第46話 暫しの別れ
「サザンカ王国の宰相からの依頼!? それって国家レベルの依頼では!?」
ゴーガンの言葉に反応したのはメリーである。受付嬢をしているメリーは直接依頼を受け取り冒険者に伝えたことがあるが、直接依頼の依頼人は商人などが多く、貴族なども稀であった。
「よくわからないが……サザンカ王国ってのはこの国でいいんだったよな?」
「ええ、この街ヴェルノや隣街のチェスターとかもサザンカ国の領域に含まれてるわ」
サザンカ王国――
人族の大陸、イーラニア大陸。
数十の国がある人族の国の中でも治安は比較的安定しており、住みやすい国として知られる。
その理由の一番は現国王――クラウディア=サザンカ王。
歴代稀に見る『賢王』であると称されている。
十八歳という若さで王位に就き、その若さ故国民は不安に駆られたが、それは杞憂に終わった。
内政、外政共に様々な取り組みを行い結果を出し、僅か五年で『賢王』という称号を言われる程になり、国民はクラウディア=サザンカ王を称賛した。
サザンカ国は人族と獣人族の共存が最も進んでる国でもあり、メリーがギルドの受付嬢を出来るのはこの国だからという理由もある。
「賢王と知られるサザンカ王からの依頼だ、リュークよ」
ゴーガンが綺麗で豪華な模様の手紙をリュークに渡す。
「ギルド長の俺は、直接依頼の内容を確認する義務がある。手紙を開けて内容を確認し、受付嬢に渡して冒険者に渡す。もちろん、受付嬢もその内容を確認し伝える」
「そうですね、それが義務となっています。しかし、ギルド長のゴーガンさんから直接渡したのは初めてでは……?」
「ああ、少し気になることがあってな」
「気になることってなんだ?」
「その手紙に、依頼内容が記されてない」
ゴーガンは真剣な面持ちでそう告げる。
「依頼内容が記されてない……!? そんなことあるのですか!?」
「いや、ギルド長をやってきて初めての経験だ。まず国の宰相からの依頼を受け取ったのも初めてだが、依頼内容が記されてないなんて聞いたこともない」
「単に……書き記すのを忘れたっていうわけでは無さそうだな」
リュークは手紙を開いて内容を確認した。隣でアンとアナが覗き込むようにして手紙を読んでいる。
「本当だ……至急王都に来てくれとしか書いてないね」
「確かにこれは不自然ね……わざと内容を記してないとしか思えないわ」
手紙を読んだアンとアナも不審がるように首を傾ける。
「あと、宰相からってのも気になる。こんな完全な国家機密の依頼を、サザンカ王自らではなく宰相が依頼したってのも不自然な点でもある」
「確かにそうかもですね……内政も外政も自ら進んでやった王様がこんなところで宰相に手紙を出させるっていう理由がわかりません」
不審な点、不自然な点を挙げれば挙げるほど出てくる。
「まあ、それでも呼ばれたんだ。行くしかねえだろ」
リュークは手紙を綺麗に折りたたんで仕舞ってそう言い放った。
「ふむ……やはりリュークは行くのだな」
「ああ、よくわからないが罠とかそういうのとは考えられない。俺に罠を掛ける意味が無いし、罠だったとしたら不自然な点とか不審な点は無くすだろ」
「確かにリューク様のおっしゃる通りですね……」
「ってことは……これは『超緊急事態』ってことだ」
「それこそ……国がヤバい、みたいなレベルかもね〜」
「ああ、だから俺は行くことにする。ゴーガン、王都に行く馬車は?」
「ああ、明日の朝こちらが手配しよう」
ゴーガンは馬車を用意するためにギルドから出て行く。
「リューク、あんた大丈夫なの?」
「依頼内容とか聞かない限りわからないがな」
「ふむ……ならばリュークよ、私もついて行こう」
「はあ?」
アメリアは顎を手に当てて考えるようにしてから、リュークにそう告げる。
「なんでだ? 俺に来た依頼だぞ?」
「確かにそうだが、この依頼は不安要素がありすぎる。これでもS級冒険者だ。力になれるだろう」
「そ、それならあたしもアメリア様についていきます! 別に、あんたについて行くわけじゃないんだからね! か、勘違いしないでよね!」
「サラ、全く可愛くありません。率直に言うと――キモいです」
「お、お姉様!?」
「サラ〜、今のは擁護出来ないよ〜」
「エ、エイミーお姉様まで……」
リュークはサラがダメージを受けて涙目で俯いているのを横目で流して。
「それはいいのか……?」
「リューク一人で王都に来いと言われてるわけではないだろう、大丈夫だ」
「屁理屈だな……」
リュークは苦笑を浮かべる。
「お姉ちゃん、私達はどうしようか……」
「そうね……私達はまだアメリア達みたいに強いわけじゃないから……」
「お前ら二人は少し危険過ぎる、一応罠の可能性は否定しきれない」
「そう、よね……」
「……うん、わかった」
リュークに来なくていい、と言われて落ち込むアンとアナ。
「お前らは俺がいない間もここで鍛錬続けろよ、絶対――戻ってくるからな」
リュークは俯いて落ち込んでいる二人の頭を撫でながら約束する。
「……そう、ね。わかったわ。必ず戻って来てね、リューク」
「……うん。お兄ちゃん、待ってるからね」
「おう、待ってろよ」
アンとアナは落ち込みを隠すように笑顔でリュークにそう伝える。リュークも応えるようにして笑顔でそう告げた。
「よし、じゃあ今日はアンとアナの一人前になったのをメリーの家で盛大に祝おうってことになったんだが、アメリア達も来るよな?」
「もちろん行かせてもらおう」
「お〜、アンちゃんとアナちゃんもう一人前になったんだ〜。凄い早いね〜」
「おめでとうアン、アナ。凄いわね」
「ありがとう皆んな!」
「ありがとね」
アンとアナはアメリア達に祝福の言葉を言われて朗らかに笑う。
こうしてメリーの家で、アンとアナの一人前を祝うことになったのは八人となり、予想より多く祝うことになった。
メリーも今日は早めに仕事を終え、全員でメリーの家に帰って祝福をする。
暫しばしの別れを惜しむように、その祝福の宴は夜遅くまで続き、時間もゆっくりと過ぎていった――。
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