第157話 ドワーフの鍛冶


「すごいな、二人とも全く気づかない」


 ヴァリーがさっきからグラウスに対して大声を出している。

 しかし、レンとセレスは全く気づいた様子もなくただただ作業に没頭していた。


 リュークは一つのことをそんなに没頭したことがないので、素直に感心していた。


 二人の目の前には大きな炎が燃え盛っていて、時々それに造っている武器を突っ込んで金槌かなづちか何かで叩いている。


 造っている武器は全く違うもので、レンは刀、セレスは剣だ。

 形は似ているが、やはり違うものだ。


 レンは淡々と、目の前に炎があるのにも関わらず汗もかかずにやっている。

 セレスは慣れていないのか、少し手間取っているのがリュークの素人目からでもわかる。


「で、お前も造ってたのか?」

「もちろんじゃ、ワシが提案したんじゃから」

「お前が作業してたところには、炎がないようだが」


 さっきまでグラウスが座って作業していた場所には、炎がない。

 普通は鉄を打つときには、炎で熱して柔らかくしてから打つはずだ。


「ワシには必要ないのじゃ。正確にはドワーフには、じゃな」

「どういうことだ?」

「ワシたちには火魔法があるからのう。手で持って自分で熱するのじゃ」


 そう言うと、指の先から炎を出すグラウス。


 ドワーフで鍛冶師の者は、ほとんどがそうやっている。

 慣れればそちらの方が火の加減ができて、やりやすいからだ。


「あれ、だけどダリウスは……」

「ああ、ダリウスはそうはやらなかった。魔法で加減をせずに、今二人がやっているようにしていた」


 ヴァリーの木刀を造ったダリウス。

 ドワーフで火の魔法も当然使えたが、魔法は使わなかった。

 目の前で燃え盛る炎を見て、長年の勘で炎の当て方や温度などを調節していた。


『魔法で火を操ったらつまらないだろ。目の前の炎を肌で感じてやった方が、楽しいに決まっている』


 ニヤリと笑いながらそう言っていたダリウスの姿を、グラウスは思い出して微かに口角が上がる。


「そっちの方が効率も出来も悪くなるはずなのに、なぜかあいつの刀は最高の出来になった。まあそれが弟子を取らなかった理由と、レンちゃんを弟子に取った理由な気がするのう」


 ドワーフの弟子は全員が火魔法を扱えて、それを使って鍛冶をするのが当たり前だった。

 ダリウスのやり方はドワーフの奴らには合わない。


 レンはエルフなので、火魔法は得意ではない。

 だからこそ、ダリウスのやり方を貫き通せた。


「じゃあなんでセレスちゃんも同じやり方でやってるんだ?」

「レンちゃんに対抗してやってるようじゃ」

「ああ、だから慣れてないのか」


 どう見ても炎の扱いに慣れてないセレスの姿を見て不思議に思っていたリュークが、その言葉で納得した。


「まあ初めてにしては筋はいいようじゃが」

「そうなのか。俺ら素人には全くわからないけど」

「もう少しで完成するようじゃのう」

「そんなに早くできるのか?」

「最初から造っていたらもっとかかるが、今回のは途中まで造っていたものの仕上げだからのう」


 グラウスがそう言ってから数十分後。

 レンとセレスはほぼ同時に造り終わった。


「ふぅ……あっ、リュークいたの?」

「なっ! いたのか!?」

「おう、さっきからいたぞ」


 リュークの姿を見て、セレスは顔を慌てて手で隠す。


「どうしたんだ?」

「い、いや、ちょっと今汗だくだし、煤とか顔について黒くなって汚いから……」


 レンは慣れているので、目の前に炎があっても風魔法で熱さを感じずに、そして煤なども退かしてほとんど作業をする前と変わってない。

 しかしセレスは不慣れだったため、熱くて汗がダラダラ、顔も結構黒くなっていた。


「別に俺は気にしないぞ?」

「オレが気にするんだよ! ちょっと待て、シャワーを浴びせてくれ!」

「風呂場はあっちじゃ」


 グラウスが指差す方向に、セレスは顔を隠しながら走っていった。

 もともと褐色だった肌が、さらに黒くなっている。

 しかしリュークに見られて恥ずかしいからか、頰は少し赤く染まっていた。


「別にそんなのいい気がするけどな」

「リューク、女の子は難しい」

「そうなのか?」

「あの人を女と認めるのは難しいけど」

「いや、セレスは女だろ」


 

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