第49話 王都到着


 リューク達が王都に向かい始めて四日が経った。今は森の中を狼車が走っていて、メリーがネネとルル手綱を握っていた。他の四人は狼車の中で座ったり寝っ転がっていた。一日目は揺れて寝るどころか座れもしなかった、テレシアは例外だったが。

 しかし、今はアメリアが倒した『ウォールシープ』という羊の魔物の毛皮を敷いているので快適に過ごせている。『ウォールシープ』の毛皮は貴重で、市場などにも見られることはほとんどなかった。強さはそこまでだが、巨大な身体にも関わらず見つけるのが困難という魔物で有名であった。


「すっごい柔らかい~。アメリア様に感謝です~」

「顔を毛皮に埋めて礼を言われてもな……」

「そうですよエイミー。こういう時に活躍するのがすごい稀なアメリア様に感謝の意が伝わっていませんよ」

「テレシア、お前は感謝してるのか?」

「さすがアメリア様です! こんな貴重でレアな魔物を見つけるなんて!」

「いや、見つけたのは俺だけどな」

「魔力感知の広さが半径二キロで見つけるのはお見事です。それにアメリア様が水魔法で倒してしまったので、毛皮は水浸し……。リューク様の混合魔法で熱風を出して乾かしてもらわなかったらその日のうちに使えませんでした」

「あの魔法すごいよね~、うちあんな繊細な魔法出来ないよ~」

「そうですね、私も出来ません。火属性と風属性の混合魔法。加減を少しでも間違えると毛皮を燃やしてしまします」

「練習すれば出来ると思うけどな。攻撃魔法ばっかやってるとあのくらいの規模の魔法は逆に難しいかもな」

「リューク君すごいね~、感謝だよ~」

「……最初私を褒める流れじゃなかったか?」

「あ、あたしはアメリア様のほうがすごいと思いますよ!」

「慰めはいいサラ……」


 こうして森を走っていると、太陽が沈んでいく。辺りが暗くなり、目の前の道が見えなくなる。そこでようやく野宿の準備をする。と言っても、雨は降っていないし風もほとんどないのでテントを張らずに、夕食の準備として火を起こすだけだった。


「まさか一日目から今日のお昼まで本当に鶏肉を食べるとは思わなかったよ~」

「二名ほど、鶏肉を希望した者がいたので」

「……誰だろうな、サラ」

「さあ、見当もつきませんね」

「まあ今日は『ウォールシープ』の肉だから。テレシア、メリー、また頼むな」

「はい、任せてください」

「お任せください」


 リュークは異空間から魔物の肉を出してサラとテレシアに渡す。料理できる者がこの中では二人だけだからだ。ほとんど丸焼きに近いが、少しだけ味付けを加える二人。

 その間、リュークはネネとルルに生肉を与える。二匹は嬉しそうにそれを食べて、腹がいっぱいになると寝始める。


 そしてリューク達も夕飯を食べ終え、寝る準備に入る。三人は狼車の中で寝て、一人はリュークが持ってきたベットで寝る。リュークは一番寝にくいハンモックで寝る。四日間で女性陣がリュークのベットを一人一回ずつ使っていた。


「わ~い、今日はうちがリューク君のベットだ~」


 エイミーは飛び込むようにしてベットに入る。


「う~ん、柔らか~い」

「どうだ?寝にくくないか?」

「うん~、気持ちいいよ~。それにリューク君の匂いがするよ~」

「俺最近ベットで寝てないが……臭くないか?」

「いい匂いだよ~、安心する匂い~」

「それは良かった」

「リューク君、一緒に寝る~?」

「いや、二人じゃ狭いだろ」

「そんなことないよ~、詰めれば寝れるよ~」

「俺はいいよ、エイミーが快適に寝れればそれで」

「えへへ~、そっか~」

「――だからバカップルかっ!!」


 サラの叫びが森に響いて、四日目の夜は更けていく――。



 ――そして五日目の朝。

朝飯を食べ、出発の準備をする。昨日に引き続きメリーが最初に手綱を握り、片付けなどをして出発する。


「今日のお昼くらいに王都に着く予定ですね」

「長かったな……そういえば王都って名前ないのか?『ヴェルノ』とか『チェスター』みたいな」

「あるわよ、『王都サザンカ』って名前ね」

「サザンカ王国だから王都サザンカなのか。わかりやすいな」

「そういえばさ~、王様からの依頼ってなんだろうね~」

「正確に言うと王国の宰相からです」

「確かにそうだな。やはり私は罠の可能性が高いと思うが……」

「うちはあれだな~、王様の命が危ない! みたいな依頼だと思うな~」

「暗殺とかですねエイミーお姉さま。あたしもそう思いますね」

「私はアメリア様と同じように罠の可能性が高いと思うですが……リューク様を狙う方が王都にいるかどうかですね」

「あいつはどうだ?S級冒険者のルーカス。あいつ王都に呼ばれたんじゃなかったか?」

「そうなのですか?それならルーカス様がリューク様を狙っている可能性がありますね」

「ということは今回の王都の依頼はルーカスってやつの罠って可能性が一番高いってわけね」


 しばらくして、リュークはメリーと交換するために立ち上がり、狼車の中にメリーが入ってきた。


「お疲れ様ですメリー様」

「あ、お疲れ様です」

「メリーちゃんは今回の直接依頼はどう思ってるの~?」

「あたし達の見解はルーカスの罠ってことになったけど」

「そうですね……わかりませんが、ルーカス様ってことはないとは思います」

「なぜだ?」

「ルーカス様は王都のギルドに呼ばれて懲罰ちょうばつを受けました。ルーカス様は決闘において何回も人を殺していました。今までは故意ではないと判断されていましたが、リューク様との決闘で故意という事がわかりましたので、これから何か問題を起こしたら死刑という事になりました」

「死刑!? そんな重い懲罰になったのか!?」

「はい。即刻死刑という可能性もありましたが、S級冒険者という事もあり、今後の活躍を見て死刑は先延ばしになりました」

「ふん、いい気味だわ」

「それですとルーカス様の罠ってこともないですね……」

「結局わからないことだらけで王都に着くことになるな……」


 数時間後、リューク達は森を抜ける。すると目の前に王都の外壁が現れる。ウェルノの街の外壁も高さ二十メートルあったが、王都の外壁は四十メートルほどの高さだった。


「でけえな……。すげえ」


 リュークがそう無意識に呟いてしまう。

 そして数十分後、狼車は外壁の前に着く。門の前に行くがそこは誰もいなかった。


「あれ?門番さんは?」

「おかしいですね……何回か王都に来たことあるのですが、門番がいないという事はなったのですが」


 しばらく待つと、鎧を纏った一人の男性が近づいてくる。


「す、済まない。待たせてしまった」

「いや大丈夫だが、何かあったのか?」

「いつもなら何人かは門番の仕事をしてるんだが……今王都は少し混乱に陥っていてな。対処とかで忙しくてここまで手が回っていなかったんだ」

「王都が混乱って……何があったんですか?」


 メリーが門番さんにそう問いかけ、門番の男性は答える。



「クラウディア=サザンカ王が、退位を表明したのだ」

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