第140話 いつか気づく
リューク達がレンの家に着いたときには、レンとセレスが料理を終えてテーブルに皿を運んでいた。
すぐに五人は席について夕食を食べ始めた。
「うむ、やっぱりレンちゃんの料理は美味しいのう」
「グラおじさん、それはボクが作ったのじゃない」
「……すまぬ」
そんな会話が夕食の間にあったが、追求しないほうがいいと皆が思った。
「それで、オットーとか言う奴にはもう邪魔されないのか?」
夕食後、セレスが気になっていたことをヴァリーとグラウスに問いかける。
「ああ、もう大丈夫だ。邪魔されることはない」
「……そうか。わかった」
ヴァリーの答えに、セレスはそれ以上聞かない。
聞かなくても、わかってしまったからだ。
ヴァリーとグラウスが、オットーに何をしたのかが。
見た目は若いが、一二〇年も生きているのだ。
二人がオットーのところに行く時に発していた殺気も、なんとなく感じていた。
「ヴァリーさん、グラおじさん……ありがとう、ございます」
レンもそれ以上聞くことはない。
色々な意味を込めてただ一言、お礼を言う。
「いいってことよ。息子の刀を作ってもらうんだから、このくらいはしないとな」
「そうじゃな、ワシも鍛冶師として刀を造るのを邪魔する奴は許せんのじゃ」
二人は笑顔でそう言った。
その後、セレスとレンがお風呂に入りに行った。
リュークの父親がいる手前、セレスは最初は自重したが、レンは普通に「一緒に入ろ?」とリュークに提案していた。
それに対抗してセレスも誘ってみるが、リュークは断った。
二人の目がなぜか少し血走っていたので、嫌な予感がしたのだ。
二人は渋々諦めて、お風呂に入りに行った。
「あなたのせいでリュークと一緒に入れなかった」
「お前のせいだろ。というか、よくヴァリーさんの前で誘えたな。心臓に毛でも生えてんのか?」
「生えてるわけない。馬鹿なの? あ、馬鹿だった」
「うるせえよ」
脱衣所でそんな会話をしながら、仲良く風呂に入った。
「はっ、ちっこいな」
「何が? っ! そんな無駄な脂肪、いらない」
「いらない、じゃなくて、手に入らないの間違いだろ?」
「リュークは、そんな邪魔なのいらないって言ってた」
「はっ!? い、いつ言ってたんだ!?」
「……夢の中で」
「てめえの勝手な妄想じゃねえか!」
……おそらく、仲良く入ったと思われる。
二人が出た後、他の三人も順番に入った。
リュークは久しぶりに父親のヴァリーと二人で風呂に入って、とても楽しく懐かしい気分になった。
全員風呂に入り終わり、テーブルにつき雑談をしていると、ヴァリーとグラウスが時間を見て立ち上がった。
「じゃ、ワシとヴァリーは店に戻る。オッサン二人が泊まるにはちょっと息苦しいしのう」
「俺はお前ほどオッサンじゃねえけどな」
「うるさいわい。まあ、ダリウスのことを知る男二人、語りたいこともある。若い者は若い者同士、過ごすのが良いじゃろう」
年齢的に言えばグラウスは別として、ヴァリーの方がセレスより若いのだがそこは突っ込まない。
「よく言ったグラウス。ということでリューク、夜はオレと過ごそうぜ」
「そんなこと許さない。ボクがリュークと寝る」
「いや、一人で寝たいんだが」
またセレスとレンが言い争いを始めた。
それを穏やかな目で見ながら、ヴァリーとグラウスは家を出る。
「じゃあなリューク。また明日、朝に会おう」
「っ! うん、わかった」
そう言ってドアを開けて外に出る。
暗くなった道を、オッサン二人は歩く。
「……いいのか? レンちゃんにダリウスのことを教えなくても」
二人で夜の道を歩いてる途中、ヴァリーが真剣な表情で話を切り出した。
ダリウスのこと。
つまり、ダリウスが鍛冶師として負けたわけではない、ということである。
ヴァリーもグラウスの話を聞くまでは、ダリウスが鍛冶師という仕事に負けて死にたがっていた、と思っていた。
おそらく、レンも少なからずそう思っているだろう。
唯一の弟子のレンが、ダリウスの想いを間違えて捉えているというのが、ヴァリーは何とも言えない気持ちになる。
「いいんじゃよ。ダリウスはレンちゃんに心配をかけないようにそう思わせたんだ。自分の気持ちを抑え込んで、親友のお前までも騙して。ワシ達が言ったらそれが無駄になってしまうじゃろう」
「……そうか、そうだな」
死にたくない。
そう願っても、レンのために叶えることはできなかった。
自分の目標のために、弟子のレンに迷惑をかけられない。
ダリウスはそう考えて、死んでいった。
「それに幸か不幸か、レンちゃんはダリウスと同じように命を懸けて刀を造りたいと思える相手に、リューク君に出会った。それ自体は幸運なことだと思うが……おそらく、いずれ自分で気づいてしまうだろう」
リュークに出会ったことにより、レンは最高の刀に挑戦できる。
そしてそれが完成した時に、理解するのだ。
最高の刀を造った後から、鍛冶師という仕事との戦いが始まるのだと。
それと同時に、ダリウスの想いも理解することになる。
「その時になったら、支えてやらないとな」
「当たり前じゃ。ワシにとっても、レンちゃんは孫同然。助けないという選択肢はない」
「まあ、俺の息子がいるから大丈夫だと思うけどな」
二人は笑いながら、暗い夜道を歩いて店に戻った。
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