃できたら、近衛兵という王を守る制度は続くという条件で。
近衛兵としては普通にイサベラ陛下に勝てば、という条件にしようとしたのだが、イサベラ陛下がそれを取り止め一撃入れるだけ、ということにした。
さすがにそれくらいはできるだろう、と近衛兵の全員が思ったのだが、甘かった。
勝負が始まった瞬間、近衛兵が魔法を放つ。
千人いるが一瞬で二発や三発撃てる者もいたので、おそらく二千ほどの魔法がイサベル陛下を襲っただろう。
それを、イサベル陛下はたった一つの魔法で打ち破った。
近衛兵全員が唖然とし、次の魔法を打てないでいる中、
『なぜ次を撃ってこない? まさかこれで終わりではないだろう?』
ニヤリと笑ってそう言った陛下に対して、新人だったその兵士は不敬だとは思うが恐怖したのを否定できない。
その後、何千という魔法を放ち続けたが、イサベル陛下がただ一人でその全てを相殺し、戦いは終わった。
『余に一撃でも入れられる男がいるのならば、余の夫としてやろう』
近衛兵千人に勝った陛下は最後にニヤリと笑いながらそう言い放った。
その後、陛下の発言を聞いてユーコミス王国の貴族や平民の男達が戦いを挑んだ。
しかし、近衛兵にいた男達は誰一人挑まなかった。
結果は言うまでもない、それから二百年経った今でも陛下は独身である。
「さっき王宮に入っていった人族の二人は誰なんでしょうね?」
隣にいる後輩がそう言ったのを聞いて、昔のことを思い出すのをやめて応える。
「さあな、俺に聞くな。だがまあ、結構強かったな」
「わかるんですか?」
「なんとなくな、まあイサベル陛下には及ばないとは思うが」
昔味わったあの強すぎるイサベル陛下の魔法。
おそらくさっき入った者の一人は魔法使いだったが、一人は剣士だった。
至近距離でしか攻撃できない剣士が、あのイサベラ陛下に勝てるとは到底思えなかった。
もう一人の者も自分より魔法は強かったが、イサベル陛下ほどではないだろう。
「二人とも剣士でしたもんね」
「は? いや、一人は魔法使いだっただろ」
「えっ、だけど二人とも刀を持ってましたよ? なぜかどっちも木刀でしたけど」
「なぜ木刀なんだ……」
しかし、あの自分よりも魔法が強い者も木刀を持っていたとしたら、魔法剣士ということか?
だが、魔法と剣はどちらか一方しか極めることはできない。
魔法であれだけ強かったのなら、剣はそこまで強くないだろう。
そう判断した兵士が、また無言で警護を続けようと思ったのだが――。
いきなり、目の前に人が現れた。
声を上げそうになったが、さっきもこの光景を見た。
現れた人物を見ると、やはり先程ここに来て王宮に入っていった人族の二人だった。
「おっ、出れた」
「はぁ、よかったぜ。もうあんな奴と会うのはめんどくさいからな」
目の前の二人からそんな会話が聞こえてきた。
あんな奴とは、イサベル陛下のことだろうか?
おそらくここに来たときと同じように何かしらの魔法で王宮の中からここまで来たようだ。
「あ、さっき案内してくれた人」
魔法使いだと先程まで思っていた人がこちらを見てそう言ってきた。
よく見ると確かに腰に木刀がある。
「中で陛下が倒れているから、治療してあげてくれ。いらないかもしれないけど」
「……はっ?」
「じゃあ、俺たちは帰るから」
訳の分からないことを言って、その二人はまた一瞬で消えた。
残ったのは変な知らせと、変な空気だ。
「……どういうことだ? 陛下が倒れている?」
「まさか、病で……!」
「っ! そういうことか!」
さっきまで陛下との戦いを思い出していたから、あの二人と陛下が戦って敗れて倒れていると思い込んでしまった。
それだったら早く行かないといけない。
後輩と一緒に王宮の中に入り、王の間に急ぐ。
しかし、本当に病なのか?
病で倒れてしまったのなら、先程の二人はなぜそれを伝えるだけで帰っていったのだろうか?
なにか理由があるのか、それか病ではないのか……。
そう思いながら王の間への道を走り抜け、そこにたどり着いた。
いつもは閉まっているはずの王の間の扉が今は開いている。
いや、空いているのではなく、扉がない。
なぜなのかはわからないが、とりあえず中に入ると――。
そこには血に塗れ、地面に倒れ伏しているイサベル陛下の姿があった。
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