第48話 王都への道


 リューク達はヴェルノの街を出て西に向かっていた。すでに出発してから数時間が経過していた。

 馬車ならぬ狼車は普通の馬より断然に早く進むので、王都に着くのはかなり時間短縮すると考えられる。


「メリー、王都に着くのはどのくらいになりそうなんだ?」

「そうですね……このペースで行くと五日後には着くと思います」

「ネネとルルの速さでもそんなにかかるのか。やっぱり遠いんだな」

「そうですね。普通の馬車だったら倍の十日はかかるので」

「そうか。手綱持つの変わるよ。あと五日間ずっとメリーに任せるのは悪いしな」

「あ、ありがとうございます。じゃあ少しの間休ませてもらいますね」

「おう、任せろ」


 リュークは手綱を受け取りネネとルルを走らせる。メリーは車の中に入る。アメリア達はそこで思い思いに休んでいた。


「う~ん、寝っ転がれないよ~」

「エイミー、ならアメリア様やサラのように立てばいいのです」

「テレシアはなんで正座でいれるのかな~?」

「日々の鍛錬の末です」

「正座の鍛錬なんてやってるの~?」


 この狼車はスピードが出ると比例するように揺れが激しくなる。馬車の揺れとは比べものにならないほどであった。

 そこでエイミーは寝ようと試みるが全く寝れていなかった。テレシアはこの揺れの中正座の姿勢を全く崩さずにいた。普通に座るのもお尻が痛くなってアメリアとサラは耐えられなくなり立ち上がったのに対して、正座を維持しているテレシアは異常であった。


「ふむ、テレシアはいつも座るときは正座だったがここでもするのか。さすがだな」

「恐縮です。アメリア様とサラもずっと立ってるのもなかなか辛いものがあると思いますが」

「そうだが、立ってると体幹が鍛えられるからな。これも鍛錬だと思えばいいのだ」

「私も、アメリア様のように……うわっ!」


 サラは急な大きい揺れに耐えられず倒れる。アメリアは少し体勢を崩すが倒れることはなかった。


「くっ! リューク! あんたのせいで倒れちゃったじゃない!」

「悪いな、まだ慣れないから揺れるわ。もう少し耐えてくれ」

「今まで倒れずにいたのに……」

「じゃあ私も立っていようかな~」


 エイミーは立ち上がりサラの隣に立つ。今まで座って手綱を持っていたメリーも並んで立つ。


「メリーは座ったほうがいいんじゃないか?」

「いえ、大丈夫です。逆に先ほどまで座っていたので立ってたほうが楽です」

「そうか。それにメリーは獣人であったな。私達より身体能力は高いからな」

「まあ一応は……」

「そういえば、メリーちゃんはランクは何級なの~?」

「私は元B級です」

「あたし達よりは下ね」


 サラがメリーのランクを聞いてすぐに反応するように答える。


「サラ、そんなにランクにこだわってはダメですよ。メリー様、あなたが受付嬢になったのはいつ頃でしょうか?」

「確か、もう三年ほど前ですね」

「私達は三年前、まだE級程度でした。B級になってから三年も経っていれば、B級になった時よりは腕前も上がっているでしょう」

「い、いや! そんなことは……。逆に事務の仕事ばかりしているので腕は衰えてるかもしれません……」

「ご謙遜を……。失礼ですが、メリー様はご年齢は?」

「えっと……今年で二十五になります」

「えっ!? 年上……だったんですか?」


 メリーの年齢を聞いて突然敬語になるサラ。


「タメ口で構わないですよサラ様」

「そ、そう? てっきりアンやアナと同じように十二歳かと思ったけど……」

「よく言われます。獣人族は童顔が多いですから」

「そうなんだ~。だけどなんでアンとアナと住んでるの~? そんなに歳が離れてたら普通関わりないんじゃない?」

「アンとアナは……拾ったんです」

「拾った……?いったいどうゆう――」

「――サラ」


 サラが続けて質問しようとしたが、メリーの暗い雰囲気を感じ取りテレシアが止める。


「あ……ご、ごめんメリー。デリカシーなくて……」

「いえ、大丈夫です。それにあの二人がいないところで私が勝手に言うのは……」


 車の中の四人に気まずい雰囲気が流れたところで――外から大きな音が聞こえ、狼車も大きく揺れる。サラはまた倒れるが、他の三人は何とか耐える。


「な、なんだ!? リューク、どうしたんだ!?」


 アメリアがそう叫び、車から顔を出して外を見る。立ち上がっていた二人も後に続き、テレシアとサラも素早く立ち上がり外を見る。


「ん?ああ、すまない。ちょっと大きい音を出しすぎたか」


 リュークは手綱を左手で持ったまま座っていて、右手は前に向けていた。


「何があったんだ!?」

「いや、空にちょっと大きな鳥がいたからな。襲ってきそうだったし、今日のご飯にもなるし撃ち落とした」

「そ、そうか……。それでさっきの揺れは?」

「鳥が落ちた時の揺れだろうな。もう少し行った先に落ちたと思う」


 リュークの言った通りに、数十メートル行ったところに鳥は落ちていた。


「……ロックバードですね。B級の魔物です」

「あんたこれを一発で倒したの!?」


 ――ロックバード。

体長は約五メートルほど。名の通り身体の多くの体表を岩で覆っている。その硬さと大きさからは想像できない速さなども持ち、なかなかの脅威を誇る空を飛ぶ魔物である。


「まあ……ワイバーンを一発だったからな。このくらいも出来るだろうな」

「頭が吹っ飛んでるね~。さすがリューク君だね~」


 アメリアはもう既にもっと強い魔物を倒したのを見たことがあったのでそこまで驚いていなかった。エイミーもそこまで驚いてはいなかった。

 リュークは狼車から降りてロックバードに近づき異空間に入れる。


「よし、昼飯確保! 保存食しか持ってきてないからこういうところで調達しないとな」

「まあそうだが……こいつ食えるのか?」

「ロックバードは体表の岩によって中身は守られているので、中身は結構柔らかくて美味しいですよ」

「さすが受付嬢だね~、やっぱ魔物の情報はいっぱい持ってるね~」

「ネネとルルにも美味いもの食わせたかったからな、美味いもの手に入れられて良かったわ」


 リュークは狼車に戻って手綱を握り、また狼車を走らせる。


「鶏肉か……あたし鳥より豚のほうが好きだわ」

「サラ、好き嫌いはダメです。それに鶏肉のほうがヘルシーで身体にはいいんですよ」

「私も牛とかのほうが好きだが……まあ贅沢は言えないな」

「うちは鳥のほうが好きだな~、さっぱりしてて美味しいもんね~」

「私も鳥が一番好きですかね」

「……おい、サラ。なんか、はっきり分かれているぞ」

「そうですね……この好き嫌いで差がつくんでしょうか?」

「……一概には言えませんが、鶏肉が一番胸にはいいのかもしれませんね」

「リューク! 早く食うぞ! とゆうかもっと鳥を撃ち落とせ!!」

「そうよ! 朝昼晩全部鶏肉よ!!」

「いきなりなんだお前ら?」


 こうして五人は王都へと続く道を進んでいった。


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