第12話 強制同行


 リュークは部屋を出てカウンターのところに戻ると、アンとアナがメリーと一緒に待っていてくれた。


「お待たせアン、アナ」

「お兄ちゃん!」


 アナはリュークが見えると、リュークに正面から抱きつく。

リュークはその行動には驚いたが、衝撃を和らげて受け止める。


「リューク、話ってなんだったの?」

「あー、初依頼のことだな」

「依頼……ですか? あ、もしかして…」


 メリーは受付嬢なので、何回かB級以上になる為の依頼を知っていた。


「盗賊を捕まえてこいだってさ」

「盗賊って……そんな危険なのが初依頼なの⁉︎」

「お兄ちゃん、大丈夫?」


 アナはリュークに抱きついたまま不安そうな顔で見上げた。

すると自然と上目遣いになる。

 それを見ていたギルド内の男どもは、「うっ……」と何故か呻いていた。


「大丈夫だ、アナ。心配すんな」


 リュークはそう言ってアナの頭を撫でる。

 するとアナは顔をほころばして「えへへ」とこぼす。

側から見ると完全に兄妹だが、血も繋がっていないし、同い年である。


「おいリュークとやら! 俺らも連れてけ!」


 突然後ろから騒々しい声が聞こえてきた。

リューク達が振り向くと、先程絡んできた男たち三人がいた。


「俺らはC級だ! 盗賊狩りをやれば俺らはB級に上がるかもしれない!」

「そうだ! B級になったらいろんな特典が付いてくる!」

「依頼の報酬が増えたりギルド内の飲み屋の食い物が安くなったりな!」


 男たちはリュークの盗賊狩りについていき、自分たちのランク上げをしようと考えていた。

リュークの『SS級』という、謎めいた強さがあるというのも理解して、盗賊狩りも楽に終わるだろうという考えである。


「……お前らの名前知らないけど、お前らを連れてって俺にメリットはあるのか?」


 リュークは冷静にそう三人組に返す。


「そりゃお前、一人より四人の方が良いに決まってるだろ?」

「だな、盗賊を見つける時や、戦闘になった時でも四人の方が良いだろ?」

「そんなんもわからないとか、まだまだお子ちゃまだな」


 そう三人組はニヤニヤしながら言ってくる。


「お前らが盗賊を見つける時も、戦闘になった時も助けになると思わないが?」

「は? ……なんだと?」


 リュークは三人組にそう言い放つ。

その言葉に三人組もニヤケ顔を止めて、リュークを睨む。


「お前らは……自分を起点に半径二キロを捜索できるか?」

「は? 何言ってんだ?」

「ドラゴンを倒せるか?」

「ドラゴンだと? 盗賊狩りに関係ねぇだろ」


「どちらも出来ないと、俺には足手まといなんだよ」


 男三人組や、この言葉を聞いているギルド内の人達は驚く。

その言葉を言うということは、リュークにはそれが出来ると考えられるからである。

 事実、リュークはそれを軽々とやってのける。


「そ、そんなことできるわけねぇだろ!」

「じゃあ、お前らはいらない」

「なんだと……」

「それに、俺が依頼された盗賊はA級を二人殺しているらしいぞ。B級にも達してないお前らがいてどうこう出来るものじゃないだろ」


 その言葉を聞いて、今まで黙っていたアンが驚きの声を上げる。


「それってまさか……『鮮血の盗賊団』のこと!?」

「なんだそれ?」

「その盗賊団の名前よ! 強い盗賊団や大きい盗賊団には、二つ名が付けられるの。その盗賊団は、商人達を全員殺して物資だけを奪う。商人達が襲われた場所に行くと、馬も馬車も何もなくて、商人達の死体とその身体から流れ出る血で地面が赤く染まっている……」

「だから『鮮血の盗賊団』ね……」


 リュークはその二つ名を聞いて特に何も感じなかったが、他の者は違った。


「お、お前……そんな依頼頼まれてたのか!?」

「そんなの、お願いされても行かねぇよ!」

「行くぞ、お前ら!」


 さっきまで連れてけと言っていた男達も、その盗賊団の名前を聞くと、ギルドから出て行ってしまった。


「いや、お願いしてないけどな」


 リュークが男三人組が出てっから冷静にツッコミを入れていた。


「お兄ちゃん? 大丈夫なの?」

「大丈夫って言ったろ? アナ」

「リューク、私も心配だわ……そんな危ない盗賊団を一人でなんて……」


 さっきまでリュークを信頼して見守っていたが、盗賊団の名前を聞いてまたアンとアナが心配し始めた。


「私も付いてく! お兄ちゃん!」

「そうね、そうした方が良いと思うわ」


 アナがリュークの事が心配でこんなことを言い出した。

いつもならこんな無茶を止めるアンも何故か賛成している。


「おいおい二人とも、さっき俺が言ったこと聞いてなかったのか?」

「聞いてたわよ。捜索も戦闘も私達はいても無駄、むしろ足手まといになる」

「だったらなんで……」

「リュークはその盗賊団のいる山の場所わかる?」

「え、あ……」


 そう言われると、リュークは答えられない。

 この街、『ヴェルノ』と隣町の『チェスター』に行く時に越える山と聞いたが、どこにあるのか、この街を出てどの方角なのか何もわからない。


「その山に行くのは、ここから馬車でも半日はかかるわよ?」

「だから道案内として付いて行くのはいいよね? お兄ちゃん!」

「……はぁ、しょうがない。本当にわからないしな」


 こうして、リュークがアンとアナを盗賊狩りに連れて行くという事が決まった。

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