第31話 四種族
リューク達は夕飯を食べ終わり、片付けを始める。
「アメリア様は大丈夫です、ゆっくりおくつろぎください」
「い、いやテレシア、私だって手伝いを……」
「すべての食器を壊したいならどうぞお手伝いくださいませ」
「……ゆっくりしてる」
「だから何があったんだアメリアは!?」
「いじけるアメリア様も可愛いです……」
「あはは〜、アメリア様は戦闘以外ダメダメだからね〜」
そんなことがありつつも、片付けを終えて全員が一息つく。
「はあ……疲れたわ。こんなに運動というか、身体を酷使したのは初めて……」
「私も……一日目の鍛錬でこんなになってたらこの先どうなることやらだよ……」
アンとアナがソファに埋まるように身体を沈めている。
「一週間もすれば慣れるから。まああそこまで走るのはもう少し体力つけないと慣れないかもしれないが」
「私とお姉ちゃん、特にお姉ちゃんは走るのが一番疲れてるよ」
「そうね……一週間で走るのは慣れるのかしら?」
「いや、一週間で魔力を操るのは慣れると思うが、走るのはもっとかかると思うが」
「アナ、本気で鍛錬やめるか考えない?」
「お姉ちゃん!?」
「そんなに走るの嫌なんだな」
そしてアンとアナはもう体力の限界らしく、明日のためにもう寝るので部屋に戻った。
「……あいつら俺との約束覚えてないのか?」
「約束ってなんですか?」
リュークは階段を上がって二階に行ったアン達を見送りながら、小さな声で呟く。
それを聞いたメリーがリュークに問う。
「いや、俺が魔法とかを教えるかわりに、世界について教えてくれっていう約束だったんだが……」
「あ、そうだったんですね」
「まあ今日じゃなくてもいいから、慣れてすぐに寝なくてもよくなってからでもいいけどな」
「……リュークさん、私が教えましょうか?」
「え? いいのか? ありがたいが……特に何も返すものがないが」
「アンとアナに教えて頂いてるだけで大丈夫です。アンとアナをよろしくお願いしますね」
「……おう、任せろ。ありがとな」
リュークとメリーは向かい合って笑い合い、互いに礼を言う。
「ねえ〜、うち達のこと忘れてな〜い?」
その二人の間に次女のエイミーが笑顔で割って入る。
「あ、いや……忘れてませんよ?リュークさんと話すのに夢中になんて……なってませんから!」
メリーは少し顔を赤く染め、リュークをチラ見しながら弁解する。
「ふふふ〜、メリーちゃん可愛いね〜」
「エイミー、やめなさい」
「は〜い、ごめんなさ〜い」
長女のテレシアがエイミーを注意するが、特に反省の色を見せずに謝罪の言葉だけを言った。
「あんた世界を教わるって、何を知らないの?」
「んー? 全部? 俺ここの街に来る前まで両親以外の人に会ったことなかったから」
「はぁ? あんたどこに住んでたのよ」
リュークの世界を知りたいと言う言葉に、末っ子のサラが口を挟む。
「森、だな。そこで父ちゃんと母ちゃん、俺で三人で暮らしてた。だから何も知らないんだ」
「呆れた……唯の田舎者じゃないの。そんなんでよくSS級なんてなれたわね」
「田舎者関係なくね?」
先ほど敬語が使えないと言った時と同じように、サラは額に手をやる。
「じゃあメリー、教えてくれるか?」
「はい、少し長くなるかもしれないので座って話しましょうか」
「うち達も座るね〜」
「アメリア様、どうぞ」
「うむ、悪いな」
昨日は四人で座っていたテーブルを、椅子を増やして座る。
テレシアはアメリアのために椅子を引いて、座らせた後に自分も座る。
「では教えていきますね。まずはそうですね……種族について教えましょうか」
「ああ、頼む」
「知性ある種族は、全部で四種族。人族、獣人族、精霊族、魔人族です。リュークさんやアン達、それにアメリア様達も人族ですね。私は見ての通り、狼の獣人族です」
「四種……その獣人族の中では、メリーのように狼の人もいれば、他の動物の獣人なのか?」
「そうですね、犬や猫、兎や猪なんかもいますね。部族って感じで別れていて、村や集落になってる感じですね」
「付け加えさせて頂くと、精霊族なども獣人族と同じように種族の中でも違う精霊がおります。代表的なのがエルフ、ドワーフなどです」
テレシアがメリーの説明に付け加えをする。
「そうなのか……人族、獣人族、精霊族、魔人族ね」
リュークは覚えようと、口に出して繰り返す。
「種族ごとの特徴としましては、獣人族は動物の種類によって差異はありますが、身体能力が高いです。しかし、魔法適正値などが低く、魔法は不得意とします」
「精霊族は身体能力は少し低いですが、魔法適正値は非常に高いです。なので魔法を得意としています」
「そして魔人族、身体能力は獣人族に、魔法適正値は精霊族に並ぶほど高いです。どちらも少し下がるくらいで、ほとんど変わりありません」
「獣人族は身体能力が高く、精霊族は魔法適正値が高い。で、魔人族はどっちも高いと……ふむふむ。人族は?」
一通りの説明を理解したようで、リュークは次の質問に入る。
「人族は……獣人族ほど魔法適正値が低くなく、精霊族ほど運動能力は低くない……って感じですかね」
「ほー、つまり特徴がないのが特徴だと」
「……はっきり言うとそうですね」
リュークは納得したようにしているが、それを聞いていたアメリアなどが悔しそうにしながら喋り出す。
「……そうだな。前に精霊族、エルフの魔法を見たことがあるが…あれは人族では到底辿り着けるものではなかったな」
「そんなに凄かったのか? どのくらい?」
「そうだな……今日リュークが放った『炎壁フレイムウォール』。あれの約三倍といえばわかるか?」
「へー、なかなかだな」
素直に感心するような声を出すリューク。
だが実際にエルフの魔法をを見たアメリアは悲痛な面持ちであった。
「あれを見たときは種族の壁というものを実感した……リューク、お前でもあれには勝てないだろうな」
「そうか? 今日見せた魔法の三倍程度だろ? 余裕だけど」
「は? わ、私の最大魔法の『津波』を防いだあれの三倍だぞ!?」
「ああ、三倍程度なら余裕だな」
平然と言いのけるリュークに、アメリアは呆然とする。
そしてその会話に黙って聞いていたサラが横から入る。
「あ、あんた! アメリア様の魔法を防いだというの!? あの『津波』を!?」
「ああ、そうだが」
「そんな、まさか……」
「すごいね〜、あれを防ぐ人なんているんだね〜」
「そうなんですか……SS級、ランクに恥じぬ腕前、流石でございますね」
サラはこれ以上驚く顔は出来ないのではという顔で驚いていた。
語尾を伸ばしながらエイミーは喋るが、その声には驚きの色が含んでいた。
テレシアも冷静な様子だったが少し驚いたようだった。
「まあそれはいいとしてメリー、続きお願いできるか?」
「あ、はい。わかりました」
「この世界には、東西南北で大陸が四つあります。そして大陸ごとに、先ほど言った種族が別れています」
「北、ノーザリア大陸には精霊族」
「南、サウマリア大陸には獣人族」
「西、ウエリニア大陸には魔人族」
「そして東、イーラニア大陸には人族。つまり今私たちがいる大陸ですね」
「覚えるのが難しいな……」
リュークは覚えようと声に出して繰り返す。
「思い出せなかったり、忘れたりしたら何度でも聞いてください。答えますから」
「ああ、ありがとう」
「続きを話しますね。その四種族は友好関係を結んでいる種族もあれば、敵対関係の種族もあります」
「人族、獣人族は友好関係にあります。私や他の獣人の方々がこの街に普通に住んでいることが証拠です」
「そして魔人族、精霊族は友好関係を結んでいます。噂によれば、互いの魔法適正値を利用して色んな魔法を研究してるそうです」
「人族と獣人族が仲良し、精霊族と魔人族が仲良し、ね…」
リュークはメリーの説明を自分なりにまとめて覚える。
「そして敵対関係ですが、人族と魔人族が敵対し、獣人族と精霊族が敵対しています」
「この理由は獣人族と精霊族は互いを見下しているため、というのが大きい理由です」
「獣人族は精霊族を『軟弱者』と、精霊族は獣人族を『脳筋』といった風に」
「のうきん、ってなんだ? どういう意味?」
「力だけで物事を解決する頭が悪い奴ら、魔法も使えないバカな奴ら、といった意味ですね」
「なるほどな」
リュークは頷きながらメリーの話を聞いている。
「そして人族と魔人族が敵対してるのは、魔人族にとって人族はその……自分たちより全てが劣っているという風に見下しています。そして人族は……劣等感から嫌ってるといった感じでしょうか」
メリーは人族の五人の前で少し言いづらそうにしながらも説明する。
「まあ、私はそこまで気にしてはおらんが……それでも先ほど言った通り、種族の性能の差というものがあるから劣等感というのはわかる気持ちはある」
「そうでございますね、私も少しはそういうのは理解できます」
「うちはわからないな〜、魔法の力って人それぞれじゃ〜ん」
「……あたしもわからないわ」
「ふむ、とりあえず獣人族と精霊族が仲悪くて、人族と魔人族も仲が悪いと……」
四人はそれぞれ自分の考えを言って、リュークは説明をまとめて覚えようとする。
「じゃあ、人族と精霊族は? 獣人族と魔人族もだけど、仲良い種族が嫌いな種族を嫌いにならないのか?」
「そこは特に仲が良い、悪いはありません。お互いに興味がない、といったものだと思います」
「ほー、そうなのか。なるほどな」
サラが舟をこぎだしたのを、リュークが横目で確認する。
「そろそろ寝るか、ありがとなメリー。アメリア、テレシア、エイミー、サラも」
「あ、はい。いつでも質問とかにお答えしますからね」
「私は特に何もしてないが……まあリュークには魔法を教えてもらった借りがあるからな。その分は返すつもりだぞ」
「私も何もしておりません、少し付け加えたくらいございます」
「ん〜私も何もしてないよ〜? あ〜、だけど私もアメリア様と同じように魔法教えてもらいたいな〜」
「おう、いいぞ。明日も鍛錬するからそれについてきてくれ」
「エイミーお姉様も行くならあたしも行く!いいわよね?」
「一人二人増えたところで変わらないからいいぞ」
メリーの部屋にもう一人寝れるので、食事の時に一緒に手伝って少し仲良くなったテレシアもメリーの部屋で寝るのでメリーの部屋で寝ることになる。
そしてアメリア達が泊まるので、急遽物置部屋を片付けて二人寝れるようにして、後の二人はリビングで寝ることになった。
「アメリア、一緒にリビングで寝ようぜ」
「――なっ!?」
「はあ!? あんたアメリア様にナニをするつもりなの!?」
「は? 何って……一緒に寝るだけだろ?」
「リューク君は大胆だね〜、アメリア様〜、隣の部屋だけどちゃ〜んと耳栓つけて寝るので大丈夫ですよ声出しても〜」
「エ、エイミーお姉様も何を言ってるんですか!? 私は許しませんよー!!」
アメリア大好きっ娘のサラが、うるさく喚きながら反対したが、エイミーに引きずられるようにして物置部屋に行った。
リビングにはリュークと、顔を紅くして緊張してる様子のアメリアが残る。
「そ、その……リュークよ、なぜ私と同じ部屋を希望したのだ……?」
「ん? ああ、アメリアなら襲われても大丈夫だろうなって」
「――お、襲う!? な、何を言って……そ、それに大丈夫とはなんだ大丈夫とは!? 私はそんなに経験豊富そうか!?」
「え? 違うの? 襲われたことない?」
「いや、その、野盗にそういう目的で襲われたことはあるが、全部倒してきたし、その……知人に襲われたことないし……」
最後の方は小さく呟くような声で言うアメリアは、両手を頬に当てて紅くなってるのを隠すように顔を振っている。
アメリアの呟いた声を聞き取れなかったリュークは首を傾げる。
「んー? なんか話が噛み合ってないが、とりあえず寝ようぜ」
リュークは異空間からベットとハンモックを取り出して部屋に置く。
「じゃあアメリアはベットで寝てくれ、俺はハンモックで寝るから」
「へ? い、一緒に寝るのではないのか?」
「いや、そのベット一人用だから二人じゃ狭いだろ」
「いや逆にくっついてて良いというかなんというか……」
「ボソボソ喋らないでくれ聞こえない」
リュークはアメリアが顔を紅くして一人ボソボソ言っているので、ソファに寝っ転がり寝ることにした。
「じゃあおやすみー」
「え? ほ、本当にリュークはそっちで寝るのか!?」
リュークはすぐに寝息を立てて寝てしまう。
仕方なくアメリアはベットに入り寝ようとするが、モンモンとしてなかなか寝れなかった。
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