第30話 帰宅


 ルーカスが去った後、ギルド内はまだ明日の決闘の事で盛り上がっていた。


 そんな喧騒の中、メリーがリュークに話しかける。


「リュークさん……大丈夫なんですか?」

「ん? 何が?」

「ルーカス様との決闘についてですよ! あの方は二十歳という若さでS級冒険者になって、自分で結成したクランもすぐにトップ入り。二年間冒険者稼業をしていて、何回も凶悪な魔物達を倒してきたんですよ」


 メリーがルーカスの強さを語る。


 ルーカスは、初めて『ランク決め玉』を触り、S級と判断された『大物ルーキー』として冒険者になった。


 そしてその強さは幾度となく発揮され、今やS級冒険者の中でも実力はトップクラスであった。


「いくらリュークさんでもルーカス様に必ず勝てるとは……」


 ここで今まで黙っていたアン達が口を挟む。


「メリー、大丈夫よ。リュークならあんな男より強いわ」

「そうだよメリー! お兄ちゃんなら大丈夫! 今日もお兄ちゃんの魔法見て強いってわかったし!」


「違うのよアン、アナ。リュークさんの魔法が凄いって私もわかってる。だけどルーカス様は『剣士』。魔法使いと剣士が一騎討ち。いくらなんでも不利すぎるわ」


 魔法使いは魔法を使う際、必ずといっていいほど『溜め』がある。

魔力を循環させ、魔法を放つまで集中しないといけない。


 魔法使いVS剣士。

普通ならばその『溜め』の隙を突かれて、剣士が勝つ。

もはや勝負にすらならないといっても過言ではない。


「おいメリー、俺は魔法使いじゃないぞ? 『魔法剣士』だ。剣も使える。まあ俺は刀だけどな」


 リュークのその言葉に、アメリアが反応する。


「何!? リューク、お前が『魔法剣士』だと!?」

「ああ、そうだな」

「なぜ剣も扱うのだ? お前の魔法の腕なら剣など扱わなくてもいいではないか!」

「なんでって言われても……そうしてきたからとしか……」

「剣など使っていたら魔法が疎かになる! それにあれほどの魔法だ! 剣など付け焼き刃にすぎんのだろう!」


 アメリアが見たリュークの魔法は文字通り、『規格外』。

そんな魔法を使える者なら想像出来ないほどの練習をしてきただろう。


 そんな魔法の練習を膨大にしてきた者が、剣を扱うにしても魔法ほどの達人ではないはず。

そうアメリアは考えた。


「おいおい、付け焼き刃とは言ってくれるな。自分で言うのもなんだが――俺は刀を扱う方が得意だと自負してるぞ」


 しかし、リュークはアメリアの考えを否定する。


「なっ!? あれほどの魔法だぞ! それより剣を扱う方が上手いと言うのか!?」

「まあ、そうだな……剣なら父ちゃんに勝ったことあるしな。魔法で母ちゃんに勝ったことないんだよ」

「なんだと……!?あの魔法より強い者が存在するのか……」


 リュークが剣の方が扱うのが得意だと言った理由はそこにある。


 リュークの父、剣神ヴァリーと幾度となく手合わせしたリュークは負け越してはいるが、勝つことは出来ている。

しかし、母のフローラ、魔帝には一度も魔法で勝ったことがないのだ。


『ふふふ、年の功よ』

『おい、それじゃ俺が弱いみたいじゃないか』

『あら? 私に負け越してるあなたは弱いでしょ?』

『くっ……ぐうの音もでない……』


 そんな会話をヴァリーとフローラとしたことをリュークは思い出していた。


「それに魔法だけだったら近接戦闘の時どうするんだ? 魔物相手でも近接戦闘は必須だろう?」

「それは一人だった場合だろう。普通魔法使いはパーティーを組んで、遠くから魔法を使うんだ」

「そうなのか? 俺は一人でやってきたからわからないな。これからもそのつもりだし」

「なんという規格外だお前は……」


 アメリアが苦笑気味に呟く。


「そういうもお前も、ワイバーンを一人で倒したとか聞いたが?」

「私は時空魔法があるからな。攻撃を避けるのは簡単なことだ。避けながら魔法を扱う事には慣れている」

「ほー、そうか。だがやはり、強くなるには一人で強敵を倒すことが必要。それには最低限回避、ということが出来ないといけない」

「……まあそうだが、剣術の方が上手いのは意味がわからん」


 やはり納得がいっていないのか、アメリアはリュークを疑うような目で見る。


「まあそれは置いといて、ということで今言った通り、アンとアナにも近接戦闘の手段を身につけてもらうからな」

「え? そ、そうなの? 私達は魔法だけ教えてもらうつもりだったのだけれど…」

「お前ら二人で冒険者稼業をやって行くんだろ? そしたら魔法だけじゃなく、最低限相手の攻撃を回避することは必須。ということでそこも鍛えていくぞ」

「……お姉ちゃん、私死にたくない」

「え? 私達死ぬの? ……そうね、その可能性は否定できないわね」


 アンとアナは、絶望した顔で虚空を見つめている。


「まあ、とりあえずもうギルドには用がないから帰ろうぜ」

「……そうね、帰りましょうか」

「そうだね……」


 アンとアナは明日からの鍛錬を想像して、元気が無くなっているのか覇気がない声で答える。


「アメリアはどうするんだ?」

「むっ、私達は宿があるから……」

「アメリア様、宿があるのは隣街です。この街では宿をとっていません。そして今からでは宿をとるのは難しいかと……」

「なんだと!? なぜ私がいない間にとらなかった!?」

「アメリア様がこんなに遅くなるとは思っていなかったので。さすがに朝に出掛けて、夕方に戻って来るとは思いませんでした」

「……すまない」

「しょぼんとするアメリア様……可愛いです」


 アメリアとその連れの三人は宿が無く、泊まる場所がないらしい。


「ねえメリー、アメリア達を家に呼んでもいいかしら?」

「そうだね、リビング広いし、皆んな泊まれるよ!」

「……そうね、大丈夫よ。アメリア様、そういうことで私達の家に泊まりませんか?」


 アンとアナがそんな四人を見かねて、提案する。

メリーもその提案を承諾し、アメリア達に話しかける。


「い、いいのか? すまない。世話になる」

「ありがとうございます、メリー様」


 アメリアが礼を言い、それにならいあとの三人もメリーに礼を言う。


「じゃあアン、アナ。それにリュークさん、先に帰っててください。私はもう少し時間がかかるので」

「おう、わかった」

「うん……頑張ってね、メリー」

「また後でねメリー!」


 メリーとリューク達はひとまず別れて、アメリア達を連れて家に帰る。


 その際、急遽人数が増えた夕飯の準備のためにアンとアナは買い物をしないといけなくなり、リューク達と別れる。

そしてリュークとアメリア達の四人は家に向かう。


「そういえば名前聞いてなかったな。知ってるとは思うが、俺はリュークだ。よろしくな」

「私はテレシアです」

「エイミーで〜す」

「……サラです」


 三人は順番に名乗る。

テレシアは礼儀正しく頭を下げて名乗る。

エイミーはウインクしながら名乗り、サラだけはリュークを鋭く睨みながら名乗った。


「三人は赤髪だが……姉妹とかか?」


 テレシアは長髪で腰くらいまで流している。

エイミーは肩くらいまで伸ばした髪をポニーテールで纏めている。

サラはシンプルな短髪という感じであった。


「そうです、私が十八歳で長女。エイミーが十七歳、サラが十六歳です」

「そうなのか? じゃあ全員俺やアン達より歳上だな」

「なっ!? あんた、あたしより歳下なの!?」


 リュークの発言に反応したのは、末っ子のサラだった。


「ああ、そうだが……」

「それなのにあんた! あたしやお姉様、それにアメリア様にまで敬語を使わないなんて!」

「あー、ごめんな。俺敬語使えないんだ」


 リュークは今まで生きてきて、父親と母親としか喋る機会がなかった。

もちろん、リュークは両親に敬語を使ったことはなかった。


「なんと不敬な! こんな奴がSS級など冒険者ギルドもどうかしている……」

「いや、ランクは実力で決まるから関係ないだろ」


 サラは片手を額に当ててため息をついている。


「サラよ、リュークの腕前は私を遥かに凌駕しておる。格上の者が格下に敬意など払わなくてよいのだ」

「は、はいアメリア様!はあ……寛大なるアメリア様も素敵です……」

「……なんかよくわからないけどこいつ、アメリアのこと好き過ぎないか?」

「そういう性癖なんです、ご理解ください」


 テレシアはいつものことのようにリュークにそう言った。


「ねえ〜、うちお腹すいた〜。早く行こうよ〜」


 エイミーはリューク達より早足で先に行くように歩く。


「エイミー! お邪魔させて頂くのだからそんな失礼なこと言うんじゃありません!」

「テレシアは頭固いな〜、そんなんだから『クラン』の皆んなと仲良くできないんだよ〜」


 先を歩いているエイミーは振り返ってクルクル回りながら言った。


「ん? アメリア達も『クラン』ってのに入ってるのか?」

「ああ、そうだ。私達はさっきの……」

「ルーカスです」

「そう、ルーカスって奴の『クラン』ではなく、『黒のクラン』。『白のクラン』と同じく、A級のクランだ」

「私達のクランも、トップスリーに入っているクランでもあります」


 アメリアの説明に、テレシアが横から付け加えて説明する。


「そうなんだ、よくわからないけど」

「本当はリューク様をクランに勧誘するつもりで今日はこの街に訪れたのです。しかし、アメリア様はそのことを忘れてリューク様に伝えず、挙げ句の果てに先に『白のクラン』に勧誘される始末……」

「……すまない」

「ああ……涙目で俯くアメリア様も愛おしいです……」


 そして四人はメリー達の家に着いて中に入り、しばらくすると仕事が終わったメリーと買い物帰りのアンとアナが途中で合流したらしく、一緒に帰ってきた。


 そしてアンとアナ、メリー、そして加えてテレシアが料理を作り始めた。


「テレシアよ、私も手伝おうか?」

「私達を毒殺するつもりならどうぞお手伝いくださいませ」

「……大人しくしている」

「アメリア……お前何を作ったんだ…」

「膝を抱えて座ってるアメリア様も可愛いです……」

「サラも相変わらずだね〜」


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