第129話 不明な魔法


 セレスとレンはその言葉に驚きを隠せない。


「誰かに見られてた? 本当か?」


 リュークが異変を感じて周囲を見渡していた時のことを思い出すセレス。

 自分もその時は周りを見渡しが、特に怪しい人影はなかった。

 レンも同じで、誰かに見られていたなんて思わなかった。


「ああ、確かに見られていた」

「お前が言うからには本当だろうが、どこからだ? オレは何も感じなかったぞ?」

「ボクも」


 あそこにはリュークとセレス、レンの三人と、バイコーン五体しかいなかったはずだ。


「どこから、というのに答えるとしたら、この街からだ」

「はぁ? 街から? おいおい、街からドラセナ山のオレ達がいたところまで何十キロあると思ってるんだ。それにあそこらへんは雲で隠れてここからじゃ見えないだろ」


 ドラセナ山のリューク達がいたところ、禁止領域は雲で覆われていて街からじゃその様子は見えない。

 雲で覆われてなかったとしても、肉眼では全く見えない距離である。


「ああ、俺もあの感覚は初めてだ。おそらく、魔法で覗かれていた」

「魔法? そんな魔法があるのか?」

「いや、知らない」

「はぁ? どういうことだよ」

「遠くを覗くような魔法があるのを俺は知らないが、そうとしか考えられない状況だった」


 リュークでも遠くの光景を見るという魔法を使えないし、そもそもそういう魔法があるのかどうかも知らない。

 しかし、確かにリュークは魔法が発動しているような魔力を感じたし、誰かに覗かれているような視線も感じた。


「俺が視線を感じてからずっと、この街に着いても視線を感じていた。だから無闇にお前たちに説明するべきではないと思ったんだ」

「そうだったのか。じゃあ今は大丈夫なのか?」

「ああ、異空間に入ってからは視線は感じなくなった」


 一歩、禁止領域に足を踏み入れた瞬間に視線を感じた。

 おそらく、一歩足を踏み入れた瞬間に発動するような魔法にしていたのだろう。


「そういえば今更なんだが、世界樹の禁止領域のところって見張りとかつけないのか? 普通、そんなに大事なところだったら見張りをつけるんじゃないのか?」


 リュークは人族の大陸で、王宮などの周りを守っている兵士の人などを思い出しながら言った。


「ああ、オレもそれは思った。なんでつけねえんだろうな」

「リュークは知らなくて当然。だけど、なんであなたが知らないのかわからない」


 レンはセレスに呆れながら説明する。


「世界樹は精霊族にとってとても神聖な場所。だから、見張りをつけることすら不敬と考えられている。師匠が行ったってバレた直後は少しの期間見張りをつけられたけど、それもすぐに取り止めになった」

「そうなのか。だからいないのか」

「そうだったのか」

「だから、なんであなたは知らないの?」

「興味なかったから」


 セレスがはっきりと言うと、レンはため息をつく。

 精霊族に住んでいる人なら常識の話である。


「それはそうと、リュークの話が本当だったらやばくないか? オレ達が禁止領域のところに行ったところを見られたということだろ? 誰かに言われたりしたら……」


 禁止領域に一歩踏み出したら魔法が発動することになっている、ということは、魔法が発動した瞬間に誰かが禁止領域に入ったということだ。

 誰がその魔法をかけたのかはわからないが、その人物が自分達が世界樹に行ったと政府の奴らに言えば……法律に従えば死刑になってしまう、ダリウスのように。


 セレスは最悪の予想をしてしまい、冷や汗をかく。


「多分大丈夫、だと思う」

「なんでだ? もう見られてるんだろ?」

「さっきも言ったけど、許可なく見張りをつけるということは禁止されていて、それも重罪で死刑になる。つまり、ボク達を見ていたという人物も、法を犯している」

「そうなのか?」


 リュークの問いかけに、レンは大きく頷く。


「禁止領域のところにそんな魔法をかけられてるなんて、聞いたことない。だから、その魔法をかけた人もボク達と同じく重罪人。そう簡単に誰かに言わないと思う」

「そうか。じゃあまだ安心ということか」


 今はリューク達のことを見ていた人物も、何もすることは出来ないだろう。


「じゃあとりあえず、また世界樹に行く前に俺達を見ていた奴を見つけないとな」


 そうしないと世界樹に行って素材を取るところを見られてしまう。

 そこを見られてしまったら、今度こそ逃げ場はない。行ったという証拠があるのだから、政府に言われたら最悪だ。


「まずその遠くの光景を見る魔法を使う奴は、なんで禁止領域のところに魔法をかけてたんだ?」

「そうだな、それがわからない」


 いつからその魔法をかけているのかはわからないが、リューク達が行かなかったらただその人物が罪を犯しているだけ。バレたらその人が危険なだけだ。


「もしかしたら、わかるかもしれない」


 レンは考えながらそう二人に言った。


「本当か? 心当たりがあるのか?」

「当たってるかはわからない。けど、もしかしたら」

「なんでなんだ?」


 顎に手を当てて考え込んでいたレンは、顔をあげてリュークの方を見る。


「ボクのせいかも、しれない」

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