第131話 千里眼
ユーコミス王国は中心に向かうにつれて、住む人の身分が上がるようになっている。
レンやセレスが住むところは商人や鍛冶師が住むところ。
身分としてはそこまで高くない人達が住んでいる。
そこから中心にある王が住まう宮殿に向かって身分が高くなっていく。
「クソッ、なんで見えない!?」
その中でもとても宮殿に近く、商人達が住んでいる家とは比べ物にならないくらいに豪華で大きな家。
そこの執務室のようなところで、その男は苛立ったように机を蹴っ飛ばした。
何千万ゴールドとする豪華な机なのだが、それを全く厭わずに壊してしまった。
「私の目は全てを見通すはずだ! なのに、なぜいきなり家の中が見えなくなったのだ!?」
その男――オットー・ベックマンは昔から希少な魔法を使えた。
使えるようになったのは大人になってからだが、それからほとんど誰にもその魔法を使えるようになったとは言ったことはない。
理由は、言わない方が利用価値が高いからだ。
『千里眼魔法』
オットーは自分が使えるようになった魔法をそう呼んでいる。
リュークやアメリアが使える『時空魔法』と同じぐらい希少で、数億人に一人しか適性が現れないと言われている。
その希少さから魔法の研究が進んでいる精霊族の魔法の本にすら名前も乗ってなかったので、自分で名前をつけたのだ。
オットーはそれを扱えるようになるには数年という月日がかかった。
扱い方など全くわからず、自分の目がどこかもわからない場所をどんどん切り替わって見ているという苦しい日々を過ごした。
時々、自分がどこにいるかもわからなくなるのだ。
しかし、数年後。
『千里眼魔法』を使えるようになってからは一気に成り上がった。
元々、オットーは貴族などではなくただのしがない鍛冶師だった。
だがその魔法を使えるようになると、国の色んな場所を覗けるようになったのだ。
他人が犯罪を犯しているところを、何も悟られずに見れる。
それを証拠を裏付けて告発すれば、どんどんと身分が上がっていく。
貴族に役に立つ犯罪を見つけ告発し感謝されたり、逆に貴族が犯した犯罪を見つけ脅す。
そしてそれを繰り返しやり、外側に住んでいたオットーは王宮間近のところに住めるようになったのだ。
しかし、人は上手くいってると欲をかく生物だ。
オットーはいずれ自分がユーコミス王国の王になってやるという野望を抱く。
そのため、最初は『千里眼魔法』で王の弱みを握ろうとして王宮を覗こうとした。
だが、すぐにそれが無理だと悟った。
ユーコミス王国の宮殿、王の間を覗いた。
そして王が一人、そこで玉座について、肘をついて目を瞑っている。
私がそこに座ってやる。
そう思いながら斜め上のところに目線を持ってきた。
しかし次の瞬間――目が合った。
目を瞑っていたはずの王が、こちらを見ていた。
王が見ているところ、そこには本来何もないはずだ。
だが、確実に目が合った。
そしてニヤリと笑った。
背中にゾクッと悪寒が走る。
すぐに魔法をやめ、自分の部屋に目を持ってくる。
一瞬睨まれただけで、王が自分の格上だと知った。
それからは王になることは諦め、王に気に入られようと行動する。
二十年前、部下から世界一の鍛冶師であるダリウスが世界樹に入ったという報告を受けた。
それをすぐに王に報告するのは簡単だ。
だが、ダリウスが世界樹に入った理由。それはおそらく、刀を造るため。
昔、鍛冶師をやっていた頃会ったことがある。
鍛冶師バカだ。刀を打つために世界樹という禁忌に入ったはずだ。
それを裏付けるために家の中を見て、鍛冶場を見たらやはり刀を造っていた。
しかも素材はおそらく世界樹。
この刀を造った後に奪いそれを王に渡せば自分は、いや、自分の一族は何代に渡って王の側近になれる。
そう思って実行に移したのだが、それは失敗に終わってしまった。
失敗に終わった時は激しく苛ついたが、役人達が刀を奪おうとした時に現れた剣士。
あいつの手に刀が渡ってしまったら無理だとわかった。あの剣士の実力は王に匹敵するかもしれないと感じた。
剣士が役人達を一瞬で殺したのを覗いたら、そう思ってしまった。
だが、オットーは諦めなかった。
ダリウスは死んだが、ダリウスの唯一の弟子であるレンという鍛冶師。
元鍛冶師の勘が、あいつも世界樹に行くかもしれないと言っていた。
だからこの二十年、ずっとあいつを監視し、世界樹のところにも自分の魔法を置いた。
禁止領域に一歩踏み出した瞬間、発動して監視できる魔法。
今日、ついにその魔法が発動した。
タイミングとして自分の部屋にいた時に発動したから最高だった。
ニヤける顔を抑えきれずに見ていたのだが、人族の男が何かに気づいたように世界樹に行くことをやめて街に戻ってきたのだ。
そしてレンという鍛冶師の家に入った途端、中を覗けなくなった。
「こんなこと、何十年も魔法を使ってきたが一度もなかったぞ! 何をしたあの男!」
何度も何度も魔法をかけ直したのだが、一向に家の中を覗けない。
リュークの時空魔法による遮断。
今までそんなことをされたことがないので、オットーは困惑していた。
まず普通はこの『千里眼魔法』は気付かれないのだ。
今まで王の間を覗いた時に、王に気付かれた以外に勘付かれたことは一度もない。
「気付かれたということは、あいつは王と同じような実力者ということか? いやまさか、あんなガキが……!」
王には気付かれたが、防がれなかった。
もしかしたら防がなかっただけかもしれないが、一度として防がれたことがないこの魔法を人族のガキが防いだというのか?
「どんな魔法を……確実にユニーク魔法だとは思うが」
基本属性の六属性で防ぐ術はない。
おそらく、自分が知らない魔法で防がれている。
「まあいい。この魔法に気づいたとしても、私のところまで辿り着くことは不可能だ。王ですら私の元まで来れなかったのだ」
そう確信を持てるから、少し落ち着くことができたオットー。
今はとりあえず家の周りを見ている状況だ。
いつまた家の中が見えるかわからないので、数分置きに試している。
「っ!? なんだと!? なぜあいつがここに!?」
家の周りを見ていたオットーは、思わずそう叫んでしまった。
二十年前、自分の計画を狂わした男。
あの剣士が、その家に近づいていくのを見た。
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