第56話 ラミウムの湖へ


 リュークはギルドマスターのシアちゃんに頼んで馬車を出して貰おうと考えたが。


「ごめんねリュークちゃん、手伝ってあげたいけど馬車を出すのは無理だわ。毒の湖に行かせられる馬車がないの」

「近くまででも無理なのか?」

「どの範囲まで毒の空気に侵されてるかわからないからね……」

「そうか……一〇〇キロくらいなら走れるか?」

「いや、私でもさすがに無理だ。出来てもその後バジリスクと戦う余力はない」


 リュークの呟きにアメリアが呆れながら言った。


「それでしたらリュークさん、ネネとルルで大丈夫だと思います」

「いいのかメリー?」

「はい、ネネとルルなら匂いでどこまで毒の空気が来ているのかわかると思います」

「そうか、あの二匹なら馬車よりも速いしな」

「毒の空気が来ているところまでは送れると思います。だけどその後は……」

「歩いていくしかないか」

「私は足手まといになると思いますので、ネネとルルとそこでリュークさん達と別れるしか……」

「いや、助かる。ありがとう」


 メリーは自分の不甲斐無さに項垂れてしまう。


「ネネとルルの背中に乗れるのはメリーを入れて四人までだな……誰が行く?」


 リュークはアメリア達を見る。


「必須なのは目を瞑っても相手の気配感じ取れる、攻撃を避けれることだな」

「私は行けるぞ。魔力探知はリュークには遠く及ばないが三〇〇メートルはある」

「時空魔法は魔力探知内が『次元跳躍ワープ』出来るからな。鍛えるのは当たり前だな」

「私は魔力探知は不得意です……こういうことがあるなら練習すべきでしたね」

「うちも無理かな~。うち達姉妹の中で一番出来るのはアメリア様の真似をして練習していたサラじゃないかな~」

「そうなのか? サラ、範囲は?」

「半径一〇〇が限度だわ」

「十分だな。行けるか? A級冒険者には荷が重いかもしれないが……」

「い、行けるに決まってるわ! 楽勝よ!」

「サラ――強がりはいらない。文字通り……死ぬ気でないといけない。本当に来れるか?」


 サラが震えた声で見栄を張ったように言ったのをアメリアが諫いさめる。

 アメリアの鋭い眼光で睨まれたサラはたじろぐが、覚悟が決まった顔つきになる。


「――行きます。あたしが強くなるために」

「……分かった。自分の身は自分で守るんだぞ」

「はい、アメリア様」

「よし、じゃあこのメンバーで行くか。頼めるかメリー」

「はい、今からネネとルルに頼んできますね」


 メリーはギルドを出ていき二匹の元へと向かった。


「まずはバジリスクに戦うにあたって絶対にやってはいけないことは、噂とかを聞く限り目を見ていけないことだな」

「そうだな、即死するのかは不明だが不安要素は取り除いた方がいい」

「相手の動きを魔力探知で完全に把握しないといけないわけね」

「バジリスクの身体の動きは見てもいいが間違っても顔を見ないことだな」


 リューク達はギルドの中でメリーを待ち、しばらく待つとメリーがギルドに戻ってきた。


「リュークさん、ネネとルルに話は通しました! すぐにでも出発できます!」

「ありがとうメリー、すぐ行こう」


 リューク達はギルドを出て王都の外に出る方に向かう。ネネとルルはギルドに出たところにいた。


「ネネ、ルル。毎回悪いな、お前達に頼りっぱなしだ」

「頼られて嬉しいって言ってますよ」

「そうか、それは良かった。今日も頼むな」


 リュークは二匹の頭を撫でながら王都の外へと向かう。

 そしてリューク達は門に出て北西に向かう準備をする。


「リュークさんは一度ネネに乗ったので今回もネネに乗ってください。アメリア様とサラ様は……」

「うむ、では私がネネに乗ろう」

「アメリア様、リュークはまだ乗るのに不慣れだと思うので私がネネちゃんに乗った方がいいでしょう。アメリア様はメリーさんと一緒に乗ってください」

「私のほうが体幹が強いからな。不慣れなリュークと一緒に乗るのは私の方がいいだろう」

「そんな危ないことをアメリア様にさせられません。不安定ならあたしは仕方なく……仕方なく! リュークの腰などに……掴まりますので」

「別にどっちでもよくね?」

「リューク様、これは女の戦いなのです」

「まさかサラがアメリア様に逆らってまでね~。人って変わるものだね~」


 最終的にはジャンケンでどっちに乗るかを決めていた。勝者はサラであった。


「アメリアってジャンケン弱いんだな」

「リューク様、ここだけの話アメリア様は最初はグーしか出さないのです」

「そりゃ負けるわ……」

「『最初はグー』ってそういう意味じゃないんだけどね~」


 ネネのほうにリュークが前でサラが後ろ、ルルのほうにはメリーを前にして後ろにアメリアが乗った。


「さて、じゃあ行くか!」

「アメリア様、リューク様、メリー様……サラをお願いします」

「サラ~、怪我しないようにね~」

「はい、お姉様。行ってきます」

「任せとけ、無傷で戻ってくる」

「行ってくるぞお前達、留守は任せた」


 ネネとルルは北西に向かって走り始めた。テレシアとエイミーは見送っていたが、二匹のスピードは速くてすぐに姿が見えなくなる。


「……行っちゃったね~」

「そうですね……」

「……アンちゃんとアナちゃんもこんな思いをしたのかな~」

「そう、かもしれませんね」

「久しぶりだな~……強くなったと思ったのにな~」


 上を向いて涙をこらえるエイミー。

 妹サラを守るために強くなった二人だった。しかし現状は人数制限があったとしても、二人は妹サラより弱いとされて置いてかれたのだ。

 魔力探知という技術は出来れば便利だが練習が難しく、魔法の力を強くするのに力を入れるので普通の魔法使いなら練習しない技術だったからというものもあったが、置いてかれたのは事実であった。


「魔力探知を覚えないといけないですね。アメリア様に……いえ、サラに聞いてでも覚えます」

「そうだね~、もっと二刀流も練習しないとな~」

「私ももっと魔法の技術を極めないといけないですね。行きますよエイミー。ギルドに戻って練習場にでも行きましょう。強くなるために」

「もちろん、このままじゃ妹サラに先にS級冒険者になられちゃうよ~」


 ギルドに二人は戻り練習を開始する――しばらく経つと、元S級冒険者に教えてもらうことになった。

 それが二人にとって良いのか悪いのかは――二人だけが知ることになった。


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