第132話 予想外


「やっぱり貴族で鍛冶師をやっていた奴を調べるには聞き込みしかねえか」


 何十分か話し合った結果を、セレスがため息をつきながら言った。


 テーブルを囲み話し合いをしたが、何も良い案が思いつかずずっと黙っているのを、果たして話し合いと呼べるのだろうか?


 セレスが予想外の発想力と頭脳で、鍛冶師である貴族だということがわかって犯人を絞ることはできたが、それ以上は全くわからない。

 そもそも鍛冶師である貴族が何人いるかもわからない状態なので、話し合っても意味がないのだ。


「とりあえずいろんな人に貴族の中で鍛冶に詳しい奴がいるかどうか聞かないとな」

「そうだな、鍛冶師の人がそういうのは詳しいのかな?」

「多分。グラおじさんはそういうの詳しかった、かもしれない」


 レンの師匠であるダリウスはそういうことに詳しくはなかったが、ライバルであるグラウスは反対に詳しかった。


「じゃあグラウスには聞いて、知らなかったら片っ端から聞いていこう」

「そうするしかないか。長くなりそうだな」

「聞き込みならボクとリューク、二人で十分。あなたは残ってていい」

「あ? なにちゃっかり二人きりになろうとしてんだよ。させるわけねえだろ」

「チッ……」


 思惑を即座に見破られたレンは舌打ちをした。



 もうここで、異空間で話し合うことは終えたので魔法を解こうとするリューク。

 おそらく遠くから見てくる魔法だとは思うが、もしかしたら声も聞こえるかもしれないからずっとこの中で話し合っていた。


「じゃあ解くぞ」


 そう言って指をパチンと鳴らすと、三人はまたもは浮遊感を一瞬感じる。


 セレスが窓を開けると、真っ暗な空間ではなく普通の街並みが見える。


「戻ったな。なんかさっきより重力を感じるのは気のせいか?」

「あの中は俺もよくわからないから、もしかしたら重力はあっちの方が弱いのかもな」


 二人がそう話していると、扉の方からノックが響いた。


 三人は顔を見合わせる。

 先程まで自分達を魔法で見ていた者のことを話していたので、その者が来たのかと思案した。


 すぐさまリュークは魔力探知を発動させる。


「――えっ?」


 家の前にいる人の魔力を感知すると、目を見開き動きが止まった。


「リューク、誰なんだ?」


 セレスがそう問いかけても、リュークはまだ固まっていて答えない。



「おーい、レンちゃん? いないのかー?」



 外の人物がそう声をかけてきたのが聞こえた。


「おいレン、お前のこと知っているらしいぞ」

「うん。なんか聞き覚えあるけど、思い出せない」


 その声に聞き覚えはあるのだが、レンは思い出せない。


「あれ、この家じゃなかったか? 確かこの家だったはずだが、引越しでもしたか?」


 それも仕方ないことだろう。

 なんせ、二十年も前のことなのだから。


「まさか、なんでここに……?」


 リュークは呟くようにそう言いながら、ドアに近づいていく。


 他の二人はリュークが開けるというなら大丈夫なのかと思いながら、まだ少し警戒しながらその様子を見ている。


 自分の魔力探知を初めて疑いながらも、おそるおそるドアを開ける。


 するとそこには、やはり自分が魔力探知で感じた人物の姿があった。


「おー、レンちゃんいたか、良かっ――はっ?」


 外にいた人物も、ドアが開かれ出てきた人物に驚き固まる。

 リュークがここにいることを全く知らなかったので、こちらの方が驚きが大きいかもしれない。


 お互いに久しぶり、約二ヶ月ぶりだろうか。

 そこまで長い間会わなかったわけではないが、今まで二人はそんな長い間離れたことはなかった。


 それもそのはず、リュークは生まれてから旅に出かけるまで、一日たりともこの人物と離れたことはなかったのだ。


「とう、ちゃん……」


「リューク!? お前、なんでここに!?」


 ドアを開いてリュークの目の前にいたのは――父親、ヴァリーだった。


 久しぶりに会うのに全く感動もなく、ただただ驚愕しかない。


 二ヶ月ぶりの親子の再会であった。

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