第51話 王城へ
「可愛いわね~! この後暇? 一緒に遊ばな~い?」
「いや、暇じゃないから。この後王城に行かないといかないから。ギルドマスターのお前がやらないといけないんじゃないか?」
「あら? シアちゃんって呼んでくれないの~?」
「……シアでいいか?」
「い・や・よ。シアちゃんって呼んでくれないとダ~メ」
「……シアちゃん」
「は~~い! な~に、リュークちゃん?」
「誰か、助けてくれ……初めてだ、精神的攻撃をされるのは……」
「リュークがこんなにダメージを受けてるところを初めて見たぞ……」
シアちゃんと名乗るギルドマスターに腕を抱きつかれてるリュークは、両親の元を離れてから初めて攻撃を食らっている。それをアメリア達は信じられないような顔つきで見ていた。
「なんだこの生命体は……初めて見る生物なんだが……」
「あら失礼ねリュークちゃん、心も身体も女の子の私にそんなこと言うなんて」
「いや、心はどうか知らないが、体はどう見てもおと――」
「――何か言ったリュークちゃん」
「ごめんなさい何も言ってません」
「リュークが敬語で謝ったぞ!?」
リュークが人生で初めて敬語を使った瞬間であった。
「グランシアさん、早く仕事するにゃ」
「やだわサーニャちゃん、そんな男っぽい名前の人知らないわ」
「おい早く仕事しろよ」
「化けの皮剥がれてるわよ」
「……シアちゃんさん、仕事するにゃ」
「さん、はいらないわ。シアちゃんって呼んでね」
「吐き気するんだよウインクやめろハゲ」
キャラ付けをしているサーニャが何回もその化けの皮が剥がれてしまうほどのキャラをグランシア――シアちゃんは持っていた。
シアちゃんは身長は一八〇を超えていて、髪は剃られていていわゆる坊主である。口紅を厚く塗っているらしく、唇が鮮やかな色をしている。
「仕事ならもうしたわよ、王城にはすでにリュークちゃんが来たことを連絡したわ」
「さすがですグラ……シアちゃん、助かります」
「いいのよメリーちゃん、王都のギルドマスターなんだからこれくらいしないと」
「いちいちウインクするんだな……」
「あら、洪帝のアメリアちゃんね。後ろの子たちもよろしくね」
シアちゃんはアメリア達に向かってもウインクをして自己紹介する。サラだけは露骨に引いていた。
「アメリアちゃんS級冒険者おめでとっ! お祝いにキスしてあげよっか?」
「いらない、全力全霊で拒否する」
「もう、恥ずかしがり屋さんね」
シアちゃん達がカウンター前で話していたことをギルド内の冒険者の人たちが聞いていたらしく、
「おい……あの男のガキ、噂のSS級冒険者のリュークってやつなのか!?」
「あんなガキだったなんて……だけどあいつあのルーカスに勝ったんだろ」
「ああ……あのルーカスか……」
リュークの噂は王都にも届いていたらしく、皆みながそう口にする。
しかし、ルーカスの名前が出てから不穏な空気が漂ただよう。
「そういえばリュークちゃんがルーカスちゃんを倒したんですってね! すごいわ! あの子はやんちゃしてたから困ってたの。シアちゃん助かっちゃった」
「そ、そうか……それは良かった」
「王都のギルドに呼んで……私が直接『お仕置き』してあげたの! ウフフ、『美味しかった』わ」
「ルーカスマジごめん。自業自得だと思うけどホントごめん」
ギルド内の冒険者が全員遠い目をしてルーカスを思って合掌していた。
「死刑を免れただけで罰が軽いと思っていたが……なかなか厳しい罰を受けていたんだな」
「アメリア様、これはどんな罰より厳しいかと……」
「死ぬよりは厳しくないんじゃないかな~……多分」
「言い切れないですね、エイミーお姉様……」
「あの子馬鹿よねえ~、S級なのにSS級冒険者のリュークちゃんに挑むなんて。今まで負けたことなかったから負けるなんて思わなかったそうよ! 私が丁寧にやさ~しく聞いたら答えてくれたわ」
「サラ~、やっぱ死ぬより辛いかもね~」
「想像するだけで吐き気がしますお姉様……」
アメリア達も遠い目をして合掌をしているとギルドの入り口から勢いよく入ってくる人物がいた。
「グランシア殿!! SS級冒険者のリューク殿が訪れたとは真まことか!?」
「もう……シアちゃんだって言ってるのに。本当よ、彼がその男の子」
シアちゃんはため息をつきながらリュークを紹介する。
「おお、この方が!? お初にお目にかかるリューク殿! サザンカ王国宰相のバルトロじゃ!」
「リュークだ。よろしく」
バルトロがリュークに両手を差し出して握手をする。
「思ったよりだいぶ若いのですな。もっと大男かと勝手に思っておりました」
「まあ勝手に想像するのはいいが……俺ではご不満だった?」
「いえ、そんなことは! 剣神様と魔帝様以来のSS級冒険者でしたら実力は疑いの余地がないかと!」
「そうか。しかし、王都なんだから強い奴はいっぱいいるんじゃないか? シアちゃんとか強いだろ?」
「あら? リュークちゃん褒めてくれるのはキスしたくなるくらい嬉しいけどなんで私が強いってわかったのかしら?」
「抱きつかれたときの筋肉の締まり方が尋常じゃなかったぞ。ギルドマスターなんだから元A級冒険者以上とかじゃないのか? あとキスは遠慮する」
「そうね、一応元S級冒険者だったわよ。遠慮しなくていいのに」
「えっ、グランシアさん元S級冒険者だったのかにゃ?」
「そうよサーニャちゃん、あとシアちゃんって呼んで」
「だからウインクをうちに向かってするなぶっ殺すぞ」
サーニャから殺意が膨れ上がったが特に気にせずに話を続ける宰相のバルトロ。
「それが今回の依頼は……SS級冒険者じゃないと達成できないものでして……」
「なっ!? そんな難しい依頼があるのか!? S級冒険者が達成できない依頼など聞いたことないぞ!?」
アメリアがバルトロの言葉に反応してギルド内に響く声で言ってしまい、ギルド内の冒険者達もざわめきだす。
「ここでは内容のほうは少し……」
「まあ手紙にすら書けないことをここで言うわけにはいかないよな」
「アメリア様、大声を出しすぎです」
「アメリア様静かにね~」
「うっ……すまない」
「いじけるアメリア様も可愛いです……」
「ということで、リューク殿には王城に来てもらいたい! そこで詳しくは説明させて頂くということに」
「わかった、アメリア達も呼んでいいか? こいつらS級冒険者とA級冒険者なんだが」
「リューク殿のお連れの方なら大丈夫かと! それに強いお方なら誰にでもすがりたい状況ですので」
「じゃあアメリア達も来てくれ。メリーは来るか?」
「私はサーニャと手続きをしないといけませんので」
「ああ、そうだったにゃ……めんどうにゃ……」
「わかった、じゃあ行くのはこの五人ってことで」
「承知しましたぞ! では外に馬車を用意してあるのでこちらに」
こうしてリューク達は宰相に連れられて馬車に乗って王城へと向かった。
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