第52話 国王と王妃
リューク達を乗せた馬車は王城の正面からではなく、裏口のようなところに入っていく。
「すいませんな、正面から入っては少し今騒ぎになってるので面倒なことになってしまうことになる可能性があるゆえに裏から入らせて貰いましたぞ」
「大丈夫だ。今回のこの騒動が原因で俺は呼ばれたのか?」
「ある意味はそうですな。もう少し早く来ていただければこの騒動は起きなかったかもしれません」
「そうはいっても、あたし達は手紙が来てからすぐに来たわよ。ネネちゃんとルルちゃんも速かったし、これ以上早く来るのは無理だったわ」
「いえ、責めているわけではありません。それに早くても遅くてもこの騒動は免まぬがれなかったとも思います」
「バルトロ様、今回の騒動はどういうことなのでしょうか?クラウディア=サザンカ国王が退位すると耳にしたのですが」
「このままですと噂通りのことが起こりそうなのです。さて、まずは王城にお入りください。続きは応接室でお話ししますぞ」
リューク達は王城に入り、豪華な物や煌きらびやかな装飾に驚き感嘆しながらもバルトロの後に続く。
一つの部屋に通され、豪華で綺麗な装飾がなされた白のテーブルクロスが敷いてある膝下くらいまでのテーブルを囲むように、これまた金色の煌びやかなソファが並んでいた。
「そちらに座っていただけますかな」
バルトロに促されリューク達は四人が優ゆうに座れるソファに腰掛ける。リュークやアメリア、メリーは特に気にせず普通に座ったが、サラは少し硬くなり丁寧に腰掛けた。テレシアはいつも通り腰掛けるが、洗練されたような上品さがそこにはなぜかあった。
「さて、まずはどこから話すべきか……。そうですな、まずはなぜリューク殿を頼ったのかを話しましょう」
リューク達が座るのを待ってから、バルトロは口を開く。
「今ご存知の通り王都、いや、知れ渡ってしまうでしょうからこのサザンカ王国は混乱状態に陥っております。それはクラウディア=サザンカ国王の退位表明です」
「ああ、それは王都に着いた瞬間に聞いた。そのクラウディア国王が退位する理由を教えてくれ」
「……ここからは内密でお願い致しますぞ。この事は王城の中でもごく一部にしかまだ知られていないのです」
そう前置きをしてからバルトロは重い口を開く。
「実は――」
「――そこからは私から話そう」
――突如応接室の扉が開き、そこに立っていた人物がバルトロの説明を止める。
全員が扉のほうを向くと――。
「く、クラウディア国王!!」
バルトロはすぐに立ち上がり、その人物――クラウディア=サザンカ国王に頭こうべを垂れる。
続いてアメリア達も立ち上がりバルトロに倣ならうように頭を垂れる。リュークは意味が分からずにとりあえず立ち上がり、周りの真似をした。
「いい、君たちは客人だ。楽にしたまえ」
クラウディア国王はゆっくりと歩き応接室に入ってくる。
髪は金髪で短く揃え髪と同じように金色こんじきの目をしている。整った顔立ちで若く見え、四十近い年齢には全く見えない。
「バルトロよ、そなたが私に黙ってこの者達を呼んだことに何か言いたいことはあるか?」
クラウディア国王はいまだに頭を垂れて顔を下に向けているバルトロを鋭く睨みながら問う。
「ご、ご無礼を承知で申し上げます。私は国王に……退位して欲しくない一心で……」
「……そうか。しかし、既に決めたのだ。もう取り消すことはない」
「考え直してください国王!!貴方様はまだこの国に必要な存在です!!」
「あのさ……話に入り込んで悪いんだが……説明してくれないか?」
リュークがその場で恐る恐る手を挙げて発言する。
「うむ、済まなかったな。君たちを無視するようなことをしてしまった。まあ掛けてくれたまえ」
立ち上がっていたリューク達はまた豪華なソファに腰掛ける。前に宰相のバルトロと、国王のクラウディアも腰掛ける。
「さて……私が国王を退位する理由だったな。それを話すには紹介する者が一人いる――マリアナ、入ってくれ」
クラウディア国王が扉のほうにそう呼びかけると、一人の女性が入ってくる。
煌びやかな金色のドレスを纏まとい、しかしそのドレスに見劣りを全くしない綺麗な黄金色の長い髪。
人では表せない美しさを身にまとったその女性は優雅にリューク達のほうに歩いてくる。
「紹介しよう、私の妻の――マリアナ=サザンカだ」
その女性――マリアナ王妃の隣に立ち紹介するクラウディア国王。美男美女。絵になる立ち姿であった。思わずサラが感嘆の声を漏らすのも頷ける。
しかし――。
「クラ君、私わたくしはこの方たちと知り合いでしょうか?」
――高く澄んでいて聞き惚れるようなその声で言った言葉に息を詰まらせる。
「いや、マリとこの子達は初対面だ」
「そうですか……初めまして、マリアナ=サザンカです」
優雅に一礼するその姿。見事に洗練された動作で見た者に感動を与えるような所作であった。
しかし、もう感嘆の声を出す者はいなかった。
「……クラウディア国王、これはいったい……」
マリアナ王妃の言葉に衝撃を受けて、なんとか立ち直ったテレシアがクラウディア国王に問う。
「私の妻――マリアナは記憶喪失なのだ」
顔を少し歪めてクラウディア国王はそう言った。
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