剣神と魔帝の息子はダテじゃない

shiryu

第1話 二人の伝説

「結婚しよう!」

「……はい!」



『ええぇぇぇぇぇ!?』



 その日、新たな歴史が作り出された。

 その歴史を説明するには、少し時を遡る――


 約一年前。

世界を騒がせている二人の人物がいた。


 剣神と魔帝と呼ばれる者である。


 剣神、名をヴァリー。

 剣の道を極めた者として、剣神と呼ばれていた。

その斬撃は大地をも切り裂くと噂される。


 魔帝、名をフローラ。

 魔法の道を極めた者として、魔帝と呼ばれていた。

その魔法は地形を変えるとも噂される。


 この二人は幾度となく凶悪な魔物を倒し、人々を救ってきた。

 そして世界の人々は口々にこう言う。

「剣神様はすげぇ! 街を襲ってた魔物を剣を一回振っただけで殺しちまった!」

「魔帝様はもっと凄いわ! この前なんて天候を変えてしまう魔法を使っていたわ! そのおかげで私達の村も今年は豊作よ!」

「いいや剣神様の方が!」

「違うわ魔帝様の方が!」

 こうして、世の中は『剣神派』と『魔帝派』で別れた。

国によっては、国王がどっち派によってその国がそっちを強引に国民に支持させたりもしていた。


 そして誰かが言った。

「そしたら闘わせたらいいんじゃない?」

 その言葉を機に、剣神と魔帝は度々手合わせを皆んなに強要された。


 最初は渋っていた二人だが、闘うようになったら相手の実力と自分の実力が拮抗するのが分かった。

二人とも初めて本気の自分をぶつけれる相手を見つけた。

 それから何回も何回も闘いあう。

剣神が勝つこともあれば、魔帝が勝つこともある。

 そして百回闘い、五十勝五十敗。


 そして今日、二人の百一回目の対決。

二人は闘う前にある約束をしていた。

「俺が勝ったら魔帝! 一つ俺の言うことを聞いてもらうぜ……」

「あら奇遇ね、私も勝ったら貴方に言いたいことがあったの」

「そうか……。それでも俺が勝つぜ……魔帝」

「負けないわ……剣神」

 そして闘いが始まった。


 激闘の末勝ったのは──魔帝だった。

剣神は地面に大の字に倒れていて、魔帝はその側で剣神を見下ろしていた。

「ふふふ、私が勝ったわ……」

「はぁ……はぁ……あぁそうだな、お前の話を聞こうじゃないか」

「あら、潔いわね。まだ負けてない! とか言うのかも思ったわ」

「どっからどう見ても俺の負けだろ。もう立ち上がる気力がねぇよ」


 二人がそう話してる間に、周りで見ていた者たちが集まってくる。

 ここは王都の何キロも離れたところにある平原。

いや、平原だった場所。

 二人の闘いは、いつもここで行われていた。

そのため、二人の闘いの影響で大地は裂けて、草木は燃えて跡も形もない。

 周りで見ていた者たちは、二人が闘っている最中は二人から半径一キロは離れていた。

そうしないと巻き込まれるからだ。

 観戦していた人の数、およそ五万人。


 見ていた人たちが二人に近づいてきたところで、剣神は立ち上がる。

「で、お前の伝えたいことってなんだ」

「あぁ、そうだったわね。じゃあ言うわね……」

魔帝は剣神の両肩に手を置き、強引に正面に向き合わせる。

「えっ?」

 剣神は驚きの声を上げるも、すぐに喋れなくなる。


 魔帝が、剣神の唇を自分の唇で塞いだ。


 周りで見ている五万人も呆然として声も出ない。

誰も声が出せない中、魔帝が剣神から口を離す。

 そして魔帝が話し出す。

「剣神……いえ、ヴァリー!」

「え、な、なに……?」



「結婚しよう!」

「……はい!」



『ええぇぇぇぇぇ!?』



 五万人は驚いた。

いきなり二人が結婚という突拍子も無いことをし出したこと。

 そして、まさか魔帝の――女性の方からプロポーズすること。

二つの意味で驚いた。

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