第130話 共犯


「ボクのせいかも、しれない」


 少し気落ちするような声でそう言った。


「あ? 何でお前のせいなんだよ。何かやったのか?」


 セレスがよくわからないといった顔でそう問いかける。


「ボクは何もしていない。けど、師匠が……」

「ダリウス? 関係あるのか?」


 レンは静かに頷くと、自分の見解を話し始める。


「話したと思うけど、師匠の最高傑作の刀が出来た時、奪いに来た政府の役人がいた。その人達は、どこかの貴族の差し金で師匠の刀を奪いに来ていた」

「そう聞いたが、今その貴族は関係あるのか?」


 リュークがそう聞くと、レンは頷いて話を続ける。


「多分、その貴族はボクを監視しているのかも」

「はぁ? なんでお前を監視なんかしてるんだよ」

「それは、ボクが師匠の唯一の弟子だから」

「っ! つまり……」


 セレスはそこまで聞くと察する。

 レンは頷いて、話す。


「弟子だから、ボクがまた刀を造るために、世界樹に行くって予想していたのかもしれない」


 その言葉にリュークは驚く。


「まさか、そのために禁止領域に魔法をかけていたのか?」

「うん、もしかしたら、ずっとかけていたのかも」

「ずっとって、ダリウスが死んでからってことか?」


 ダリウスが死んでから、ということは二十年以上も魔法をかけていたということになる。

 魔力を維持するのも大変ということもあるが、バレたら死刑になるという重罪である。

 それを二十年続けている、というのが信じられないといった顔のリューク。


「そいつはなんでそんなことをしてるんだ? レンが世界樹に行かない可能性もあったじゃねえか」


 ダリウスの弟子だからといって、世界樹に行くとは限らない。

 むしろ、行かない可能性の方が高かったはずだ。

 実際、リュークが来なかったらレンは世界樹に行こうと思うことは生涯なかっただろう。


「弟子ってのは、師匠を超えたくなるものなんだよ」


 リュークの問いに答えたのは、セレスだった。


「そういうもんなのか?」

「ああ、弟子を経験したやつならわかるが、憧れの師匠を超えてやりたいって気持ちが生まれる。リュークもそういう経験ないか?」

「ああ、言われてみればあるかも」


 師匠、というわけではないが、頭に思いついた人物は二人。

 父の剣士ヴァリーと、母の魔法使いフローラである。


 自分の刀や魔法は両親に教えてもらった。その両親を超えたいと思ったのは、一度や二度じゃすまない。


「セレスもそういうのがわかるってことは、弟子だったことがあるのか?」

「そりゃあるさ。独学で鍛冶師やってるやつなんて普通いねえよ」

「師匠は、ほとんど独学でやったって言ってた」

「普通じゃねえんだよ、そいつは」


 セレスが貶してるのか褒めてるのかわからないようにダリウスのことを言う。


「話を戻すぞ。つまりレン、お前がダリウスのことを超えたいために世界樹に行くってことを予期されていたかもしれない、ってことだな」

「……うん」


 セレスの確認にレンは力なく頷く。

 自分のせいで世界樹に行けない、行って素材を取って帰ってきたらバレてしまう。


「レンのせいじゃないぞ」


 落ち込むレンを慰めるように、リュークが頭を撫でる。


「俺のために造るって決めてくれたんだ。それを言うなら俺のせいでもある、共犯ってことだな」

「リューク……」


 頭を撫でながらそう言うリュークに、レンは頰を赤らめながら見つめ上げる。


「オレも一緒に行くから共犯だな!」

「ん? まあ、そうだな」


 セレスが二人がいい雰囲気になるのを防ぐために大声で言い放った。

 レンはキッと少し睨むと、セレスも対抗するようにニヤッと笑った。


「邪魔」

「うるせえチビ」

「来なければいいのに」

「お前が来なければいい」

「なんでお前らいきなり口喧嘩してるの?」


 突如二人が言い合いを始めたのを不思議に思うリューク。


「まあいい、じゃあそいつにバレないようにするにはどうするかだな」

「魔法で姿を隠せばいける、とかじゃなかったからな。魔力を探知されて見られた感じだった」


 禁止領域に足を踏み入れた瞬間に覗かれるような魔法が発動した。

 あれはおそらく回避できないだろう、というのがリュークの考えだった。


「じゃあ、元を断たないといけないってことだな」

「そうだな。どこかの貴族ってことがわかってるんだよな。他のことは?」

「ううん、わからない」


 ダリウスの刀を奪いにきた貴族は政府の役人を動かすほどの力を持っていた、というのもわかるが、それだけじゃ絞りきれない。


「ヒントがあまりない、っていうのが悩みどころだな」

「そうか? 結構あるだろ」

「あなたはわかるの?」


 セレスがわかることがあるという風に言うので、レンが問いかける。


「まず、そいつは鍛冶師について詳しい。というか、おそらく鍛冶師だろうな」

「なんでわかるの?」

「考えてもみろ。師匠を超えたいためにお前が世界樹に行くってことをそいつは予測したんだろ? つまり、そいつもその考え方ができるってことだ」

「っ! その人も、誰かの弟子になったことがある……!」


 レンが驚いた様子でそう言った。


「そうだ。しかも、同じ素材で師匠を超えてやりたいっていう鍛冶師ならではの考え方もわかっている。確実に鍛冶師だったってことだな」

「つまり、鍛冶師をやっていた貴族調べればいいのか」

「この国は鍛冶師の国だが、貴族は国政とか魔法の研究に関わっていて鍛冶師の奴はそういない。結構絞れると思うぞ」


 セレスがそう言ってドヤ顔をすると、レンが少し悔しそうに呟く。


「馬鹿だと思っていたのに、頭を使えるアピールむかつく」

「うるせえ。このくらい思いつかない奴に言われたくねえよ」

「パワー系の人は馬鹿って決まってる。その決まりに従えばよかったのに」

「なんの決まりだよそれ」


 二人が言い争っている間、リュークは考え事をするように顎に手を当てている。


「魔法の研究、か」

「ん? どうしたんだリューク」

「いや、なんでもない。じゃあ世界樹に行くためには、まずその貴族を見つけないといけないな」

「うん、そうだね」


 リュークの確認にレンが頷く。


「じゃあそのためにどうするかをまた話すか」


 そして異空間で話し合いは続いていく――。


 ◇ ◇ ◇


「久しぶりだな。二十数年ぶりか」


 ある男が、ユーコミス王国の外にある森でそう呟いた。

 森から人族の大陸にある国とは比べ物にならないくらいデカイ城壁が見える。


「元気にしてるかな、あの子は」


 そう言って笑いながら、男は腰に携えている木刀に手を添えた――。

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