第13話 強制同行


「それにしてもリューク、今から行くってどうするの? もう馬車とかも出てないわよ?」

「あー、そういえば考えてなかったな……」


 リュークはもう少しその山が近くだと思っていたが、実際は馬で半日。

距離にしたら五十キロ以上はある。

 リュークの魔法、『次元跳躍ワープ』は一瞬で二キロほど移動できるが、リュークの膨大な魔力を持ってしても十数回が限度。


「そうだお兄ちゃん! メリーがペット飼ってるから行けるよ!」

「ペット?」

「あ、そういえばそうね。あの子達なら馬より早いしね。メリーお願い出来る?」


 三人で話していたが、受付嬢のメリーはずっと三人の側にいた。


「……無視されてたなんて思ってないわよ」

「な、なんかごめんねメリー……」

「いいわよ……そうね、依頼の助けにもなるし、それにアンとアナを助けてくれたリュークさんに恩返ししないといけないですしね」

「恩返しってそんな……だけど、ありがとうメリー。よろしく頼む」

「任せてください! じゃあ私準備してくるから、アン達は家で待ってて!」


 そう言ってメリーはカウンター内に入っていく。

外出許可を貰うために。

 リューク達はギルド内から出て、アン達が暮らしてるという家に向かう。


「メリーのペットって?」

「説明してなかったわね。メリーが獣人ってことはわかるわよね?」

「まあそうだな。初めて獣人を見たけど、頭から犬っぽい耳が生えてたし」


 リュークが犬を知ってるのは、小さい頃犬の魔物を飼ってたからである。


「メリーは犬の獣人じゃないんだよお兄ちゃん! 狼なの!」

「おおかみ? へー、そうなのか」

「そう、獣人は同じ種族の動物や魔獣とは意思疎通が出来るの。それでメリーは魔獣の狼を飼ってる… …というか友達なの」

「へー……ん? 魔獣? 魔物じゃなくて?」

「お兄ちゃん魔物と魔獣の違い分からないの?」

「本当に何も知らないのねリュークは……」

「あはは、悪いな。で、魔物と魔獣の違いってのは?」

「簡単に言うと、魔物は人間や獣人にとって害で、魔獣は害ではないって感じね。だから魔獣はペットとか、一緒に暮らせたりもするの」

「魔獣は頭が良いと私たちの言葉もわかるの! だから一緒に物を運んだり、一緒に戦ったりもするの!」

「へー、すげぇんだな魔獣って」


 そんな説明を受けて歩いていき、アン達が暮らしている家に到着した。

特に特徴もない、普通の一軒家だった。

 周りにも同じような一軒家が並んでいる。


「メリーもすぐに来ると思うから、家の外で待ってましょう」


 アンがそう言ったので、リューク達は家の外で待っていた。

リュークは商店街を初めて見るので、興味津々であった。

 リュークはお金の仕組みも全く知らなかったので、それもアンに教えてもらった。

アンも呆れながらも、丁寧に教える。

 リュークも頭は悪くないのですぐに覚えていく。


 そうしていると、アナがある方向を指差して、

「あ、メリー来たよ!」

 と言うので、そちらの方向を見る。


 するとメリーが大きい狼を二匹連れてるのが見えた。

メリーは片方の狼に乗り、もう一匹はその隣を歩いている。


「お待たせ! リュークさん、紹介しますね。私が今乗ってる方がネネちゃん! こっちがルルちゃん! どっちも女の子です!」

「ほー、立ち姿とかカッコいいけど名前は可愛いな」


 どちらの狼も体長が三メートル近くあり、迫力がある。

メリーが乗ってるネネは毛が茶色で、ルルは灰色っぽい。


 リュークはルルの頭を撫でる。

触り心地がとても良く、ずっと撫でていたくなる。

ルルも気持ち良さそうに目を細めて、リュークに身体を寄せる。

ネネもリュークに歩み寄り、頭を差し出す。

 リュークは両手に花状態で、頭を撫でる。


「すごいリューク……この子達、人見知りだからいつもなら最初は懐かないのに……」

「そうなのか?」

「私とお姉ちゃんは仲良くなるまで一ヶ月は掛かったのに……」


 アンとアナはリュークがいきなりルルと仲良くしてるのを見て少し嫉妬しているようだった。


「うーん、ちょっと違うかな」


 それに対してメリーが少し口を挟む。


「この子達は、自分が認めた人にしか懐かないの」

「認める? ネネとルルが?」

「そうなの。私もこの子達と一週間ぐらい話して認めてもらったんだけど……」

「俺はなんで認められてるんだ?」


 リュークはネネとルルの頭を撫でながら質問する。


「多分、リュークさんが『自分達より強い』からだと思います」

「やっぱり自然の世界だから弱肉強食で、自分達より強い相手なら従うみたいな感じがあるの」

「ネネとルルは強いけど、お兄ちゃんには負けるんだね!」

「へー……確かに、こいつら強いもんな……」


 リュークはネネとルル、二匹の佇まいや雰囲気、魔力などから強さを感じ取っていた。


「リュークにはわかるんだ? そうだね、この子達はB級の魔獣だからね」

「グレートウルフっていう種なんだよ、お兄ちゃん!」

「そうなのか。それで、こいつらが俺らを運んでくれるのか?」

「はい、ネネとルルなら馬車で半日ぐらいなら、二時間ちょっとで行けると思います!」


 そしてリューク達四人とネネとルルの二匹達は、今日街に入るときに通った門に行き、外へ出る。


 門を出て、東に向かうとリュークとアン達が出会った森がある。

西に向かうと、チェスターという街がある

チェスターに向かう途中にある山が、リューク達の目的地である。


「じゃあアンとアナがルルに乗って! リュークさんは私と一緒にネネに!」

「ちょっと待ってメリー。なんでリュークとメリーがネネに乗るのよ」

「私もお兄ちゃんと一緒に乗りたい!」

「あなた達いつも二人でルルに乗ってるじゃない……」

「そうね、今日はいつもと違くていいんじゃない? ほら、アナ。アナもメリーと乗りたくない?」

「私お兄ちゃんと乗りたいって言ったよねお姉ちゃん!?」


 ちょっとした修羅場が起こったが、リュークが気にもせずネネに乗りメリーと一緒なってすぐに修羅場は終わった。

 アンとアナは不満そうにしていたが。


 しかし、メリーも後ろに異性を乗せるのは初めてで、後ろに乗せるということはリュークがメリーの肩に手を乗せたり、腰に腕を回さないと危ないという状況になる。

 それをメリーが意識してしまって、顔が赤くなってきた。


 そして、いざ出発するとなってもまだリュークが肩やら腰に手を置かないので、メリーが声を掛ける。


「あの……リュークさん。その、ネネが走ってると揺れて危ないので……わ、私の腰に手をやって…」

「あ、体幹鍛えてるから大丈夫。どんだけ揺れてもメリーには迷惑かけないから」

「……そ、そうですか……」


 アンとアナに哀れな目で見られるメリーであった。

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