第97話 新たな旅


「セレス、なんか顔赤いけど大丈夫か?」

「ん? そうか? まあ大丈夫だ、理由はわかってるからな」

「そうなのか、ならいいが……」


 セレスはドワーフの女友達と時々恋愛話をしていた。

 その際に、好きな人からどういうことをされると嬉しいなどと聞いていた。


 自分の名前を呼んでくれるだけで嬉しくなるという者もいたのをセレスは覚えていたが、聞いた時は「そんなことでか?」と言ってしまうほど疑っていたが――。


(――なるほどな、顔が赤くなるほどなのか……ははっ、あいつに謝らないとな)


 心の中でそんな乙女なこと考える一二〇歳であった。



 そしてその後、リュークが先に寝ていたのでセレスが寝ることになる……と思いきや、リュークも一緒に寝ることになった。


「さっきの竜巻を寝ていながら気づけたなら、寝ても大丈夫だろ?」

「まあ、寝ててもある程度の危険は察知できるが」

「じゃあ一緒に寝ようぜ、もうあれ以上の危険は来ないと思うしな」

「そうだな……俺もさっきので少し魔力を使って疲れたから寝るか」

「あれで少しって言えるのが凄いがな……」


 セレスが積極的にリュークと一緒に寝たいと言ったので、リュークも断る理由がないために一緒に寝ることになった。

 といっても一緒の布団ではなく、布団を隣り合わせて寝るだけであった。


 最初は一緒の布団にしようと思っていたセレスだったが、直前になって恥ずかしさが勝ってしまったのだ。


「す、すまん……やっぱり布団は一緒じゃなくていいか?」

「ん? セレスが一緒にって言ったのにいいのか?」

「ああ……その、やっぱり二人で使うには狭いだろ?」

「結構広い布団だけど。まあお前が良いなら俺はいいが」


 そんな会話をしてから別々の布団に入ったが、セレスは隣にリュークが寝ていることに少し緊張して寝付けなかった。

 数十分前に、寝込みを襲おうとした人とは思えないほどの変わり様であった。



 ――リュークとセレスは三日間海の上で過ごした。


 初日の夜の巨大な竜巻ほどの脅威はそんな頻繁に襲ってくるはずもなく、その後の三日間は特に何事もなく過ごすことが出来た。


 セレスにとっては初めて恋をした相手と二人っきりで過ごす三日間だったのでとても充実した三日となり、リュークも初めてのドワーフの相手とあっていろんな話が聞けたのでお互いに有益な三日間となった。



 そして――。



「リューク、見えたぞ! あれが精霊族の大陸、ノーザリア大陸だ!!」

「あれか……」


 リュークが船の進行方向を見ると、薄っすらと大陸のような影が見えるのがわかった。

 人族の大陸を出る時も離れていく影を見ていたので、リュークは人族の大陸と違うところを見つけた。


「あのでっかい影はなんだ?」

「あれは『ドラセナ山』だ! あの山の麓に今回の目的地、ユーコミス王国がある!」


 人族の大陸は地平線にうっすらと影が見えるくらいだったが、精霊族の大陸は地平線に大きく突出している影が見える。

 ドラセナ山は山頂付近が雲で隠れていて見えないほどの大きさであった。


「すげえな……」

「だろ? あそこの山からいろんな鉱物が取れるんだ。それで剣とかを作ってる。だからユーコミス王国は世界一の鍛冶師の国って言われるんだ」

「そうなのか……」


 大陸に近づくにつれて港もしっかりと見えてくるが、その後ろにそびえ立つドラセナ山のほうに目が行ってしまう。


「ほとんど緑だけど、岩の色と言えばいいのかわからんが、灰色みたいなところがあるな」

「まあ一応鉱山だから、少しは削っているからな。しかし、よく見えるな……オレには緑に覆われているようにしか見えないが」


 そんなことを話していると、リューク達を乗せた船は港へと到着する。

 港へ着き、船が流されてないように固定すると、セレスはまたもや船からジャンプして港へと降りる。リュークもそれに続いて飛び降りる。

 港にはリュークとセレス以外に誰もおらず、静かなところであった。


「よし、一ヵ月ぶりのノーザリア大陸だぜ」

「そうなのか? 俺を迎えに来るだけだったら、一週間ぐらいじゃないのか?」

「ん? あー……いや、まあ仕事があったからな」

「そうか、そういえば剣とかを運んでいるとか言ってたもんな」


 一ヵ月前に、リュークを連れて精霊族の大陸に渡るという依頼を受けて、それからずっと人族の大陸で待っていたということはリュークには言えないセレスであった。


「じゃあ行くか。もうユーコミス王国に行く手筈は済んでいるはずだから、すぐにでも出発できるぜ」

「ならすぐに出発しよう。特に疲れてるわけでもないしな」

「よっしゃ、はぐれないようにしろよ」

「子ども扱いすんなよ」

「まだガキだろ? オレの十分の一しか生きてないならな」

「一二〇歳ってほんとなのか? 全然そういう風に見えないが……」


 船の上でお互いの年齢を話した二人だったが、リュークはセレスとの話でその年齢についての話題が一番驚いていた。


「精霊族は長寿で老いが遅いんだよ。しっかりついてこいよ、リュークちゃん!」

「うざいな……」


 からかうように笑いながら言うセレスに呆れたように、しかし楽しそうに笑うリューク。


 そんなガキに惚れたセレスはこれからの旅を想像して楽しそうに歩き、リュークも未知との遭遇を楽しみにしながら後をついていく。



 ここから――リュークの新たな旅が始まるのである。


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