第17話 ボスとの闘い
――殺った……っ!
その少女は確信した。
間合い、タイミング、自分のナイフを突き出す速さ。
全てを置いて完璧だった。
しかし、ナイフに伝わる筈の感覚が、いつまでたってもやって来ない。
肉を切り裂く感覚が。
すると、少女の目の前から相手の男が消えた。
突然、いた筈の人が消え、少女は驚愕した。
「惜しいな、凄い惜しい」
少女の背後から、そんな声が聞こえた。
後ろを振り返ると、その男――リュークがこちらを向いて立っていた。
リュークの手にはナイフが握られていた。
少女が持っていたナイフだった。
「どうやって……」
少女が思わず言葉をこぼす。
――完璧だった、避けれるタイミングではなかった……っ!
少女がそう思うのも無理はない。
少女とリュークの間はほとんどゼロ距離だった。
ナイフを懐から出して突き刺せば、コンマ数秒で刺さる筈だった。
「俺が気づいてなかったら、多少の傷は受けていたかもな」
リュークは少女に向かってそう喋る。
「気づいてたというの? どこから?」
少女の目には、リュークがこちらの思惑に気づいてる様子はなかった。
「最初から。洞窟の前に着いた時にもう分かってた」
リュークの言葉に、少女だけでなく他の盗賊の女達も驚愕する。
「まず女達がほぼ裸の状態で待ってた。俺と戦う意志はないと言って。まあ武器は持ってなかったけど……それでこっちが警戒を解く筈ないよな? だって武器持ってなくても魔法は使えるんだから」
リュークは女盗賊達に説明、答え合わせをする。
「あと俺は相手の魔力から、敵意を感じることが出来る。それでお前達から感じ取った結果、敵意はまだ全然感じた。屈服したってなら敵意は感じないと思うしな」
女盗賊達はリュークの言葉に返す言葉がない。
「あと中に奴隷にする女の子がいるっていうのも少しおかしい。老若男女関係なく殺して物資を奪ってく盗賊と聞いていたから、女の子を1人生かしてるってのも不自然だ」
少女は悔しそうに歯軋りをする。
相手の男に、こんなに作戦がバレているなんて思ってもみなかったのだろう。
「だけど、そこの女の子! お前は完璧だった。お前からは敵意は感じなかった。あれが演技だとはとても思えなかったぞ。だけど1つだけ間違えた」
「……間違え? 私が何を?」
「多分お前は高度な魔法使いだ。お前から出てる魔力を感じ取ったが街で見た子供達と同じぐらいの魔力の量だった。だけど……淀みが一切なかった。身体から漏れ出る魔力は状況や感情によって左右される。しかし君の魔力は怖がっている割には魔力に全く乱れがなかった。つまり、完璧だったからこそ、間違えた」
リュークがそう説明を終える。
少女はリュークと向かい合って対峙している。
「……そんなことからもバレるなんて、なんて規格外だよあんたは」
「それがお前の本来の喋り方なんだな」
「そうだね、改めて自己紹介しようか。この盗賊団のボス、アルンだ」
「君が本当のボスなんだな。俺はリューク。君達を捕獲するという依頼を受けた。冒険者、SS級だ」
「SS級? 聞いたことないね……」
「今までに俺を含めて三人しかいなかったらしい」
「そうかい、それは強いわけだ……」
「さて、どうする? 降参するならあまり痛めつけずに捕まえるんだけど」
「ここで大人しく捕まえられてたら、盗賊なんてやってないよ」
アルンがそう言うと、他の盗賊達がリュークの周りに散開する。
「だよな……じゃあ、始めようか」
リュークはそう言って、詠唱破棄で魔法を使う。
「『地面蛇グラウンドスネイク』」
そう唱えると、先ほど盗賊達を捕らえた魔法、地面から土で出来た蛇が何匹も出てくる。
盗賊達は、それを避けるが蛇は何匹もいて、しかも避けても追ってくる。
そしてあっという間に、盗賊達は蛇に巻き付かれ動けなくなった。
リュークはこの蛇に、魔力に反応して追うようにしていた。
なので、盗賊達に避けられても蛇は魔力に反応して追っていくのである。
しかし、リュークの目の前のアルンはそう簡単に捕まらなかった。
「『我を護れ 炎壁フレイムウォール』」
アルンがそう唱えると、アルンの周囲を炎が覆い尽くす。
蛇がそこに突っ込んだ。
しかし、炎が行く手を遮り、蛇達は形を保てず崩れていく。
「さすが盗賊団のボスだ。こんぐらいでは流石に捕らえられないか」
「こっちも命が懸かってるんでね、そう簡単にやられてたまるかい」
「そうか、まあお前以外全員捕らえたけど」
「私があんたを倒せば良いだけだろ」
「ははは、違いない」
リュークが言い終わると、二人は対峙する。
一瞬睨み合う――次の瞬間魔法が二人の間を飛び交う。
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