第50話 王都ギルド


 リューク達は門を通り、王都の中に入っていた。王都の街中を眺めると、人々が噂を口々に言うように話していた。その噂とは、まだ正式に発表していないが『国王の退位について』であった。

 リューク達が乗っている狼車、グレートウルフにほとんどの人が気づかないぐらいに街の人たちは混乱していた。


「見事にこっちを見ないな、というか見ても本当に気づかないのか、気づいても気にする余裕がないのか」

「後者ですかね……国王が退位を表明するだけでこんなに王都が混乱するとは」


 テレシアが言うように、普通の国王であれば退位すると表明しただけだと、「次の国王はどんな人だろう」ぐらいの話しか出ないだろう。

 しかし、『クラウディア=サザンカ国王』は違った。サザンカ王国歴代最高と称されるほどの国王がいきなり国王を辞めるとなり、街の人は混乱に陥っている。


 なぜ辞めるのか? 国王はまだ四十歳にも達していない。その若さで既に最高の国王と言われていたので、これからの活躍にも人々は期待されたいた。それが今回の騒ぎの理由の一つとなっている。

 次の王は誰になるのか? 国王は結婚している。しかし、国王と王妃との間に子供はいない。子供がいないので次の王様が決まっていない。王様や王妃は兄弟もいないので更に混乱を招いている。


「結局、リュークが呼ばれた理由がわからないわね」

「そうだな……だが、この騒ぎに関わることだとは思うがな」

「そうですね……とりあえず、王都のギルドに行きましょう。そこでリュークさん達のギルドの手続きなどもして、ギルドマスターを通じて王城に連絡してもらって宰相にリュークさんが来たことを伝えましょう」


 メリーの提案により、リューク達は王都のギルドに向かっていた。そしてギルドの前に着いて狼車から降りて、ネネとルルから手綱を外してあげる。


「ネネ、ルル、お疲れ様。ゆっくり休めよ」


 リュークはネネとルルの頭を撫でてからギルドの中に向かう。


 リューク達がギルドの中に入ると、冒険者達が全員チラッとこっちを見る。そして目線を戻すが、またすぐにこちらを見る。リューク達のほうに二度見するものがいるらしい。


「おい、洪帝のアメリアだぞ……」

「マジか……俺最近王都に来たばっかだが、やっぱり王都ってすげえな。数少ないS級冒険者がいるんだからな」

「綺麗でいい女だな……胸ないけど」


 最後の男の小さく呟いた声は聞こえなかったらしいアメリアだが、ギルド内の喧騒の理由が自分にあることに胸を張って自慢するように歩いていた。


「……忘れていたが、アメリアってS級冒険者で有名人なんだな」

「S級冒険者は世界で十人ほどしかいません。最近なったばっかりとはいえ、アメリア様の名は知れ渡っています」

「本当はすげえんだな、アメリアって」

「リュークよ、本当はってなんだ」

「いやだって……ここ最近ダメなアメリアしか見てなかったから」


 ――家事はできない、ジャンケンで負けて宿を追い出される、胸のせいでクランを脱退、魔物を倒したのに素材をダメにしかける。


「た、確かにそうかもしれないが……」

「アメリア様は外面そとづらはいいですからね~、外面は~」

「エイミー、なぜ二回言ったのだ。それにそれでは内面が悪いみたいじゃないか」

「そんなこと言ってませんよ~、アメリア様は早計だな~」

「アメリア様は素敵な方ですよ! あたしが保証します!」

「サラ、貴女に保証されてもアメリア様が可哀そうなだけです」

「えっ!? テレシアお姉様どういうことですか!?」

「自分の胸に問いかけなさい」


 四人がそう話してる間、メリーはギルドの受付嬢と話していた。


「サーニャ、よろしくね」

「めんどくさいにゃ……なんでうちに頼むのにゃ……」

「従姉妹いとこだからお願いしてるのよ」

「従姉妹だからこんなめんどくさいこと頼まないでくれにゃ……」


 リューク達はメリーと話してる人に近づいていく。


「メリー、その人は?」

「あ、リュークさん。紹介します、私の従姉妹のサーニャです」

「サーニャにゃ~、よろしくにゃ」


 サーニャと名乗る女性――茶色の短髪を持ち、メリーと同じように狼を彷彿とさせる耳がこれからの仕事を面倒だというかのように垂れ下がっていた。メリーとはあまり似てないが、王都のギルドの受付嬢を代表するほどの美少女であった。


「ああ、よろしく」

「アメリア様達もよろしくにゃ~」

「よろしく頼む」

「ところでサーニャはなぜ語尾に『にゃ』をつけてるんだ?」

「リューク君みんなが気になってるけど聞けないことをズバッと聞くね~」


 王都のギルドに来たことある人や、働いてる人がサーニャに対して一度は疑問に思うことをリュークは口にする。今までは誰も聞かずに、聞いてもサーニャに睨まれるから答えを聞けなかった。


「リューク君は怖いもの知らずだにゃ~。だけど……ヒミツ、にゃ」


 リュークの口に人差し指を当ててウインクをして妖艶な雰囲気を出すサーニャだったが――。


「あ、サーニャのそれはただの『キャラ付け』ですよ――」

「――おい何言ってんだお前」


 ――突如、身内に暴露されて言葉遣いも荒っぽくなり『キャラ付け』も一瞬忘れる。


「あっ……にゃはははは、何言ってるのかにゃメリーは! そ、そんなことあるわけないにゃ!」

「え? だってあなた小さい頃は普通の喋り方だったでしょ」

「だからお前マジやめろよおい」


 誤魔化すように笑ったサーニャだったが、メリーの一言にすぐに真顔になりメリーに詰め寄る。


「と、とりあえずギルドマスター呼んでくるにゃ! そこで待ってるにゃ!」


 逃げるようにしてサーニャはギルドのカウンター内に入っていきギルドマスターを呼びに行く。


「すいませんリュークさん……従姉妹が失礼を働きました」

「いや、大丈夫だが……」


 しばらく待つと、サーニャと共に一人の『男性』が出てくる。


「あっら~~、いい男じゃな~い! 十二歳って聞いてたからどんな子供かと思ったけど私の守備範囲だわ~!」

「紹介するにゃ、王都のギルドマスターにゃ」

「ギルドマスターのシアちゃんよ~! 気軽にシアちゃんって呼んでねぇ!」



「メリー……王都サザンカ、なんか『濃い』ぞ……」

「すいません、なんかすいません」

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