第156話 誘拐?


 リュークとヴァリーがレンの家に戻ったときに、置いてあった手紙。


 それにはレンとセレスが連れていかれたというような内容が書いてあった。


 普通の人が読んだら間違いなく「誘拐」という言葉が出てくる。


 いつもは普通の人とは違うような二人だが、今回は同じ感じで反応した。


「なんであの二人がいきなり誘拐されたんだ!?」

「わからない」

「まさか……!」


 ヴァリーは何か理由がないかと思い出すと、心当たりがあった。


「あのオットーとかいう貴族の関係者じゃねえだろうな!?」


 オットー・ベックマン。

 このユーコミス王国で平民から貴族に成り上がった男。


 オットーはレンの師匠を殺したと言っても過言ではない。


 これからのレンの鍛冶師としての人生に邪魔されるといけないと思い、ヴァリーとグラウスが殺した。


 確実に殺したので、オットー自身はいないとしてもその関係者が調べてここまで辿りついた可能性がある。


 その関係者が、レンとセレスを誘拐したと考えれば辻褄が合う。


「くそっ、最悪だ!」


 出来うる限り証拠は残さずに殺したはずだが、自分たちじゃ思いつかないような犯人の探し方があるのかもしれない。

 イザベル陛下も、ヴァリーがオットーを殺したというを知っていた。


 そのような例外がある今、オットーを殺したというのがバレてても不思議ではない。


「父ちゃん落ち着いて、まだ二人が死んだわけじゃない」

「……ああ、そうだな、悪い」


 自分のせいだと罪悪感で取り乱したヴァリーだったが、その言葉を聞いて無理やり自分を落ち着かせる。


 手紙には「返して欲しければここまで来い」とあった。

 つまり、まだ殺してはいないということ。


 おそらく人質として捉えられたのだろう。

 だから狙いは――ヴァリーという可能性が高い。


「リューク、お前も来るか?」

「もちろん、二人を助けに行くよ」


 自分の不手際だから一人で行くことも考えたが、リュークはついてくるだろうと予測はしていた。


「助かる。相手は魔法使いだろうから、お前がいれば心強い」


 ヴァリーは戦えば負けるとは考えていないが、相手は人質を取るような相手だ。

 どんな卑怯な手で来るかわからない。


 自分への攻撃魔法などは対処できるが、それ以外の魔法は難しいかもしれない。


 だからリュークがいれば、こんなに頼りになるものはない。


「じゃあ行こう。とりあえずこの手紙に地図が書いてあるから、そこまで跳ぼう」

「ああ、任せる」

「えっと、ここは……あれ?」

「どうした?」


 リュークが地図を見て疑問の声を上げたので、ヴァリーが問いかける。


「父ちゃん、ここって」


 地図を見せてきたので、ヴァリーは覗き込むように眺める。


「……ん? ここはもしかして」


 そして地図が示す場所に、心当たりがあった。


 しかし、本当にここで合っているを二人とも疑った。


「とりあえず、ここに跳ぶね」

「あ、ああ、任せた。ここだったら一回で済むよな?」

「うん、近いし」


 ヴァリーがリュークの腕を掴み、そして『次元跳躍ワープ』する。


 着いた場所は、二人とも来たことがある場所。


 その建物の前には刀があり、見る人が見れば良い出来だと断定するほどの業物が並んでいる。


 ここは、二人が来たことがある刀専門店。


 ヴァリーは昔にユーコミス王国に来たことがあったので、色んな武器屋に行ったことがある。

 しかしリュークはこの国に来てから、一つの店にしか行ったことがない。


 そんな二人が共通して来たことがある店。


「……グラウスの店だよな」

「そうだね」


 そこはレンの師匠のダリウス、唯一のライバルだったグラウスの店だった。


「なんでここなんだ?」


 まさか誘拐された二人がここにいるなんて思いもしなかったヴァリーは、油断せずに店を眺める。

 特に変わった様子はなく、中も荒らされたような跡はない。


「父ちゃん、この店の地下に三人いる。レンとセレスとオジサンが」


 リュークが魔力探知をして三人を見つける。


「他にはいないのか?」

「いないと思うけど、前に魔力探知ができなかったことがあるから油断はできない」


 ブラックライガーを倒しに行った際、魔力探知を発動していたにも関わらず引っかからなかったのだ。

 その例外がある限り、魔力探知に引っかからない人がいてもおかしくない。


「ほー、そんなことがあったのか」

「うん、なんでそうなったのかわからないけど」

「あとで教えてやるよ」

「えっ、わかるの?」

「まあな、今はこっちに集中しろよ」

「……わかった」


 リュークは魔力探知に引っかからない理由を早く知りたかったが、一度意識を切り替える。


「とりあえず地下に行くか。どこから入れる?」

「多分店の中だと思うけど」


 二人はグラウスの店に入り、カウンター内に入って奥に行く。


 そこですぐに地下へと続く階段が見つかった。


「慎重に行くぞ」

「わかってる」


 二人は足音を立てないように、気配を殺しながら階段を降りていく。


「っ! 父ちゃん……」


 その際、リュークは魔力探知をしながら降りていったが、突如ヴァリーが魔力探知に引っかからなくなった。

 ブラックライガーと同じように。


 ヴァリーは口に指を当てて、「静かに」と指図する。

 それに小さくリュークは頷く。


 どうやってやっているか気になるが、聞くのは後にしないといけない。


 二人はそのまま静かに階段を降りていき、ある部屋の前に着いた。


 その中で、何やら色んな音がしている。

 何かを打つ音や、何かが燃えているような音。


「これは……」


 リュークには聞き覚えがない音だったが、ヴァリーは何かわかったようだった。


 二人は部屋の中を覗く。


 そこには、レンとセレス、それにグラウスがいた。

 三人以外の人物はいなく、リュークの魔力探知を逃れているような人物はいなかったようだ。


 その部屋は鍛冶場のようで、三人は一心不乱に何かを造り続けている。


「……おい、お前ら」


 ヴァリーが部屋の中に入りそう声をかけたが、三人は全く気付かずにそのまま続ける。


「おい!」

「……ん? なんじゃ、ヴァリーか。どうした?」


 さらに大声を出すと、ようやくグラウスだけが気づく。


「どうした、じゃねえよ。何やってんだよ」

「見てわからぬのか? 武器を作っておるのじゃ」

「それはわかるが……誘拐されたんじゃねえのかよ?」

「誘拐? なんのことじゃ」

「あの置き手紙だよ」

「ああ、あれはワシが書いた。ここに二人を連れてきたから、帰ってきたらお前らも来いよという風にな」

「まぎらわしいわ!!」


 ヴァリーの叫び声が鍛冶場に響いたが、レンとセレスが気づくことはなかった。

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