第47話 いざ王都へ
――翌朝。
リュークは昨日の宴で寝るのが遅くなったが、いつも通りの時間に起きて朝の鍛錬をし終えていた。
そして帰り道に商人のおばちゃんの手伝いをする。
「あら、リュークちゃん王都に行っちゃうの?」
「ああ、そうなんだ。だから明日から朝ここに来て手伝うことは出来なくなるけど、ごめんな」
「いいのよリュークちゃん、おばちゃんまだまだ元気よ。このくらい出来るわ」
「なるべく早く帰ってくるから」
「ふふふ、待ってるわね」
今日の分の荷物を運び終えおばちゃんと別れる。するとすぐに薬屋のお姉さんに出会う。
「リューク君、おはよう。さっきの話聞いちゃったけど、王都に行くの?」
「おはよう。そうだな、だから魔物の素材とかはアンとアナに貰ってくれ。あいつらは残るから」
「あら、そうなのね。じゃあそうするね。いつもリューク君に安く買い取らせて貰ってるから、あの子達には高くしようかな?」
「うーん、あいつらなら意地でも俺と同じ値段で買い取ってもらいそうだけどな」
「うふふ、そうかもね。じゃあね、リューク君。まあ会おうね」
「おう、すぐ帰ってくる」
リュークは家に帰ってリビングに入るとアンとアナ、テレシアが眠そうにしながらも料理をしていて、エイミーは既に席に着いているがそこで座ったまま寝ていた。朝の挨拶をして、エイミーを起こして料理を待つ。
するとアメリアとサラが階段から降りてくるが――。
「なんでお二人とも下着のままなのですか?」
「アメリア様〜、サラ〜、リューク君いるよ〜。寝ぼけてるのかな〜?」
目をこすりながら来た二人は確かに下着姿だった。アメリアは水色、サラは赤色でどちらも髪色を意識して身につけたのか。
そして二人はリュークの姿を見ると突如慌てて身体を隠そうとする。
「あ……み、見るなリューク! こ、これは昨日酔ってたから……」
「あたし、何して……っ!?」
二人は慌てて上に行こうとしたが、寝ぼけながら二人の姿を見たアナが言った。
「……胸のない人ってブラジャーする意味あるの?」
時が──止まった。
アメリアとサラは不自然な体勢で止まって、次の瞬間もの凄い勢いでアナに迫る。
「ふざけるなぁぁ!! 胸がないからって下着を身につけるなと!?」
「そうよ!! だいたいアナだって胸ないじゃない!!」
「わ、私はだからつけてないよ? 邪魔だし動いてると『上』にズレてくるし」
「そ、そりゃあ私もズレるが……」
「そうだね〜、うちも『下』にズレることあるけど〜」
「え? エイミーお姉様、『上』じゃないのですか?」
「『下』だよ〜?」
何の違いかわからず混乱する一同に、テレシアが答えを言う。
「サイズが合ってないとズレることがあります。そして『下』にズレるのは胸が邪魔をして『上』にはズレないのです。ついでに言うと、私も『下』にズレます」
──ということは、『上』にズレるということは邪魔をするモノがないからであり。
「私もうブラしないぞ!!」
「あたしもですアメリア様!!」
泣くようにして二階に駆け上がる二人。やはり何の話か分からないリュークであった。
「アナ様。ブラをしないと胸に行くはずのお肉が背中やワキに流れてしまいます。だからつけたほうが良いとは思われます」
「あ、そうなんだね。じゃあ私今度からしようかな」
涙を浮かべて朝食を食べるアメリアとサラ。先ほどのテレシアの説明を聞けばブラをつける重要性を知れたのだが……今つけているのかは、二人のみぞ知る。
そして重要性を知ったアナと、知らずにいるアメリアとサラ。この違いは数年後に出てくるのだが……今は誰も知らない物語である。
そして数十分後。
リューク達はヴェルノの街、外壁の外に出ていた。そこでギルドが手配したという馬車を待っていた。
「しかし遅えな……」
「そうね……メリーもギルドに行ったからすぐに来ると思ったのだけれど」
「なんかあったのかな?」
アメリア達も少し落ち着かない様子で待っていた。
しばらくすると街の中からゴーガンとメリーがやって来る。隣には今回乗るであろう馬車が──いや、馬に引かせる車を馬車と言うのなら、これは馬車ではないだろう。
「狼じゃん……というかネネとルルじゃん」
車を引いてきたのはメリーのペットの魔獣、グレートウルフのネネとルルであった。
「すまんなお前ら! 遅くなった!」
「いやいいんだけどさ……何でネネとルルなの?」
「いやー、昨日商人とかに掛け合ってみたんだが今日言われていきなり明日は無理って言われてな」
「それで急遽私がネネとルルにお願いして引いてもらうことにしたんです……説得するの大変だったんですから」
「いやー、すまんな」
「大変だったわねメリー……」
プライドが高く、認めた者しか背に乗せることはないグレートウルフ。今回は初対面の人を乗せた車を引くとなるとなかなか首を縦には振ってはくれなかった。
「あれ? てことは、メリーも王都に行くの?」
「ええ、そうね。ネネとルルの世話しないといけないから」
「それにメリーはギルド受付嬢としても王都のギルドにリュークのことなどを説明や手続きをしないといけないからな」
ゴーガンがメリーの王都行きの説明を補足する。
「うむ、ではメリーよ。旅路長くなると思うがよろしく頼む」
「よろしくお願いします、メリー様」
「よろしくね〜」
「ネネちゃんとルルちゃんだっけ? 二匹もよろしくね」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
ネネとルルもサラに応えるように鼻を鳴らす。
リュークは二匹に近づいて頭を撫でる。すると二匹ともこの一ヶ月の間何回も味わったことのある撫で方に身を任せるようにリュークに身体を寄せる。
「リュークさんには凄い懐いてるんですよね……なんか悔しいです」
「メリーちゃん、それはどっちの意味かな〜? リューク君に嫉妬してるの? それとも〜、ネネちゃんとルルちゃんに嫉妬してるのかな〜?」
「なっ! ち、違います! ネネとルルに嫉妬なんてしてないです!」
「エイミー、からかうのはやめなさい」
「ネネとルルに嫉妬ってなんだ?」
「あんたは知らなくていいのよ鈍感」
そしてリューク達は馬車……いや、狼車ろうしゃに乗り、メリーはネネとルルの手綱を握る。
「ごめんね、手綱なんて繋げちゃって……あとで外すからね」
メリーは申し訳なさそうにしてネネとルルに言う。ネネとルルは大丈夫だ、と言わんばかりに低く唸る。
「アン、アナ、行ってくる。俺がいないからって鍛錬サボるんじゃないぞ!」
「わかってるわよ」
「走るのもだぞ」
「……わかってるわよ」
「なんだその間は」
「大丈夫だよお兄ちゃん、お姉ちゃんはしっかり走らせるから」
「おう、頼んだ。じゃあな」
リュークは二人にまたすぐ会えると言うかのように軽く別れを告げる。
そしてリューク達を乗せた狼車が走り出す。ネネとルルにしてはかなり遅くゆっくりと出発するが、それでも普通の馬車よりは断然に速い。
アンとアナは狼車が見えなくなるまで手を振り続け、それに応えるために狼車の上のリューク達も手を振る。
そして数分後、アンとアナには狼車の姿は見えなくなった。
「……行っちゃったね」
「……そうね」
「私達がもっと強かったら……連れて行ってくれたのかな?」
「……そう、かもしれないわね」
「……初めて、だよ。こんなに、弱くて悔しいのは」
アナは項垂れている。表情は見えないが、アンにはその頬に流れる涙を見て、自分も悔しさから溢れそうになる涙をなんとかせき止めて。
「だったら……強くならないといけないわね。私とアナ、二人で」
「……そうだね、お姉ちゃん!」
涙を拭き、顔を上げて笑顔を見せるアナ。
「じゃあ、ギルドに戻って依頼受託して森に行こっか!」
「そうね、行きましょう」
「あ、お姉ちゃん、お兄ちゃんに言われた通りしっかり走らせるからね!」
「……帰りだけは歩いて帰らない?」
「ダーメ! そんなんじゃお兄ちゃん達に追いつけないよ!」
「はあ……そうね、わかってるわよ」
アンとアナは街の中へと向かって歩き出す。その目にはもう涙は見えず、決意に満ちた目をしていた。
「ふむ、頑張れよお前ら」
「えっ……ああ、ギルド長」
「いたんだ、全く気付かなかった」
「……最初から最後までずっといたぞ」
ギルド長、ゴーガン。人生初めて存在を忘れられた経験であった。
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