第29話 招待


「僕は『貴公子』、ルーカス。S級冒険者さ」


 その男性はそう言った。


 身長は一八〇くらいで、金髪。

顔立ちは整っていて、爽やかな笑顔を見せている。

腰に剣を携えている。


 そして今の自己紹介を周りの者が聞いたギルド内の冒険者達が騒ぎ始めていた。


「おい、ルーカスだと!? S級冒険者の中でも名高い剣士じゃないか!?」

「マジかよ! 本物初めて見たよ!」

「アメリアもいて……S級冒険者が二人もいるぞ……」

「ルーカス様……お噂には聞いていたけど、なんてカッコいいの……」


 周りの者が口々に呟いている。

女性冒険者の反応が、アメリアよりは大きかった。


 それを聞いたルーカスもにこやかに笑っている。


「あはは、僕も有名になったものだね」


 ルーカスは騒いでいた女性の方を向いて、笑顔で手を振る。

女性冒険者も黄色い声を上げて喜ぶ。


「おい、すっごいデジャブを感じるぞ……」

「朝に見た光景ね」

「アメリアと同じ……」


 リューク達は、うんざりしたような顔でアメリアをチラッと見る。


「……ん? 私の顔に何かついてるか?」

「いや何も……なあ、俺たち帰っていいかな?」


 リュークがそう呟くと、それが聞こえていたらしく、ルーカスが振り向く。


「おっと、すまないね。ファンサービスをしていたからね。君のことを忘れていた」

「いや、別に忘れられていても良かったんだけど」


 リュークはそう小さく呟くが聞こえなかったのか、ルーカスは喋り続ける。


「ん? そこにいるのはアメリアかい? 久しぶりだね」


 ルーカスはアメリアに今気づき、話しかける。


「……」

「どうしたんだいアメリア? ぼーっとしちゃって」

「すまない、誰だお前は」



 その場の空気が一瞬止まる。



 ルーカスの笑顔も一瞬固まるが、すぐに何もなかったかのように話す。


「いやだなアメリア、僕だよ。前に一緒に魔物を倒したじゃないか」

「……ダメだ、思い出せん」


 今度こそルーカスの笑顔が崩れてしまう。


「アメリア様、三ヶ月ほど前のホワイトウルフの群れを討伐した時だと思われます」


 アメリアの取り巻きの一人がそう伝える。


「む、あの時か。……しかし、こんな男いたか?」

「アメリア様は興味ない者はすぐに忘れてしまいますからね~」

「そんなアメリア様も愛おしいです……」


 ルーカスは少しショックを受けたようで、不器用に笑っている。


「ま、まあいいさ。それよりリューク君、といったかな?」

「ああ、そうだ」

「君に話しがあって僕は来たんだ。まだギルドにいてくれて助かったよ」

「そうか。で、その内容は?」


 リュークは早く帰りたいので、すぐに言うように促す。


 ルーカスは咳払いをしてから、少し溜めてから言い放った。



「君を、我が『クラン』に招待しよう!」



「な、なんだと!? 『クラン』だと!?」


 リュークは驚いた様子であった。


「ふふふ、そうだよね。驚くだろうね。なんていったって、団長の僕が直々に招待しに来たのだからね」


 ルーカスは胸を張ってリュークの驚いた様を見ていた。


「『クラン』って……なんだ?」


 ガクッと聞こえるかのようにルーカスは崩れる。


「メリー、『クラン』って?」


 カウンター内にいる受付嬢のメリーにリュークは説明を求める。


「『クラン』というのは、冒険者同士の組織みたいなものです。大規模な依頼や魔物討伐などにその組織、『クラン』の冒険者達が協力し合って依頼達成などをします。実績に応じて、追加の報酬などもギルドから支払われたりもします」

「なるほど……そういうものがあるんだな」

「『クラン』にもランクがあり、ルーカス様が団長の『白のクラン』はA級のクランで、クランの中でもトップスリーに入っています」

「ふふふ、そうだね。説明ありがとう、麗しい受付嬢さん」


 メリーの説明に気を良くしたのか、笑顔でメリーにお礼を言う。

メリーも戸惑いながら会釈する。


「そんなトップスリーに入っている『白のクラン』の団長である、僕が直々に君を招待してあげよう! 君が活躍すればすぐに副団長の座を渡すことも考えるよ!」


 ルーカスは満面の笑みで両手を広げて、歓迎の様子を表す。

ギルド内の冒険者達も、リュークを羨ましそうな顔で見ている。



「え? 結構だけど?」



 ルーカスの笑顔に、ピシッと亀裂が走る。


「……え? み、耳が悪くなったのかな僕は……今君はなんと言ったのかな?」

「そのクランってのに入らないって言ったんだ」


 先程のアメリアの言葉にも苦笑ながら笑顔を完全には崩さなかったルーカスも、リュークの言葉を聞いて笑顔が消える。


「団長の僕が……君を入れてあげようと言っているんだ。なぜ断るのかな?」


 爽やかな笑顔が消え失せ、少しリュークを睨んでいる。


「そんなのに入らなくてもやっていけるからな。それに……」

「……なんだい?」

「俺より弱い奴の言いなりになるのは嫌だからな」


 その言葉にルーカスは顔を歪め、リュークを睨む。


「……なんだと? 僕が? 君より弱いだと?」

「ああ、そうだな」

「舐めたことを言うじゃないか……」


 ルーカスはリュークの目の前に立つ。

ルーカスの方が身長が高いので、目線を合わせるとルーカスがリュークを見下す形になる。


「ガキがいい気になるなよ……SS級だかなんだか知らないが、俺より強いだと?」


 先程より低い声で、リュークだけに聞こえる声で言う。


「事実を言ったまでだが?」

「……いいだろう、その自信へし折ってやろう」


 ルーカスが小さくそう呟くと、ギルド内全員に聞こえる声で喋り出す。


「リューク君は僕が強いか試したいのか! ならば明日の朝! ここで決闘を行うことにしよう!」


 そのルーカスの言葉にギルド内の冒険者達が騒ぎ始める。


 どちらが強いかなどの予想が飛び交い、賭けを始める者もいる。


「逃げるなよ……大勢の観客の前で貴様に恥をかかせてやる」


 ルーカスはまた、リュークにしか聞こえないように小さく呟く。


「……俺は別にこれからでもいいけどな。今すぐにやらないのか?」


 ギルド内の冒険者達もリュークの言葉を聞き、すぐに戦いが始まるのかと期待するような顔でルーカスを見る。


「……君が今日は依頼で疲れてるだろうからね。やるなら万全の状態でやりたいじゃないか」


 ルーカスは笑顔でリュークの肩に手をやりながらギルド内全員に聞こえる声で言った。


「俺は疲れてないがな……まあ、そういうことにしといてやるよ」


 リュークもルーカスの言葉ににそう答える。


「じゃあ、明日の朝。ギルドに来てくれ。ここには訓練場もあるからね。そこで決闘をしようじゃないか」

「わかった」

「じゃあまた明日、ここで会おう」


 ルーカスは明日の決闘の事で沸いているギルド内を通って、出口に向かって歩き出て行った。


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